デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス~ Ⅱ
「私も彼女もここのことは何も知らない。皆さんはどうだろうか?」
目の前の、思っていた以上に愉快な者たちに、少年はそう、尋ねる。
自分が何故か仕切っている。それに不満は無い。が、彼らはもっと巧みな手段、手法――つまるところ、連携について、一日の長があるように思えてならないのが、少年の中に、不満未満のもやもやを漂わせている原因である。
彼らが何か隠している、とか言うつもりではない。別に悪気も悪意も隔意も無いのだろうが、指揮するとなれば、不確定要素はやはり、不味い。指揮しなくていいとなれば、話は変わるが、果たして……。
彼らはもう、顔を隠していない。
ローブのフードを被るのをやめてくれている。こちらが言うまでもなく。
浅黒く、綺麗な顔つきではあるが眼光に微かに、鷲のような鋭さのある明るい茶色の髪色に、灰色の瞳のガリアス。椅子に座っている様子は、思った以上にがっちりしていて、すらっとした手足に背丈ではあるが、見掛け以上に筋肉質であることが分かる。どうしても、顔と、口調や言葉選びにズレを感じてしまう。
黒々しい色の髭面の陽気な、酒皶らしき赤い斑点による赤ら顔で、酒焼けした声のガリィ。恐らくガリアスと同じ位の年なのだろうが、こっちはだいぶ老けて見える。こっちは言動も見掛けも、完全にマッチしている。椅子に座った様子からもはっきりわかる。それなりの背丈もあるし、はっきりと筋肉質である。
自身の左側にそれなりに離れて、ガリアス同様すらっとしていて、けれども多分筋肉質ではない人が。落ち着いており、何処か上品で、そして、魔法使いらしく、白く、薄い。その髪色でさえも。けれども、不健康そうな感じではないのは、その長い髪に枝毛が無さそうなのからはっきりわかる。瞳すら、かなり白に近い、虹、色……?
彼女を挟んで右側に、目鼻立ちのくっきりした、濃い褐色の肌に濃い赤髪に、緋色の目の、大人の御姉様といった、何とも気の強そうで、自身に自信ありげな人が。
誰も彼も若い。今の師匠より一回りは。けれども、自分たちよりも明らかに一回りは年上で、大人であるように見える。
「わたしらも、観戦は何度か。今日みたいなイベントは見たことも聞いたことも無いけど」
「それに、俺ら闘い向けじゃないから」
シューイットとガリアスがそう答える。
距離が離れている。示し合わせるでもなく。四人のうちこの二人が答えたということは――
分かりやすく、つがいだ。この四人は、一つの集団でありながら、二つに分かれている。断絶がある、という訳ではない。自然で安定した四人でのつながりの中に、二本の別の強固な繋がりが存在しているのである。それは優先順位かもしれない。それは、より深い連携なのかもしれない。
何れにせよ――
(今の私には、分かりかねる、な。指揮や連携ではなく、絆の話なのだから)
自身は理解の入口にすら、立てているか怪しい。
「俺らもこいつらとだいたい同じだ」
「ゲリィ、わたしたちもチームメンバーとして参加するんだからそれじゃあ駄目でしょう?」
「はい。……」
ゲリィの実質何も情報出してない消極性を、シンシャが指摘する。力関係が完全に決まっているようである。尻に敷かれているというやつである。
こんな風に、違う関係性の、しかし、つがいである者たち。参考になることもあるかもしれない。
随分遠くに来たものだ、と少年は思う。
自分には縁もゆかりも無い筈だった。
今は――違う。ありがたいことに。
自分もなれるだろうか。彼らみたいに。関係を、築けるのだろうか。
横目で見た隣の彼女は、ご機嫌そうで、幸いにも、こちらを今は見ていない。今のこの表情を見られたくなかった。どんな表情をしているか、自分でも分からないけれども。
「ごほんっ……!」
ゲリィの咳払いに、現実に呼び戻される。
「俺の魔法はにいちゃんには見せたが、壁を貼るというものんだ。正確には障壁。地面に接してなくても置ける。動かないようにもできる。半透過にも設定できる。だがそれだけだ。結構魔法使いとしては特殊でな。属性も無い」
ゲリィはそれを展開していた。
半透明な、色のある光の壁。輝度を変えつつ、それは彩度が高く、暖色であった。赤や黄色やオレンジ。陽だまりのような暖かさが伝わってきそうな。
「そうそう。それでいいの。わたしの魔法はコレよ」
ボウッ。ボウッ。ボウッ。
現れたのは犬が三頭。だが、それらの身体は、炎? でできている。青紫色に歪み、淀む、炎である。
そして、その女、シンシャの衣装がそれに合わせて変化していた。深く被っていたマントが消えている。
その服装を見て、少年は察した。青藍を着せ替えたのは大方、彼女であろう、と。
ネグリジェのような薄く、そして、透けそうで、透けない、服というより、ヴェールのような。
「透けなんてしないわよ~? 消耗して疲れ切りでもしない限りね」
そう、シンシャは、少年にからかうように言ってくる。身を乗り出して。胸元を強調するように。気の強そうで、けれども何とも軽そうな、お姉さん。好きな者は好きだろうな、と少年は思いつつ、微塵も揺らがない。目線は真っすぐ、シンシャの目へ向いている。
「にいちゃん、ごめんなぁ」
いつの間にか、シンシャの後ろに回り込んでいたゲリィが、シンシャを引っ張って、自分の元いた方へ戻っていった。
「ライト君もだけど、青藍ちゃんも動じなさ過ぎ!」
とか言いながら引っ張られていく始末。
「あんちゃん。俺らの魔法はコレだ。シューイット!」
「はいはい」
(水の塊? それが、ぷよぷよ浮かんで、分裂して、緑や青や黄や赤に、それぞれ薄く色づいて――)
「俺は、術者の手から制御を離れた、放出された魔力を操作できる」
「わたしは、水の塊に色を付けて、属性を付与できるわ。そんなわたしの使える属性は、火、水、雷、血。得意なのは当然、水。どう? すごいでしょ?」
(火、水、雷、地、か。つまり、シューイットさんは、ほぼ万能といっていいだろう。ガリアスさんのは……えぐいな……使い勝手が良すぎる)