デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス~ Ⅳ
少年が想像していたのは、昼の空。雲の上、のような光景――であったが、現実は違った。
地面がある。石畳の敷き詰められた、きっと、平らなフィールド。全容は、煙のような靄で、見えない。仲間たちのは近くにおり、見える。
いきなり転移、しかし、バラバラの場所に転移とはならないというのは保証されていたからこそ、先ほどの作戦会議であった訳なのだから。
「その時々にならないと設定された時間帯は分からないようになってるのよ。どうやら今回もそれは変わらないみたいね」
シューイットがそう言う。
「特定時間帯に異様な効果を発揮する魔法もそう珍しくはないからな。あんちゃんもそういう魔法持ってたりするのかい?」
ガリアスがそう、少年に尋ねる。
不意打ち、一瞬での決着、を防ぐ為の措置として、敵側も、こちら側も、相手を視認できない。受けるにあたっての最低限の情報の中にそれは含まれていた。時間帯が未定なところも。だが、分からないことは多い。それに、通常とは、色々と違うというのも、その最低限の情報の中に含まれていた。
「一応」
少年は短く答え、そして、シューイットに尋ねた。
「シューイットさん。競技中も時間は経過するだろうか?」
「するね。普段通りなら、この辺りの星の巡りの速度と変わらない運行が敷かれている筈だから、寒暖差とかを気にする必要は無いわ」
シューイットは、少年が求めている答えを粗方示してくれた。
「成程。そうなると、ある意味、純然たる夜よりも、やりにくそうだ。まさか、黄昏、とは」
少年は、そう、口にした。朝と夜の境目。目に頼る、時間帯に頼る、そんな類の魔法使いなら、相当厳しい時間帯といえる。少年のそれは、光という属性故、実は結構な影響があったりする。威力の減衰云々の話ではなく、それぞれの魔法の使い勝手や運用そのものが、変わってくる。
「仮にもイベントだからね~。特別感あっていいじゃあない?」
気楽そうなアイシャ。それは、少年の固くなっている表情や頭を柔らかくさせる狙いがあったのだろうが、
「報酬がしみったれていたのなら、そう在れたが……。では、皆さん。手筈通りに」
生憎、少年は、その辺り実に残念な人物であった。真面目過ぎるというか、つまらない人間であるというか。冗談も通じないし、意識せねば気も利かせられない。
「それ俺らの台詞なんだわな」
と、少年の肩を、パンッ、と音だけやけに大きく出して、そう激しくなく叩いてみせる、ゲリィ。
「分かりにくいけど、それ、多分、武者奮いです。ライトって根本的なところが騎士なんで。それも、聖騎士とか騎士団長のそれなんで」
彼女が、バツの悪そうな感じでそう、補足した。どこまで言っていいか分からないが、それでも言った。少年が最も嫌に思うのはきっと、誤解されることだ、と彼女は汲んでいたから。けれども、少年のその、栄光ある未来を自ら捨てたという事実が、少年にとって、実際のところ、どれだけの後悔、重みになっているかは、分からない。そもそも少年自身にもきっとわかっていないのだから、心を見れても、答えはぼけて見えない訳で。
「ほぉん。そりゃ変わりものな訳だ。俺らも大概だがよぉ」
腑に落ちたという感じのゲリィ。
「どちらかというと傾奇者って感じじゃない? わたしは好きよそういう生き方。だって、まさしく、自分の未来を自分で決めたって感じがするもの。ライト君っ!」
テンションやけに高そうなアイシャ。
「悪意無くそういって貰えるのだから、少しばかり気も楽になる。変に気負わずとも良いというもの、どうやら本当にその通りに受け取って良かったらしい。騎士崩れではあるが、指揮の経験もそれなりにはあるので、先ほど言葉を交わすまでは皆さんを率いるつもりだった。もう、本当に気楽にやれそうだ。皆さんのお蔭で」
(この人たち、鋭いというよりは、もしかして、もしかしなくとも、これは人生経験からくるものか? 背景を少し読まれているな。この場合、頼もしいともいえる。自分の頭で判断して動くことができるということの証左なのだから)
「そうよ、ライト。気張らずいきましょ。この人たちは間違いなく頼りになるから。歪み無き、ちゃんとした大人の方々よ」
「そうはいっても、今の君のその服装が、私を少々不安にさせるのだよなぁ……。まあいい。雑念は脇に置いておくとしよう」
改めて見ても、その衣装は、じっと座ってるなら未だしも、動くとなると、色々と……。
黒のフリフリのレースのゴスロリチックなものであり、連ねられた、十字と鉄檻の一部のような意匠の髪留めは、何故か、頭を一周して、冠のようになっている。そして、肩から下は袖が無く露出していて、それでいて、手先には、黒い手袋。何故か、指先は貫通している。そして、靴は踵が高い、黒のグラディエーターサンダル。スカートは膝より上と、彼女の最初のそれよりもだいぶ短く、それ故に、ガーターベルトの紐が見えている。しかし、その色は、黒と、反射で見えてしまったときのとは別。
この衣装のままここまできてしまった彼女も彼女であるが、着せたであろうアイシャさんを止めなかった他の彼らという背景も浮き彫りになっており、故に、不安な訳である。彼らが、楽しむことを優先して、変な方向に行きそうな不安が漂っているのである。
しかも、そう致命的になったりしそうな気はまるでない辺り、ある意味たちが悪いといえる。