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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク Ⅰ

 ドーム状の部屋だった。


 黒と灰の、きらめくステンドグラスを備えた壁面。そして、こちらに向かい合うように、黒々しい炭のような木組みの椅子に座っている、細々しい黒騎士くろきし


 俊敏性しゅんびんせいに重きを置いたのであろう、虫の節のような関節部。明らかに、正騎士せいきしの魔法のよろい。そして、何より特徴的とくちょうてきなのは、首から三叉さんさに分かれて、貫かれ、罅割ひびわれた、三つのしゃれこうべ。頭蓋を抜けて、突き出た切っ先は、針や尖剣の類ではなく、うろののような刃の群れでできて、くねるように湾曲していた。


 少年と青藍せいらんは、用意されていた椅子に並んで掛けていて、


「ホゥ。久方振リニ顔ヲ見セタカト思エバ――マサカ女連レトハナ」


 老人のような皺枯れた声が鎧の中で反響して籠ったような音となって、少年に話しかける。


「そう驚くことか?」


 少年は怯むことも、見紛えることもなく、軽くそう返す。


「吾輩ノ逸話ヲ知ッテオレバナ」


「貴方は生者だろう? 普通の人間の生の在り様から逸脱してはいても」


「ソノヨウナ光輝トハ無縁デアル。吾輩ハ所詮、時ノ濁流ノ中ニ鎖デ繋ガレタ虜囚ニ過ギヌヌノダカラ」


 と、何か意味深な遣り取りをして、大人のやる愛想笑いをやって、握手をする二人。


 内輪話のようなものである。暴投気味に始まったロールプレイではあったが少年はそれに見事に乗ってみせた訳で。それによって、少年の以前の、その人物への態度や悪態といったものは水に流された、という遣り取りでもあった訳であり、そこに居合わせていなかった青藍にその事態をカケラすら理解することは無理である。


 忘れられそうになる前提であるが、心を読める筈の青藍が、何故? というと、まあ、もう、そんなこと、随分前からしなくなっているから。少年によって制御の手綱を手にし、使う選択肢を除外するようになって、もう長いのだから。尤も、仮にもし、今また、心を読もうとして、まともにそれができるのか、継続できるのか、は怪しいものである。


 ぽかんと置いてきぼりの青藍せいらん


「御令嬢。儂ノ趣味ニ付キ合ワセテ申シ訳ナイ」


 そう言われ、ぽかんとしていた青藍せいらんは少し慌てて、頭を下げる。自分だけその遣り取りに乗れなかったことを謝罪するかのように。


「ソレニ、ライト。以前トハ見紛ウ程ダ。ヨクゾソコマデ安定シタモノダ。隣ノ御令嬢ノ蔭ダロウカ、ナ?」


「はは……。まぁ……」


 歯切れ悪そうに返事をする少年。


「御令嬢。名ヲ聞カセテ頂ケナイダロウカ」


青藍せいらんといいます。貴方は?」


「御令嬢。吾輩には、名ハ無イ。()()()()()()()()()。呼称ヲ仮ノ名トスルナラ、闇ノ王、邪騎王ジャキオウ、トイッタトコロカ」


 と、手を差し出す。少年もやったように、青藍も、自身の手を出し、握手した。


「サテ。デハ本題ニ入ルトシヨウ」


 と、細々しい黒騎士の背後の空間に、黒々しい渦が出現した。


「ドノ関ヲ潜ルカニ依ルガ、吾輩ノ処デハ、」


レを」


 二人へ差し出されたのは、剣を掲げる騎士たちの円陣の、掌サイズのメダリオン。黒々しい素地の上に、それらは少しばかり埃を被っている。


レニ拠ル瞬時ノ帰還ガ可能デアル。意思ヲ以ッテ握リシ時、砕ケル。然スレバ、瞬キノ間ニ、気付ケバ、此処ニ」


 二人はそれを傾けたり裏返したりして観察しながら、説明を聞いていた。


「多少ノ阻害何ゾ物トモセヌ、安全ヲ担保スル道具ノ1ツデハアルガ、()()()()()()ト謂ウコトヲ忘レテハナラヌ」


「ありがたい。一応だが、幾つか訊いておきたい」


「構ワヌ。ソノ程度、手間ニ入ラヌ」


「一つ。一人が二つを握って割った場合、どうなる?」


「割リシ一人ニノミ、術ハ適応サレル。ヨリ強力ニ」


「二つ。個人に紐づけされているのか?」


「ドチラヲ手ニシテモ同ジ。オ主等ニ、紐付ケサレテオル」


「三つ。不発だった場合、貴方は感知できるか?」


「デキヌ」


「ならば」


 と、少年は、青藍の方を向き、尋ねる。


「二枚使って三日間というのは、無しにしておかないか?」


 一枚で一泊二日。二枚連チャンすれば、二泊三日。それが裏メニュー的に可能であることを調べてきた青藍せいらんが少年に連チャンを提案していた訳だが、それが、この言で却下となった訳である。


「……。わかったわ」


 少年がそう提案したのが、安全度を高めるため、という明らかな目的ありきであったからだ。尤も、安全を担保しきれないから、行くのは無しで、とか言われる恐れもあった訳であり、だから青藍せいらんはもやもやしつつも、ごねることすらなく、受け入れる選択肢しか無かったのではあるが。


「始マリノ園ノ()デアル故ニ、許容セザルヲ得ナイノダヨ。先ヲ見据エテ、此レヲ機ニ慣レテユクト良イ。二度、三度、ト、ナ」


 そうして。二人は椅子から立ち上がり、細々しい黒騎士に敬意と感謝を向けて頭を下げ、その渦の方へと進んでいき、消えた。


 渦を消し、細々しい黒騎士は独り、呟く。


「ヨモヤ、()()()()ニ成ッテオロウトハ。以前診タ時ハ、ソノヨウナ属性、保持シテ居ラナカッタデハナイカ、ライト。試練カ、ハタマタ、――」


 その()()によって捉えた、少年たちに明かすことのなかった、()()を。

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長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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