表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/222

デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス~ Ⅵ

「……っっっぅぅ!? でぇえ、でわぁあああああああああ、開始ぃいいいいいいいいいい!」


 その遅れた号令。


 どうやらフライングにはならなかったらしい。らしくない。急いてしまった。いいや、らしくは……あるか……。変な汗が背中をなぞり落ちた。


(鈍っているな……。分かっている。失敗が許される環境に長いこと漬かり過ぎたのだ……。学園程ではないが、ここにも許容はそれなりにある。だから、助かっているのだ。もしこれが、ルールを強要する類の魔法が張られた場であったなら、今のでもう終わっていた可能性すらある。……。変わらないか。失格を言い渡される危険は依然、存在する。……。どうやら、私は自身が思っている以上に、惑っているらしい)


 少年は、敵である五人の前に既に到達していた。瞬く間に。


「な!」

「馬鹿ナ……」

「受けるワよ!」

「オレは逃げる」

「知るか、こんなの!」


 声は、どれも同じ声。男声か女声かも分からない、歪んだ、無機質な声であるが、発生個所は、それぞれの仮面の、口があるであろう位置から。


 そのことから、分かる。


 敵はこの状況を想定済みだ。これは、崩された、振り、だ。とはいえ。この剣の特殊効果までは読める筈もない。心を読めるなら、彼らの初動は誘い受けになんてまずならない。


 つまり、どう転んだところで、タダ取りだ。中身入りの当たりを引けたならなお良い。……。待て。当たりが無い可能性を無視していないか……?


 ……。魔法を斬ることにそれなりの意味がある。だいぶ、やり辛くなる筈だ。


 横薙よこな一閃いっせん。手応えは、無い。


 剣の微かな輝きが、魔法の切断という結果を一応示していた。


 わざと、後ろを向く。自分一人突出したのだから。残してきた皆の方を見たのである。


 展開された、泥水色の、粒の大きな蒸気。


「ぐふふふふふ。【泥の触手よ。卑猥ひわいなるその暴威を振るうがいい】」


 女の声だ。ねっとりとした、じめっとした。


 自身の足元。不快な泥だまりに漬かったような感覚。つまり、鎧を浸透してきた、ということだ。この魔法の全身鎧を。


(この手の魔法を、男に、だと? 想像力が足りないのか、想像がつかない。こちらを無力化させるという最低限の目的までは読めるが……。何せ、その先があったとして、誰が喜ぶ……?)


 観客席を見渡そうとするも、自慢の視力でも、影絵にしか見えない。そういう処置が施されているフィールドであるということである。


 冷静に、脚力頼りに、瞬発的に蹴り出す。跳び上がる。全身が軽く浮かび上がる。数メートルの高さまで。


 回転しながら、剣で、そびえ、おぞましく、せまってくる数多のそれらを、ただのカタチ無き泥に戻す。


 視界の端に、映った。彼女たちの側にも、それは、広く展開され、迫っている。


 しかし、自分のようにかるヘマはしていない。それどころか、彼女たちの側では、泥沼の形成まではされているが、その先。泥のうねる触手が一本たりとも出現していない。


「んなもん! カタチにさせなきゃ余裕だ! シューイット!」

「ええっ!」


 呼応するかのように、それは発動した。シューイットがその泥の触手から、形や指向性を失わせ、無力な泥に還元する。それを、ガリアスが、無詠唱で唱えられた魔法により、利用する。


 ボトッ、ボトッ、と空中で形になり、地面に落ちる、泥色の、どっしり、ねっとりとした、糞色くそいろのスライム。


「さあて、手綱は誰のもの?」


 シューイットがそう、お約束と言わんばかりに、ガリアスに尋ねる。が、


「当然、俺のっ…―! ……。不味ぃわこれ。操れねぇ……」


 想定していなかった答えが返ってくる。


「大丈夫です! 一か所にまとめてくれて、理想的です!」


 青藍せいらんがそう言って、それらを、影ではなく、純然たるやみで、み込んだ。


「はっ……! 空間魔法!」


 ゲリィが、そう、嘘だろ、と目を丸くしていると、


「多分パスは切れました。そのまま御返ししちゃいます!」


 青藍せいらんは崩れた大質量の粘り気のある泥に成り果てたそれを、明後日の方向にぶっ放す。


「っ!」

「ぃぃ?」

「むっ!」

「まじかぁぁ……」


 四人の反応はそんな風に置いてきぼり。少年はというと、


「成程。最初から隠れ潜んでいた、ということか。ありなのだなそれも」


 と、一人納得しながら、空中から、高速で突っ込んでいく。


(ハメを外しているというか――ふふ、たのしそうで何よりだ)


「やれは、しないです! ですが、しばらくは保つかと」


 少年が到達するより前に、塊は着弾していた。


 大質量、大口径の放水というか、洪水というか。激しくぶつかり、障壁に弾かれる。青紫色の障壁は強固に展開され、その先に、二人、見える。


 先ほど少年が仕留めた筈の五体のうちの二体が、そこには立っている。


 黄色の宝玉を仮面の額につけた一体と、青色の宝玉を仮面の額につけた一体である。背格好も変わらない。他の三体は切断されて倒れたまま。


 その二体だけが中身あり。


 その二体を隠すが為の、先の五体。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ