追うモノと追われる者
「走れ!」
濡れた地面の上を駆け、裏門から敷地内を脱出する。
背後からは大量のゾンビと化け物が群がり、とにかく走るしかなかった。
「ま、前からもっ!」
迫り来る大群から前方に目を移すと、民家や店からゾンビが現れ、曲がり角から化け物が飛び出してくる。
「絶対に足を止めるな!」
全身に稲妻を纏い、雷撃を放って牙を剥いた化け物を排除する。
凜々も走りながらライフル銃を構え、飛び掛かった化け物を撃墜した。
次々に迫る化け物を返り討ちにし、足の早い脅威はあらかた片付く。
だが、今度は足の遅いゾンビの第二波がくる。
「くそっ」
「ごめんなさい!」
水の弾丸がゾンビの足を打ち抜き、転倒させる。
俺もそれに習い雷撃で腐った足を吹き飛ばす。
決していい気分がしないまま、どうにか逃げる。
「前方、片付きました」
「よし! なら、あれをやろう。奴らを濡らしてくれ!」
「はい!」
ライフル銃を担いだ凜々が水を発生させ、小さな波が大群の足下を濡らす。
同時に水溜まりに手をついて稲妻を流し込み、一度に大勢を巻き込んで感電させた。
「よし、これでかなり減ったはず……」
感電死したのは足の早い化け物だけ。
死体に足を取られる者もいたが、それすらも踏み越えてゾンビが迫る。
その隙間を縫うようにして新たな化け物たちもすでにこちらに近づこうとしていた。
「さっきより増えてないか」
「行きましょう! 早く!」
止めていた足を動かして逃亡を再開する。
「橋ですよ! 橋が見えました!」
「よし! 合図したら跳ぶぞ。三、二、一」
崩壊した橋の縁で力をためる。
「跳べ!」
凜々と共に大きく跳躍し、着地点にある瓦礫だけを磁界で浮遊させた。
同時にそちらへと飛び移り、大きく沈み込んでゆっくりと浮上する。
まだ頭が働く化け物たちはその場で立ち止まり、ゾンビは構わず足を進めた。
そして大量のゾンビが川に落ち、溺れて沈んでいった。
「はぁ……はぁ……た、助かりましたぁ」
緊張の糸が切れたのか、隣りで凜々がへたり込む。
「俺もだ……」
腰が抜けたように座り込む。
目の前には怨めしそうにこちらを睨む化け物の群れがある。
奴らはこちらと溺れたゾンビを何度か交互に見て諦めて帰って行った。
それを見届けてから一息をつき、ゆっくりと立ち上がる。
「さぁ、もう一頑張りだ」
「ですね。行きましょう」
凜々に手を貸して立ち上がらせ、残りの瓦礫を浮遊させた。
橋を渡り、ゾンビと化け物に注意しつつ拠点へと帰路につく。
今度は大群に追われることなく、無事に帰ることが出来た。
§
「えーっと。たしかここをこうして……」
持ち帰った蓄電池を設置し、凜々が使えるように手を施す。
ホームセンターから持ち帰った工具が早速役に立っていた。
「どこで憶えたんだ?」
「友達に教わったんです。一人でも出来るようにって」
「凜々の友達は万能だな」
「はい。知識は武器だって口癖みたいに言ってましたから」
「違いないな」
世界がこうなってからは身に染みる言葉だ。
「出来ました!」
額の汗を拭い、凜々が立ち上がる。
「じゃあ、見張り交代」
入れ替わるように蓄電池の前に立って手を伸ばす。
触れて、稲妻を流し、蓄電池に電気を貯める。
「今度はちゃんと蓄えてくれよ」
祈るような気持ちで稲妻を流し続けることしばらく。
稲妻を受け止めて切ってくれたことを期待しつつ凜々に操作してもらう。
「これでよし。中に入ってみましょう」
「ちゃんと付いてくれるといいけど」
拠点に入って鍵を閉め、明かりを付けてみる。
すると一瞬にして暗い室内が明るくなった。
「――復活だ!」
「やりました! ちゃんと動いてますよ!」
電気を取り戻した拠点で凜々がはしゃぐ。
蓄電池の電力が無くなればまた俺が充電すればいい。
これで当面の間は文明的な生活ができるだろう。
「ふぅ……安心したら腹が減ったな」
「じゃあ、ご飯にしましょう。缶詰と缶切りを持ってきます!」
「あぁ、ありがとう。俺は飲み物を」
化け物とゾンビの大群に追いかけ回されたが、なんとか一息を付くことが出来た。
§
「電気の確保も済んだし、次は食糧だな」
「ですね。衣食住の中でも一番大切なことですし」
開いた缶詰に目がいく。
この缶詰だって無限にある訳じゃない。
なくなったら探しにいかないと。
場合によっては民家を漁ってでも。
「服は探せば簡単に見付かると思う。化け物やゾンビには不要のものだし」
「となると、やっぱり問題は食べ物ですね」
「あぁ、コンビニの食料もいずれはなくなる。そうなったら自分たちで用意しないと。川で魚を釣って、野菜の種をまく。それから……あー」
言葉に詰まる。
「化け物を狩る、ですよね」
「あいつらは人を食ってる。なるべく食べたくはないけど」
「贅沢は……言っていられません」
ゾンビは論外。
倫理的にも、心理的にも、衛生的にも、健康的にも、だ。
「でも、狩ることはできても、解体できるでしょうか?」
「その辺が問題だよな。ネットが使えれば方法くらいわかるんだろうけど」
生憎、携帯の電波はいつ確認しても圏外だ。
「こういう時、デジタルは弱いよな」
「ですね……あ、アナログなら!」
「そうか、本。本屋に行けば見付かるかも!」
今後の方針が固まった。
「今日はゆっくり休んで明日、本屋に行ってみよう」
「そうですね。じゃあ、それまで映画鑑賞をしましょう!」
「いいな。おすすめは? ゾンビ映画以外で」
「ならおすすめは、これ! ラブロマンスですよ!」
そうして映画の鑑賞会が始まった。
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