表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/222

死なない世界の修行の仕方 Ⅲ

 彼がそんな有様である間、彼女はというと――


 学園長室の、夜のテラス。


 右手の親指と人差し指の先をくっつけ、輪をつくって、右目の前にあてて、限りなく透明で微かに薄黒いレンズを魔法で生成し、遠見して、溜め息を吐く、青藍せいらん


(ライト……。どうしてそこまで来て、帰っちゃうのよ……)


 少年の、重い足取りで、近くまで来て、結局引き返しての、情けない後ろ姿は、青藍せいらんにしっかり見られていた。


 ここ何日も、ずっと同じ結果に終わっている訳で、そりゃ、気も滅入る訳であるが、そんなに来てほしいなら、呼べばいいではないか。何だかんだ、呼ばれたら、腹を括って、最後まで足を運んでくれると、分かりそうなものではあるが。


 少年も。青藍も。ある意味、同じ病巣を抱えていた。


 自分に自信がない。


 自分に価値を感じられない。


 相手が、自分に手を伸ばしてくれることを、信じ、きれない。


 いざとなれば、泣き叫びながらでも、互いの手を掴もうとする、強い強い執着を本質的に抱えているというのに。


 そこから、目を逸らしている。


 少年は無意識に。けれど、青藍せいらんは意図して。


 どちらか片方が手を伸ばしきれば届く距離であり、両方が手を伸ばせば容易く互いの手が交わる距離。


 そう。それは何処までいっても――近くて、遠い。


 今は、未だ。






 学園長室。


 昼である。


 そんな顔でいられたら気が滅入ると、予め弟子を追い払っておいて。


 学園長は、人を招いていた。


 焔色で、淵が焔のように煌めくローブ。そのフードを深く被り、緋色の目に、鷲が翼を広げたような凛々しい赤眉を持つ、飛び散ったような火傷痕の水膨れが頬に目立つ男である。


 学園長を、睨んでいる。


「そう怖い顔をするもんじゃないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「約束を破っておいて、どの口がぁぁ!」


 綺麗で透き通った美形な声にドスが乗って、ピリピリと空気を揺らすような怒号。


「だいたい、君は仕事をやり遂げていないじゃあないか。彼を止めたのは、君ではなく弟子であった訳だし、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「っ……!」


 そこを突かれると、返す言葉もないというのが、男の苦い表情に強く表れていた。


「けれども、私は君をこうやって呼び出した訳だ。()()()()()君」


「僕の、名前っ……、です、ね……。必要なピースの一つ。確かに、受け取りました……」


 火傷痕の水膨れの優男は、目を潤ませ始め、蹲り…―


「よそでやってくれ。君を今回呼んだのは、あの日、あそこであった弟子と暴走した彼との死闘。見ていた君のその記憶が、欲しいのだよ」


「……。構いませんが、何に、お使いになるおつもりで……?」


「はぁ……。弟子と彼とを元鞘に戻す為の一助として使うんだよ……」


「……」


「したくないさ。こんな面倒なこと。子を育てたこともなし。そんな私が、何でこんな……。はぁ……。君ならどうする……?」


「どう、と言われましても……。貴方が二人を呼びつけて、一室に閉じ込めて、『腹を割って話をしろ。終わるまでだすつもりはないよ』とでも言って、放っておけばいいではないですか」


「……。()()みたいにあの二人は真っすぐじゃあないんだよ。ねじれ、こじれ、こじらせている。自分に自信がなくて、向けられた好意すら信じたくとも信じられない」


「なら、僕にはどうにもできませんよ。アドバイスの一つすら思いつきません」


「生憎私もそうなんだよ。私がバカ弟子なら、もう一度死闘演じて、気持ちを剥き出しにしてぶつければいいじゃないか、で終わりなんだよ。彼は拗らせは酷くてもその辺りは真っすぐだから、多分いけるんだろうけど、バカ弟子は本気出せないだろうし、本心もさらけ出せないだろうから……」


「多分ですけど、子育て経験者でも、手に余るのではないでしょうか……。僕が見た限りのあのときの死闘の範疇ですら、あの子たちのそれは、特殊かつ互いに重過ぎて……。あ、記憶抜き取るなら、どうぞ」

 

「……。まあ、せいぜい一人で頑張るよ。このままじゃあ、安眠できるのはいつになるか分からないからね……」


 と、学園長は魔法陣を展開し、一切の魔力的な抵抗を解いて無防備なその男から、必要な分だけの、お願いした部分の記憶を光として抽出し、小さな水晶の断面のような石の形に固定し、その手に収めたのだった。


 男が爽やかな表情で、別れの手を振って、部屋を後にしていって、足音が聞こえなくなって、学園長はぐったりと疲れた表情を隠すことを止め、


「怠くて、眠い……。まだ日は高いが……。いいや、もう寝よう……」


 と、椅子に体を預け、寝落ちしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ