新たなる師、新たなる世界への旅路 Ⅱ
パカッ、パカッ、ガララララララ――
(私が……。私なぞが、か……。 ゆ、夢の……ようだ……。それが本当だというのなら、私は、もしかしたら、本当に、なれる、のかもしれない。破滅の運命から、絶望の運命から、奇蹟を以て、何の代価も求めず、ただ、自らが望むから、救う、そんな、あのお伽噺の中の魔法使いのように)
(魔法の始祖と称えられた、しかし、真の名も、ローブの下の素顔も、それどころか、性別すらら、どこからきたか、すら不明な、誰か。ただ、様々な、終わる筈だった者たちを、何の見返りも求めず救い続けたということだけが、独り歩きしている)
パカッ、パカッ、ガララララララ――
(母上の、今になっては拙く思う出来の、創作のお伽噺。その原型が、その始祖であることは疑いようもない)
(そのときに同じく、知ったのだ。【始まりの園】。焦がれていた。憧れていた。だが、私に門を潜れる可能性は微塵も無いと思っていた。たとえ届いたとして、並の魔法学園が限度)
(かの【始まりの学園】。だからこそ、情報が無い。そこが素晴らしいものであり、卒業に至れたならば、未来は約束されたようなものだ。それこそ言葉通り、何にでもなれる、騎士以外の何にでも、と)
「……」
(誰もがその名を知っている。だが、そこに本当に通っていた僅かな者以外、かの場所の何一つ、知らない。知れない)
「お~い」
「…………」
(唯の魔法学園なら、知っている。ひそひそと情報も集めていた。入れさえすれば、上手くやっていく自信もあった。自分に乏しいのはあくまで魔法の才能であって、上手くやっていったり、集団生活については、人並み以上に上手くやれるという実績も自負もあった。正騎士に手が届く、というのはそういうことだ)
「お~い」
「………………」
(師匠のこれまでの言から察するに、そう、大きくズレて、全くの別物、という訳ではなさそうだ。学園ということには間違いはないのだろう。集団生活には違いない。なら、何が違う? 何が、ある? 人の質の違いだけではないのか?)
「ライトニング・ボルト」
耳元で囁くように聞こえてきたそれに、
「っ!」
びっくりして、びくっ、となった。
馬の背には誰も乗っていない。男が、私の前で、しゃがんでいた。
「やっと戻ってきたか。話しておかないといけないことは山のようにある。他の奴らに聞かれたらマズいからと言えないことの何と多いこと多いこと。例えば、お前の【詠唱】は、そのうちの一つだが、一旦、脇に置いておくとして」
ぐるん、と宙返りして、男は、馬の背に再び跨って、こちらを向きながら、話を続ける。
「【始まりの園】が、他の魔法学園とは一線を画するのは、学園であり、檻でもあるってことだ。一度放り込まれたら、資格を得るまで、出ることはできない。勿論、俺は自由に出入りできる。卒業生だからってだけじゃあ無ぇ。招かれたんだよ。教師として。んで、代価に、貰ったんだ」
「?」
「こいつさ」
ぽいっ、と弧を描くように投げられた、光るそれを受け止めた。……。痛い……。
割れた、カプセルの断片。
「学園に入れる生徒の枠を一つ貰ったんだよ。勿論、相応しい奴じゃあないとダメだって、貰って了承してから釘刺されてよ。そんなじゃあ、代価として受け取るには微妙《微妙》じゃねって思っていたが、ま、そのお蔭であいつも救えたし、ついでに掘り出し物も拾えた。まあ、良かったよ」
「……」
「騎士は騎士にしかなれない。魔法使いは魔法使いにしかなれない。それは絶対――の筈だった。お前が、例外第一号、になるかもしれない。んなもん、何が何でも連れてくにきまってるだろ? それに、そいつだけじゃなくて、俺からしても、お前の放った魔法は文句無し。正騎士のように剣を振るいながら、魔法使いの魔法を手繰る。そんなの、個として、最強、じゃあねぇか! 包帯、外してみろ」
そう言われ、また私に背を向けた男。
私は言われた通りに、包帯を解いた。
昨日、のどころか、最近できた傷すら、無くなっている。それに、妙に、身体に力が溢れるような……? 力を、込めてみた。
あの日、以前の、鍛えに鍛えた体に、戻っていた。
くすみや皮のめくれといった荒れからは縁遠く、肌色は血の気の通った白になって。それでも無数の古傷は残っている。
「おぉぉ」
「タダじゃあ無ぇ。治すだけに留めなかったのは、詫びだよ詫び」
「詫び?」
「お前を死んだことにして、家名を剥奪する。そうして、数年間、誰も知らない場所で幽閉する。そういう筋書きをお前の父親に提案したのは俺だ」