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火と氷と雷


 扉を破ろうと数体の魔物が体当たりをする中、夜空から無数の雫が降り注ぐ。

 それが十分に周囲を濡らすと凜々と交代してこちらの出番。

 窓から標的を視認しつつ、稲妻を纏って空から雷撃を落とす。

 落雷雷は濡れた地面を介して伝播し、周囲すべての魔物を感電させる。

 悲鳴を上げる暇もなく、魔物たちは息絶えて地に伏した。

 一体の例外を除いて。


「あいつ……」


 白い冷気の中に佇む人に似た魔物。

 火に怯えて逃げた個体。

 奴だけは感電から逃れていた。


「氷の……鎧?」


 その魔物は全身を氷で包んでいる。

 その様は凜々の言う通り鎧を身に纏っているようだった。


「り、凜々の水を利用されたってこと? そんなのアリ?」

「なしって言いたいところだけど、まんまと利用されたみたいだ」


 奴の周囲だけ濡れていない。

 凜々の水を凍て付かせて身に纏うことで感電から逃れたんだ。


「クララララ」


 おもむろに扉へと手を翳した氷の魔物は吹き荒れる吹雪を放つ。

 それは障子を破るように扉を破壊し、氷の足跡を残しながら中に入って来た。


「ど、どうしますか?」

「相手が水を利用するなら凜々は分が悪い。それに」


 窓の外へと目を向けると暗がりからまだ何体かの魔物が出てきていた。


「ほかの魔物を出来るだけ近づけさせないでくれ」

「わかりました、頑張ります」

「じゃあ、行こうぜ。イヅナ」

「あぁ、俺たちはあの氷の魔物だ」


 廊下を駆けて階段を下り、広間へと降りる。

 ちょうどそのとき広間の扉に氷が這って凍て付いた。

 それが弾けて粉々に砕け、冷気を身に纏った氷の魔物が現れる。

 途端に部屋の気温が下がり、息が白く染まった。

 冷たいものが足下を通り過ぎていく。

 咲希がナイフに火炎を灯すも、氷の魔物は以前のように逃げる様子はない。


「パワーアップしてるみたいだ」

「戦いは避けられないか」


 こちらも稲妻を纏い、臨戦態勢に入る。


「クララララララ」


 氷の魔物が鳴き、こちらに一歩踏み出す。

 先制したのは咲希だ。

 火炎が灯ったナイフが弾かれたように真っ直ぐ飛ぶ。

 火色の一閃の後を追うようにこちらも攻撃に移る。


「喰らえ」


 稲妻の出力を上げて、氷の魔物に雷撃を見舞う。

 火炎の刃が刺さり、稲妻が穿つ。

 だが、それでも鎧は破壊しきれない。

 更には溶けた部分が再度凍て付いて、簡単に修復されてしまった。


「マジかよ」


 攻撃が無為に終わり、反撃がくる。

 両手がこちらに翳され、大量の冷気が押し寄せた。


「――咲希!」


 咲希のナイフはまだ氷の鎧に突き刺さったままで防御の手段がない。

 だから、地面を蹴って飛び出すように咲希の前へ。

 スキルの出力を引き上げて全身に纏い、稲妻の熱で冷気を凌ぐ。


「寒いッ、けど!」


 身を切るような冷たさに耐え、右手を伸ばして指を差す。

 指先から放った雷撃が再び氷の魔物を撃ち、衝撃でほんの僅かに怯ませた。

 押し寄せていた冷気が止み、どうにかしのぎ切る。


「サンキュー! 助かった!」

「ど、どおいたひまひて」


 震える声で返事をしつつ怯みから戻った氷の魔物を見据える。

 奴は冷気が効かないと見るや、肉薄して接近戦を仕掛けてきた。


「あたしに任せて!」


 身構える中、咲希が飛び出す。

 突き立てたナイフを手元に引き寄せ、逆手に握り締める。

 繰り出される氷の爪を燃え盛る刃で捌く。

 その動きは明らかに何らかの武術を習得している動きだった。


「俺もッ」


 入れ替わり立ち替わり咲希が戦う最中、氷の魔物が背を向けたタイミングで雷撃を放つ。

 背を打たれて大きく怯めば、そこに火炎の刃が刻まれる。

 氷の鎧は次第に溶けて薄くなり、本体が透けて見えて来た。

 このまま行けば押し切れる。

 そう思ったのも束の間。


「クララララララララ!」


 冷気が爆ぜて全方位に霜が走る。

 氷の魔物は周囲全てに冷気を放つことで咲希を吹き飛ばした。

 同時に薄くなっていた氷の鎧も元の厚みまで逆戻り。


「ラララ……」


 状況を戦闘開始以前まで引き戻した氷の魔物は自慢の爪を振り上げる。

 狙い澄ますのは咲希ではなく俺。

 俺に武術の経験はない。殴り合いの喧嘩なんてしたこともない。

 そんな俺に氷の魔物の一撃が避けられるはずもなかった。

 そう、本来なら。


「――」


 振るわれた一撃を躱す。

 二撃、三撃と立て続けに爪を流れ、それすらも回避する。

 攻撃を見切れているわけじゃない。

 次にどう仕掛けてくるかなんて見当がつかない。

 だけど、氷の爪が伸びた瞬間には、なぜか回避動作を行えていた。

 それは常に相手の一手先を行っているようで、とても奇妙な感覚だ。


「――ここだ」


 突き出された氷に爪を紙一重で躱し、握り締めた拳を胴体に見舞う。

 素人の殴打だ、そんなもので氷の鎧はどうにもならない。

 だから、ここを基点に最大出力の稲妻を氷の魔物に流し込んだ。


「熱でッ、溶かせばッ!」


 稲妻の熱で局所的に氷を溶かし、濡れた拳が本体に触れる。


「感電すんだろ!」


 瞬間、氷の魔物に稲妻が駆け巡り、全身を硬直させた。


「ガガガ……」


 だが、それでも絶命しない。

 感電しながらも冷気を放出し、氷の魔物は最後の抵抗を見せる。

 冷たい空気が頬を撫で、口の中が凍て付いた。

 感電死か、凍死か。

 どっちが先にくたばるかの勝負――には、ならない。


「あたしを忘れてんじゃねぇ!」


 氷の魔物の背後から火柱が上がる。

 それは一振りの刃となって氷の鎧を貫いた。

 胴から雷を、背中から火炎を、同時に浴びて氷の魔物は悲鳴を上げる。

 冷気の出力も急速に落ち、ついには途切れ、氷の鎧が溶け落ちた。


「アァアアァアァアァアァアアアッ!」


 断末魔の叫びを上げて氷の魔物は燃え尽きる。

 ぐらりと揺れて、丸焦げの死体が床に転がった。

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