デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク Ⅺ
ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!! ……。
凄まじい噴射音。
間に合ったという油断から、否応なしに、その音の方向を見てしまう。そう。便座を見下ろす。全裸の少年を見下ろす。前を向く少年。故に。向かい合った彼女が音の方向を見るとなると――
彼女は一瞬で真っ赤になって、消えた。
そう。転移してしまった。
「おい、今、女の声しなかったか?」
「いや、まさか」
個室の外から、男たちの呑気そうな声が聞こえてきた。
全裸の少年は、
「その通りだ」
と、扉を開けた。助けを乞う為に。
少年は恐ろしいくらいに、動揺しておらず、ただ、すっきりとした顔をしていた。出し切った、という顔をしていた。
無詠唱で浄化の魔法での処理を終わらせ、少年は立ち上がり、個室から出て、
「御二方。どうか話を聞いて欲しい。簡潔に言うと、私が漏らしそうだったので、彼女にお願いして、ここに転移させて貰ったのはいいが、脱ぐ余裕すら無かった私の衣服を、彼女は機転を効かせ、脱がせてくれたのだが、何故か、その直後に、また転移して何処かへ行ってしまったのだ……」
事情を説明した。自分自身でも碌に分かっていないが、説明せざるを得ない。
そして。
「説明になっていないぞ? 痴話喧嘩か? にいちゃん」
「とりま、服着ろ服。はっ! 持ってかれちまったのか」
連れションに来ていたらしい、中年といった風の男二人が、陽気な反応を返す。ちょっと、魔法使いらしくない。故に、当たり、といえる。
が、自身が言ってて悲しくなることを口にして、改めて言われて気落ちせざるを得ないことを言われるのが当然なこの状況に、
「まあ、そんなところだ……」
そう、かくんと頭を落とす。
「俺らのローブだと、あんちゃんにゃあ、腰布にしかなんねえなぁ」
「貸した俺らも出れなくなっちまうしな。そうだにいちゃん。魔法で何か隠せたりしないか? 煙とか、何か。まとえるようなやつ。俺らは生憎無理だし、俺らの女もそういうのは苦手でなぁ」
少年はそれを聞いて思った。別に、遮蔽できるならば、布地である必要は何処にも無いのだ、と。
「成程、では」
少年は、それを唱えた。
【清浄陣天幕】
足元に光の文様。それは広がり、白く透き通るようで、その向こう側は透けそうで透けない、透き通るように光るという、魔法ならではの構造物が、巨躯な少年の周りに展…―
「あんちゃん、ストップ! 径がデカ過ぎて、小便器に漬かっちまう」
「しゃあねえ。俺がにいちゃんの四方を不可視の壁で囲っちまおう。にいちゃん、調整は効くかい?」
「やってみる」
そうして――
「駄目だわ……。係員につまみ出される……」
「悪目立ちし過ぎるな……」
「……。ん? それはかえって好都合なのでは? 係員を呼び寄せられるなら、服の用立てを頼んでしまえばいい。ここの者たちは転移に手慣れているようであるし」
「……」
「……」
二人は非常に渋い顔をしている。
「……(どういう……ことだ……? 私の知らない何かがまだある、とでもいうのだろうか? 私が引いた係員が当たりであって、外れが存在する、というところだろうか?)」
少年は、その理由を考え始めるが、
「この公園エリアの係員は……やべぇ……。特ににいちゃんみたいな奴にとっては最悪だ」
「一応聞いておくが、あんちゃん、両刀だったりする……?」
ただ、言いにくい内容であるだけであって、そう待つこともなく、少年に、ぼかしつつも明かしてくれた。しかし、それは何とも、唸らざるを得ない内容であった。
(カップル前提の施設の係員がそれというのは……。それに、こうやって前置き、警告されるということは……)
「その気は全く……。こうなる前は騎士だったので間違いない」
「んん? なら、その手の連中の扱いにも慣れてたりする、と?」
「おいおい、にいちゃん苦笑いしてるじゃねぇか。無茶言うんじゃねぇ! それに、ここの奴らは、肉体言語や魔法ぶっぱで抑えきれるような雑魚じゃあねぇだろうが! ここのトイレだけいっつも妙に空いてるのだって…―」
「おいバカやめろ!」
「……。御二方。感謝する。凡そは察した……。なおのこと、外に出た方がよさそうだ……。ここに留まるのは最悪の結果を生むに違いない……。……」
少年は思う。これ以上この二人に迷惑は掛けられない、と。だが、だからといって、もう行ってくれ、とは言えない。少年にだって、怖いものは、ある。だから、ただ、深く俯いて、沈黙するのだ。
「「はぁ、しゃあねぇなぁ!」」
「何とかしてやるよ! 俺らが」
「乗りかかった船だしな! 何かあったら俺らも目覚めが悪いんでな」
まさかもまさか。見捨てられずに済んだ少年。どうなったかというと――




