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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス~ Ⅲ

「成程。これはありがたい。皆さんの力は間違いなく連携向きだ。因みに、私の力は見ての通り、……。この通り。雷だ」


 と、指先に少年はそれを灯す。実は苦手である。細かく、加えて、維持、最小化、というのは。


「わたしはコレ、です。影を操れます」


 と、自身の影で、等身大の拳を作りだしていた。予め作って忍ばせていたらしい。その証拠は、部屋の余りの椅子の一つ。掲げられたその影の巨大な拳の上には、部屋の余りの椅子の一つを乗せて、掲げられていた。


 彼女の派手なそれに周りが気をとられているうちに、彼女の力による、一瞬かつ、無音の、高速な遣り取りがなされる。


(これでいいのか? 青藍せいらん……?)

(ええ。この人たちは、一般的な範疇はんちゅうでの魔法使いよ。学園の連中とは違うわ)

(だからって、力どころか属性まで偽る必要は…―)

(ライトのは特に。光属性なんて、どれだけ稀有だと? その本質は奇跡と希望。世界や国によっては、生きたまま素材にでもされるんじゃないかしら……?)

(……。初耳だが……)

(できる限り触れないようにしてたから。そもそも、ライトだったら狙われたとしても容易く切り抜けられそうだし。怖いのは、泣き脅されたとき。すがられたとき。貴方はきっと無視できない。奇跡的に無視を貫けたとしても、絶対に後に尾を引く。光の魔力は、容易くけがれる)

(詳しいな……)

(師匠によると、私の属性も、腹の中にいたある時点までは光、だったという見立てよ。尤も、魔女の資質があった時点で、ちるのは時間の問題だっただろうから、気にしても意味無いってことだったけど。不可逆なものらしいし。ライトは恐ろしいくらい安定してるらしいから。得ずして下積みを徹底した結果そうなっているだけ、っていう、奇跡も特別も何もなくて、必然そうなっている、っていう見立てよ)

(そんな畳みかけてこられても消化しきれないんだが……)

(だって説明しないと、ライト、ぽろっとらしそうだったし)

(済まない……。手間を掛けさせた。最近緩んでいるな、私は)

(それ位でいいのだと思うけれど)


 そう。話は一瞬で切り上げられた。


 なら、別にいつでもよかったのではないか?


 そんなことはない。何故なら――


「何だぁ? 内緒話か? いちゃつき過ぎだろぉ? 実はまだ熱々かぁ? 初々しいねぇ」

あおるなあおるな。でも、二人共、時間はそう残されてないだろうから、作戦きちんと決めようね」


 こんな風に、遣り取りの後の反応は、余韻を残すかの如く、尾を引く。それは感情であって、反応であって、それまで一瞬に圧縮してしまえる程便利でも万能でも無いから。


「う……。確かに」

「ごめんなさい……」


 そう。二人共々。謝った。


 確かに内緒話であり、図星であるのも相まって。素直に頭を下げた。






「結構君らって腰低いね。力はやけに強いのに」


 シューイットがそう尋ねる。


「そうだろうか……? あまり言われたことはないが……」


 少年がそう答える。


「ライト君はただ、見掛けの圧が強いだけ。それと強者特有のオーラみたいなのがあるから。でも、苦労人なんだろうね。不器用だけども。青藍ちゃんは多分、属性のせい、かな?」


 シューイットがそう、分析した結果を口にする。


 それは魔法ではない。ただの観察、考察。


 そして、自身に関するそれはまさしく、当たっている。苦労人というところ以外。だから、鋭いな、と少しばかり不安になった。先ほどの音無き会話。聞かれていない、と断定するなんて、自分にはできない。


つくろっているようだけど、無理しない方がいい。今更だけどさ。訳わからないことには訳わからないって叫んだっていいんだ。君たちはどうやら場数は踏んでいるようだけれど、恐らく今回のようなタイプのは未経験に見える」


 ガリアスがそう、あんちゃん、とも言わず、落ち着いた調子で言う。


 もう、考えても仕方がない、と少年は割り切ることにした。


「彼女は分からない。わたしはこの手のも慣れている。苦手意識がないとは言わないが。それに、今回のはいつもと比べれば随分ずいぶんマシで。なにせ楽しむ余地もあるし、報酬まで約束されている」


 いつもの調子で、落ち着きをもって、答えた。隣の彼女もそれにならうが――


「わたしも。今日だって、この間あった酷いことの埋め合わせなんです。ライトの…―」


 この辺りは経験値の差が如実に出た。少年は、隣の彼女の肩に触れ、言葉を中断させ、自分を見させた。彼女に、首を横に振り、やめておけ、と制止した。


「んん? 君らもしかして~、天から来たのかなぁ~?」


 いつの間にか、間に入るように、至近距離に、シンシャの顔があった。少年も彼女もびくん、となる。けれども、二人共、ひどく落ち着くのが早い。硬直はほんの一拍子で終わり、


「天……?」

「魔法使いの園のことを言ってるのでしたら、そう、です」


 そう、投げかけられた疑問に答えた。


「なら、これくらい生ぬるいわね」


 シンシャは腑に落ちた顔を。


「僕らは留学生として短期間滞在したことがあったり、依頼を受けて出入りしたことが何度かあった程度さ」


 ゲリィがそう根拠を補足する。


 他二人は、うんうん、と何か思い出しながら、大仰に頷いている。


「皆さんも無茶振りには慣れ親しんでいると」


 少年がそう尋ねると、


「悲しいことにね~」


 シンシャがそう、全然悲しくも疲れても無さそうに、愉しそうに答えた。






「恐らくは皆さんの察しの良さには絡繰があるのだろう。こちらにも、私と彼女の間だけの絡繰りがお察しの通り、ある。何れにせよ、明らかにすることを強要するつもりはないし、こちらも説明しない。そもそも、私は絡繰りを知らないし、彼女も言語化できるかどうか。ともかく、私たちのも、貴方方のも、干渉し合うことは少なくともない筈だ。だから、互いに、うまく合わせていこう。多少の戦術と連携の擦り合わせとニ、三の決め事程度最低限、と思っていたが必要無さそうだ。それで、丁度いい塩梅になるかと思うが、如何だろうか?」


 少年はそう、自分の出した結論を口にし、皆に問う。


(結局言うのだな……)

(ええ。その方がライトも引け目なくやれるでしょ? それに、この人たちも、わたしたちを試してる。それ位にこの人たち、鋭いわ。最初はライトにばっかり話してたけど、途中から私も含めるようになった)

(それは分かるんだが……)


「わたしはどうしよっか」


 指輪に手を掛けた、隣の彼女に少年は優しく言う。


「それはやめておいた方がいい。動きが鈍らない筈がない」


「そう……よね……」


「この後も続くのだから、受ける目線を厳しいものにする意味はない」


 そう口にして、先日のアレを思い出し、勝手につらくなる少年。


 彼女のそれはわざと。少年のそれは、自然。


 周りの彼らは優しかった。


「わたしら耐性装備持ってるし、抵抗もできると思うけど」


 シンシャは、そっけない口調でそう言った。そこに嘘偽りは無さそうである。


「こちとら飼い主サマが闇の魔の弩級どきゅうでね」


 ガリアスがそう、威には慣れていると腕を組んでいる。


「貴方方、魔女や魔王との対峙経験はありますか?」


 少年ではなく、彼女が尋ねた。


「それなりには」


 ゲリィが、どっしりとそう答えた。


「そうか。なら。青藍せいらん。私はもう止めない。どう、したい?」


 心配そうに少年がそう言うと、


「やめておくわ。ごめんなさい、皆さん、空気乱しちゃって……」


 彼女は、そう心底申し訳無さそうに頭を下げた。それは演技ではない。


「辛気臭いのはやめにしましょ。わたしたちはサポートに回るわ。補助魔法と類と、貴方たちの動線を邪魔しない形で、敵の阻害を行おうと思うわ。こういうのも何だけど、妨害については結構なものだよ。わたしたち」


 シューイットがそう、優しく励ますように、そして、ほんの少し、得意そうに言った。


 ゴォン、ゴォン、ゴォン――


 かねが、鳴る。


 それは、戦いの場への降臨の合図。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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