大丈夫、?
あー疲れた。最悪な一日やった。
せっかくの休みやったのに。
あの世渡り上手チャラ後輩に上手に立ち回られて(←)、
仕事押し付けられた。
でも、もう怒ることに体力を使うのもしんどいレベルで
フラフラと家に向かっていると、
「はーなちゃん」
「あ、誠士さん。こんばんは」
家までの通り道にある、行きつけのお店の店主に呼び止められた。
意味もなく声を掛けてくれたんやと思うけど、今日は早く
ベッドに突っ伏せたい・・・・
「こんばんは。あれ?今日休みって・・・・」
「そうなんですよ。だから、あんなに呑んだくれてたのに、
まさかの9時呼び出しですよ。誠士さんがウコンくれた
おかげで何とか引きずらずでした。今日のこと、予見
してるんかと思いました。ファインプレーです」
「それはどうも。予見してるとしたら、俺めっちゃ嫌な
やつやん」
「そうですね。会社行く運命になるぞ、ですもんね」
「まぁ、とりあえずお疲れ様」
「はい。でも、この仕込みの匂いでなんだか癒されそうです」
「それは良かった。あ、一段落してるし、ちょっと寄ってく?
とびっきりの出汁で作った茶漬けでもお出ししますよ」
「えーそんな魅力的なっ・・・・甘えさせていただきます」
「はい、いらっしゃい」
あっさり誠士さんの策略に引っかかって(←)、一休み
させていただくことに。
「はい、お疲れ様。どうぞお上がりになってください」
「いただきます!・・・・んーっ、あー!染みるー」
「そんなおっさんの入浴みたいな声出しなさんな」
「いや、五臓六腑に染み渡るとは、まさにこのことですよ」
「ははっ、それは良かった」
「今日は、ほんっと・・・・しんどかったんですよね。
ミスした張本人の話はちゃんと聞くのに、私の話は聞かない。
まぁ、でも反論するよりもう尻ぬぐいをした方が早いから
いいんですけど?労いの言葉を求めてるわけでもないけど?
無理矢理呼び出すわ、その後輩連れて先帰るわで・・・・
もうベッドに沈む気満々やったんですけど、誠士さんの
お茶漬けに釣られちゃいました」
へへっと笑ってみたものの、自分が思っているより力ない笑い声が
零れて、それがなんか情けなくて、気を抜いたら泣いてしまい
そうで・・・・
あーそれはアカン。心配させてしまう。
そんな葛藤を気にしてくれたのか、
「大丈夫?」
と、優しく問われる。
「え?」
「ここに寄っても、そんな沈んでるところ見たことなかったから」
「あんまりそういうの出すの好きじゃなくて」
「意地っ張りー」
「まぁ、だから、大丈夫、ですよ?全然」
「ふーん。そっか、残念」
「何がですか?」
「大丈夫じゃないって言うたら、もう全部ほっぽって俺のところ
来てもいいよって言おうと思ってたのに」
「なっ・・・・」
意地悪な顔して、何を言い出すのかと思えば。
「それはそれは残念でしたね」
「せやろ?じゃあ、改めて聞きますよ?大丈夫?」
「何それ、ずるい」
「ほら」
優しい顔して。
なんでそこまで自信満々なん。
悔しいから絶対飲み込まれんとこうと思ったのに・・・・
「大丈夫、じゃない」
「うん」
「大丈夫じゃないですよ。毎日毎日微妙に役職ついてるせいで
嫌味を言われて、上からも下からも無理難題やいやい言われて。
時折、女やからってことで出される仕事もあるし。
まぁ、それでも?仕事自体は全然やっていけるし、いいお客さんに
救われている部分もあるから、この案件が片付いたら、この
商談が上手くいったら、次は、次は・・・・ってやめるタイミング
はかったりして。でも、結局勇気もタイミングもなくて、
そのままで、ただの意気地なしで・・・・」
「意気地なしなんて。そんなことないけどな」
「でも、ほっぽりだしたくはないんですよ」
「ほお」
「誠士さんのその案には乗っかりたいです。でも、しっかり順序を
考えて、頑張ってちゃんと全部片づけてから行きます。だから、
待っててください」
「あはは。うん、全然いいよ。それでこそ、華ちゃん」
いつの間にかこんなに落ち着いた気持ちになっているのは、
出してくれた出汁茶漬けのおかげなのか、この優しい笑顔の
おかげなんやろうか。
・・・・きっとどっちもなんやろうな。
「あの、色々ぶち壊してしまうようで申し訳ないんですけど・・・・」
「ん?」
「その、告白ですか?プロポーズ、です、か?」
「あー」
「いや、どっちにしても嬉しいんですけど!誠士さんとずっと一緒に
居りたい気持ちに嘘はないけど!でも、勢いで返事してしまった
ものの、その・・・・今のところ、常連客と店主のまま、かな、と」
「どっちも?」
「え?」
「告白でもあり、プロポーズでもあるよ。俺もずっと華ちゃんと一緒に
いたくて、丸っきり支えてあげたい気持ちに嘘はないもん。
あ、でもプロポーズってもっと雰囲気とか色々・・・・俺も勢いで
言うてしまったかー」
「ぶぁはっ」
勢いで言ってしまうほどに私のことを考えてくれていたのが嬉し
かったのと、私の指摘に項垂れているのを可愛いと思ったのとで
思わず吹き出してしまった。
「なんちゅう笑い方や」
「だって、そんな落ち込まなくても」
「・・・・次笑ったらチューすんで」
「えっ?」
誠士さんはいつの間にか用意を済ませて、隣に座っていた。
「っ、まだ笑って、ない」
「うん、だからまだしてない。さっきなぜ笑ったか述べよ」
「えーだって・・・だって、ねえ?」
さっきのことを思い出してしまって、思わず笑ってしまった。
「あっ」
「お仕置きな。でも、その笑顔が見れて良かった。大好き」
そう言って、ふんわり笑った誠士さんと、ゆっくり唇を重ねた。
私も大好き。
その笑顔も、意地悪なところも、優しいところも全部・・・・
それを伝える隙もないほどに何度も何度も・・・・
「この負け方は悪くないですね」
「あ、また強がり」
「本心です」
「さっ、そろそろ開店しましょうかね」
「あ、じゃあ私はそろそろ・・・・」
「そう、やな。本当は居ってほしいけど、今日はもう疲れてるもんな」
「ふふっ、一休みしたら、また来ます」
「わかった。待ってる。でも、無理しなや?」
少し心配そうな顔をして、頭をポンポンとされる。
「はい、駄目そうなら連絡します。じゃあ、お仕事頑張ってくださいね」
「うん、ありがとう。気を付けてね」
そうして、お店を出た。
夕日が少しキラキラして見えるのは、心が少し晴れたからか。
明日もしんどいことがあるかもしれんけど、私には誠士さんと
あのお茶漬けが付いていると思うと、もう少しだけ頑張れそうな気がした。