新たなる師、新たなる世界への旅路 Ⅴ
ズズズズズズズズ――グググッ、ゥオンンン――
少年は、引き摺ってきた【鉄馬】の遺骸を持ち上げ、荷台の底の渦へと、沈めた
「何だあれは?」
そう、食い入るように男は少年へ尋ねた。
少年が指先から放った、針のような白光の塊。それは、【鉄馬】の胴体に吸い寄せられるように曲がり、辺り、射貫いていって、【鉄馬】は、動きを止め、活動を永久に停止した。
だから、少年は、ただ、穴のあいただけで、真っ二つになっていないそれを、引き摺ってこれた訳である。
少年はすました顔で、荷台に乗り込み、
「街を抜けて、他の馬車から離れるまでの、荷物と布に囲まれてた間、全く眠れませんでした。その間、暇だったもので。手慰みに、試していたんですよ。だってあの魔法、一発放つだけで、私の限界を超えて疲労するんようではないですか。そんなもの、実用できる訳が無いじゃないですか。なら、どうすればいいか、というと、小さく、すればいい。そう思って、掌の中で試行していました。どうせ失敗なら、ちょっと疲れるだけですし、あのときの魔法でさえ、私自身を焼きはしなかったんですから、掌に風穴があくことはないと分かっていましたし。それに、やすやすと成功する類のものでも無い気がしてましたし、静かで、目立たなくて、誰の迷惑になる訳でもない。だから、丁度いいなと。で、色々やってみて偶々上手くいったのが、アレだったという訳です」
隠すこともなく、明かした。
「はぁ?」
「いや、説明したではないですか……」
「まるで、気づけなかった……。さっきの一撃、気のせいではなかったのか……。お前の魔法……魔力の起こりが、無いんだ。綺麗に、消されている。お前がわざわざ、発動に際して姿勢をキめなければ、お前自身の他に、誰もその起こりに気づけない……」
「異常なこと、なのでしょうか……」
「才あるヤツが長年に渡る修練を重ね、集中して、できるかどうかって位の高位技能だ。ひよっこじゃあ、逆立ちしたって無理だ。それも、教導役がついて、みっちり、年単位の修行を経て、見込みあるやつが五分五分位の成功率で打つのが関の山だ……」
「起こりを消す。戦いにおいては、割とありふれた技能かと思うのですが」
「正騎士だからこその、感覚、か?」
「騎士、ではないです」
「魔法においては、騎士のそれよりも、その技能は遥かに習得難度が高い。俺でさえ、独学じゃあ、ものにできた自身は無ぇ……。あいつと話したときにそう結論付けた。……。逆は、できるか?」
そう言われ、空に向けて、指をのばし、
「やってみましょう。『ライト・ニードル』」
指先から真上へと飛んでいった光の針は、青い空の彼方へ消えた。
「……。成程……。じゃあ、今度は、声を出せ」
「じゃあ、いきますよ。ライト・ニードル」
指先から真上へと飛んでいった光の針は、青い空の彼方へ消えた。
「そういうことか……。意図して、切り替えてる訳では無い、よな?」
「まぁ……。気配は殺しませんでしたが、結局どっちも自分には同じ結果だったようにしか思えないのですが……。魔力の起こり云々って、私別に、そんな複雑怪奇なこと、できませんよ。そもそも、声出して、魔法成功したの、さりげにこれが初めてなんですが……」
「魔法を使える奴が、自分の魔力の流れを感知できねぇだなんて、俺はそんな例をこれまで知らないぞ……」
と、男は馬に跨り、再び馬車を動かそうとするが、少年がそれを制止した。
「馬車、停めませんか」