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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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魔女と魔王 Ⅱ

 取り囲むでなく、向かい合うように。


 老樹のような老人が現れてから、そばの、若木のような猛々さと柔軟さをそれぞれ持った従者二人は、姿を変えている。


 色鮮やかな、黄色から橙色の花が針の山のように、放射状に密集して、直径数センチのコロニーを身体中からまばらに生やしている無憂ムユウは、少年の顔をしていない。強くジャスミンのような匂いを漂わせながら、その顔つきは、少女の顔つきになっていた。髪の毛はいつの間にか、重力に逆らうモヒカンからしなやかに下方向へと広がっている。風を纏う、長い髪。浅黒くも、綺麗な指先が、手櫛てぐしで煩わしそうに、目に被さる部分を外に逃がす。


 のっぽで穏やかで色白な優男である菩提ボテイは、頭部から髪に紛れて、葉を生やし、その先端をぶらんと、垂らすように、腰下まで伸ばしている。心底ご機嫌そうに。


 そして、そんな彼らと向かい合う、青藍せいらん


 互いが同時に進みだして、合わせて数歩の距離。両手を伸ばしても届かないけれども、互いが踏み込んで手をかざせば、交わるだろう距離。


 魔法の使い手たちにとって、それは、一見意味の無いような距離の無さでありそうで、そうではない。


 魔法ではなく――()()()使()()()()。これは、丁度よい、()()()()()()()


「あぁ、よかった。未だ御話出来る程度の猶予ゆうよが残されているとは」


「……」


 青藍せいらんは、そんな彼らを冷たい目で見据えていた。


「我々は化け物ではありません。無論、貴方も、です。現に、対峙が成立しています。互いが互いに牙届き得ると踏まえた距離にいて、衝突を保留できているのですから」


「……」


 ギリリリリリリ――。


 歯のきしむ音。それに反してぴくりとも動かない表情。


「しかし、獣ではあります。だから、何も矛盾などしていないでしょう? 。貴方はこの膠着こうちゃくに意思を以て協力している訳ではないでしょう? 我々とて貴方とそう変わりはしない。理由も意図もない。ただの、何となくでしかない。精霊である我々が何を? とお思いですか? そういうことではありませんよ。衝動。衝動ですよ」


 コンッ、カコンッ、


 距離を詰める足音は、乾いた枯れ枝が地面をついたような音を放つ。


 話をしている体でいて、そんな建前も崩れ、話したいが儘に一方的に、言いたい放題になりつつあった。


 口にした言葉は、かせを、外す。


「おい、じいさん」

「こうなっては、止められないよ。ほらね……」


 無憂ムユウ菩提ボテイ。スタンスは違いそうでいて、やっていることは結局同じな二人。二人は、引き摺られている。地面に根を生やして、踏ん張ろうとしたのに、老人の歩みを制止するには足りていない。


「彼を返して欲しくば、ご自身の力を以て、なさればいい。我々が、彼を、吸い切ってしまう前に。ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ、ふっ、ふぉっふぉっふぉっふぉ」


 ゴォオオオオオオオオオオ、ガララロロロロオオオオオオオオンンンンンンン!


 老人らの遥か後方。浮かび上がった、巨大な樹のこぶ。ヤドリギのようなねじれたうねりを持った細い幹の束が、それを持ち上げて、高く空へとそびえ、こぶが黄金色に光る。


 透けて、見える、うづくまった誰かのような人影。


 こぶから、幹の束へと、光は拡散し、穏やかな陽光の煌めきが、波のように数多に流れ下へと伝っていき、地中へと。


 老人の顔の、老樹のような顔のしわが、薄くなったのは、決して気のせいではない。


「ぁあああああああああああああああああああああああああああ!」


 青藍せいらんから立ち上る、闇のもやは煙のように。柱のように吹きあがって、


Allomerusアロメロス


 確かにそれは、為された。


 淀んだ、歪んだ、破滅の詠唱。それは、彼女を魔女たらしめたとされる、悍ましい異形者を模した魔法。


 煙が吹き荒れるようにまき散らされ、夜が、訪れる。


 ガサガサと、蠢く音。


 枯葉が降り積もった、夜の秋の森で、そんな音が響いたなら。


 うごめいたのは、何?


 高く空へとそびえ、こぶから下る、光の束が、一瞬、照らした。


 無数の、小さな、ありの群れ。あり絨毯じゅうたん? いいや? 周囲一帯、折り重なった、密も密な、蟻模様ありもよう


 応える声は、無い。


 そのような猶予は存在しない――筈、だった。


「あぁ。儂は死して生きる者であった。そのイコンであった。混沌に混ざり合い、しかし、配分は偏っておった。喰うに値せぬ者として、弾かれて、此処ここに降り立ったのだ」


 ガシッ。


「止まらぬよ、魔女よ。我は、魔王であるが故に。我らが為のにえとなるがよい」


 やみが、霧散した。


 光の無い目で、見据える。壮年の、樹木のような男が、自身の首を掴んで、宙に浮かせられている。


 ヤドリギが、木のまゆとなって、固着していくかのように、こぶとなった。呑まれた青藍せいらんはもう、こぶの中。


 高らかに、


「これで、属性に加え、やがて、魔力も満ちる。あ奴らの再臨はそのときで善かろう。……とっとっとっ。我ながら不安定なものだ。目的すらも露と消えるやもしれぬな」

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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