新たなる師、新たなる世界への旅路 Ⅳ
「特別な……才能が……あった。そういう……ことですか……」
ぶるぶる、震える。怒りか。やるせなさか。両方、か。
「考え過ぎだ。それに、お前の才能というのはそんなことじゃあな…―」
「危ないっ!」
その光景に、身体は考えるより前に動き出していた。荷台の底を蹴って、飛び出しながら、馬上の男の襟を掴んで、後ろ情報へ向けて、片手で投げ飛ばしながら、剣を喚び、
斬った。
金属光沢をたなびかせる、鉄色で鉄のような硬さの、化生たる、獣。【鉄馬】と呼ばれ、恐れられるそれを。
縦に真っ二つになり、わかれていきながら疾走していったそれは、荷馬車を避けるように広がっていって、倒れる重厚な音を、もう後方となった地点から鳴らした。
「未だ、来るぜぇ」
後ろから聞こえてきた声。
(そういえば、落下音もしなかった。どうせ大丈夫だろうとは思っていたが)
と、左前方、右前方から、同時に向かってきた、二頭の【鉄馬】を、軽々と、振り下ろして、振り上げて、どちらも真っ二つにして仕留めながら、振り上げと共に、跳ぶ。飛び上がる。数十メートルの高さに達する。
そうして、俯瞰する。前方数十メートル先。
十を超える、【鉄馬】の群れ。
(幾ら何でも余所見が長すぎたんだ……。のどかな青空と果て無く続く草原。何も出ないし、何とも出会わなかった上に、ずっと開けた視界が続いていたとはいえ、ここは街の中じゃあないっ……!)
「手綱、しっかりと握っておいてください!」
そう後方へと叫ぶように声を降り下ろしてから、空を蹴り、その群れへと上から突っ込んでいく。
鎧を呼び起こしながら。一瞬で身に纏えたそれは、多分、元通りだ。昨日の後遺症は装備にも全く無い!
剣を突き立て、弾け飛ばせるつもりで、当たっていった。
群れの中心。動きを止める、【鉄馬】たち。
少年の放った最初の一撃が砕き、周囲へ散弾のように弾け飛ばすことになった、群れの中心の【鉄馬の鉄塊の数多が、他の【鉄馬】たちを砕き貫いてゆき、たった一撃でけりをつけた。
「はぁ。こういうこともできるのか」
少年は自身の剣の切っ先を眺めていた。自分の頭より大きいくらいの棘々《とげとげ》な球になっていた切っ先を。
とても爽快な気分だった。先ほどまでの苦しさが嘘みたいに晴れていることに気づいた少年は、
「終わりましたよぉおおおおおお!」
そう、満面の笑みで、遥か後方、荷馬車と馬上の男へと、手を振るのだった。
落ち着きいた少年と、その変わりようについていけない男。
パカパカパカパカ――
男の手繰る馬の足音は、心なしか、先ほどまでよりも軽やかだった。
「剣振るって身体動かしたら、気分すっきりって――怖ぇよ……」
「習慣付けですよ。唯の」
「聞いたこと無ぇよ!」
「でも、助かったでしょう?」
「助けて貰わなくとも、あんな雑魚何とでもできた。そんなことよりも! 俺が気にくわねぇのはそんなことじゃねぇ! お前のその才能だよ! 躊躇せず、誰かを助けるちまう! 後先考えねぇ! 馬鹿かお前は! そんな奴、俺はぁぁああ、大っ嫌いだぁああああああああああああああああ!」
「そんなこと言われても……。俺は常にそうありたいって思っているし、誰かに強いられてる訳でもない。それに、なりふり構わず誰かを助けるって、そんなの、才能って言うものか? 俺はそんな言われ方されたくない。そんな腐った考え方、大っ嫌いだ」
「……」
「……」
少年の方を向いて、馬の頭とは逆向きに馬に跨って腕を組んでいる男と、そんな男から全く目を逸らさない少年。
二人とも、無言で、ただひたすら、互いをじっと睨みつける。
「……」
「……」
パカッ、パカッ、パカッ、パッ…―
「また、【鉄馬《テツマ」】か」
と、少年はまた、荷台の底を蹴り、突っ込んでいって、一閃した。
そして、何事も無かったかのようにその遺骸を担ぎながら戻ってくる。
荷台の底に、紫の靄のような渦が。
そこへ向けて少年が【鉄馬】の遺骸を投げると、遺骸は沼にでも沈んでいくように、ずるずると、渦の先へと消えていった。
パカッ、パカッ、パカッ、パッ…―
「また、か……」
「今度は魔法でやってみてくれ」
「了解」
今度は少年は、荷台からは飛び出さなかった。
ただ、荷台の上で立ち上がり、前方、迫って来る【鉄馬】に向かって、左手を翳し、人差し指で指差し、声なき声で唱えた。
「『ライト・ニードル』」