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第6話 そうですね。そうしましょう

視点:三人称


 ジュエル王国には1つの都市伝説がある。それはジュエル王国で大きな事件または大きな事件の火種が起こると、謎の人間達が現れて犯人を倒していくというものだ。その謎の人間達は声も身長も性別も様々だが、共通してその詳細な姿を記憶に残せないという。


 少数だが圧倒的多数を制圧する、少なくとも2人はいる、軍の事件簿では存在しない事になっている、そんな事しか分かっていないが、それでも彼らは王国を守るヒーローであるというのが人々の共通認識。


視点:ノワール


 1年間貯めた小金を持ち、散財を終え、生徒に人気の行列ができるケーキ屋さんに並び、少し高いキャットフードと寝床用に大きめのバスケット、安いながら丈夫なシーツを買った頃にはあたりはすっかり夕方でした。日が沈むまでに帰らないと先生に怒られてしまいます。


 勇者祭に合わせた服の新調は8月上旬の風物詩です。それに合わせて庶民は服が割引されて、金持ちは全国から名のあるデザイナーが集まり、街は活気に包まれます。


 その空気に釣られたのでしょう。


「なあノワール。ちょっと近道しないか?」


 セルシウスがそう切り出しました。


「そうですね。そうしましょう」


 スラムというわけではありませんが道の細い路地裏へと入ります。この路地裏を使えば学園まですぐですが、事件にあってはいけないので学園からは禁止されています。



 道と壁がレンガに囲まれた路地裏を歩いています。気の早い家がまだ勇者祭前日なのにステーキを焼いています。


 学園の影が見えてきました。大通りまでもう少しです。


「スンスン…なんだか魔力がざわざわする」


「そうかな?」


 セルシウスはそう言いますが私にはわかりません。空気中の魔力の濃さは一定以上魔力を保持していないと分からないからです。セルシウスは左手で私を庇うように制します。やがて足音が聞こえてきました。


「はぁ…はぁ…」


 角からスキンヘッドの明らかに悪そうな男が、ナイフを片手に走って…おそらく逃げています。


「ど、どけ!」


 ここはせいぜい人2人が通れる路地裏です。急いだ男は私達をナイフでどかそうとして…


「きゃっ!【プール】!」


 しかしそうはセルシウスが卸しません。とっさに路地裏のじめっとした空気から水溜りを作り、男は転びます。相手はナイフを持っているので正当防衛です。


「逃げましょう!」


 その時です。


「ぐあっ」


 一瞬風が吹いたと思うと、男は全身から血を流して倒れていました。そしてカツカツと誰かが歩いてきます。緊張が高まります。


「これで最後かな?…そう。ありがとう」


 その『誰か』は人という事しか分かりません。人が存在する事は分かりますが、頭がその画像を認識できなくて気持ち悪いです。まさか都市伝説のヒーローさんです。声と背の高さだけは分かりますが少年といったところでしょうか。雰囲気は、正直言って怖いです。


「…まいったな。人がいる」


 誰かは近寄ってきて、襲ってきた男の背中を踏みながら言いました。


「怖がらせてごめんな。今日の事は忘れてぐっすり眠りなさい」


 その謎の気迫に頷くしかありません。


 そして不思議な動く縄が襲ってきた男を縛り、誰かは男を引きずって出てきた角を戻りました。


−少し沈黙−


「う、うぅ…」


 おや、セルシウスのようすが…


「ノワールぅ…怖かったああ!」


 セルシウスが泣いてしまいました。そりゃあ変な男にナイフで襲われ、その男がいきなり血を流して倒れたら軽くトラウマです。セカンドJKとしては当然の反応です。特にセルシウスはある事情・・


 私?私はそりゃ回復魔法の授業で人体は見慣れていますから。襲われたのもセルシウスが庇ってくれましたし。


 だから、これはもらい泣きというやつです


「よしよし。大丈夫ですよ〜」


 ぎゅってして落ち着かせます。むかし本で読んだのですが、心音が聴こえるように相手の耳を左胸につけてたり、お腹や足を手でマッサージしたり背中を軽く叩いてあげるたりすると泣き止むそうです。本のタイトルは保育士入門とかそんな感じでした。


 魔法で呼吸が整うのを促し、同時に気持ちを落ち着ける魔法を掛けます。



-少しして-


「セルシウス。早くしないと先生に怒られますよ…ってセルシウス!」


 まあ何という事でしょう。セルシウスは緊張が解けて、泣き疲れて、さらには一日中の散財でも疲れて、スヤスヤと寝てしまいました。


 涙とかで濡れた制服を魔法で乾かして、さてこれどうしましょう。学園はすぐそことはいえ無防備なセルシウスを置いていくわけにはいかず、かと言って非力な私では普通、セルシウスを持ち上げることはできません。セルシウスを引きずるなんて論外です。仕方ありません。魔法を使いましょう。


視点:三人称(視点変更の最後までとばしても良い)


 中級回復魔法【ハイパーパワー】の仕組みを知るには、これはどの回復魔法もそうだが回復魔法の仕組みを知らないといけない。


 回復魔法の元となる魔法は水魔法である。まあ水魔法は手段であって回復魔法の効果を直接発揮するものではない。


 回復魔法の本質は『生命活動の速度の操作』である。人体にはおよそ60%含まれる水を通じて人体に干渉し速度を操作する。例えば代謝を速くして傷を修復する【ヒール】、毒素を分解や排除するプロセスを早める【キュア】、呼吸をゆっくりにして落ち着かせる【リラックス】やその逆の【エンハンスメント】、危険な魔法では心臓など生命維持に必要な器官を止める【ドクターストップ】などだ。


 余談だが、【ヒール】系統を使うと老化が早まると言われている。実際は日常的に大怪我を負い【ヒール】系統で治さない限り問題はない。そしてそんな大怪我は普通、純外科魔法と呼ばれる魔法科学で治療される。


 話を戻すが【ハイパーパワー】とは、細胞がエネルギーを取り出し力を出すプロセスを速めることで本来以上の力を引き出す魔法である。その後には副作用の筋肉痛や疲労が待っているが、短期的に見れば非常に有効である。


 まとめると、回復魔法は生命活動を早めたり遅めたりする魔法で、【ハイパーパワー】は体内に蓄えているエネルギーをむりやり引き出す魔法である。以上。



視点:シャーちゃん

壊滅した黒軍の末端組織の拠点(家)。


 黒軍どもは大したことなかった。


 チンピラばかりで、多少の腕が立つやつは連絡してきた人が狙撃で倒したからだ。魔法の感知のみで魔法を曲げながら家の中を狙撃するとは、さすがマーキュリー王都本部の人員である。それにカレン君の精霊魔法の殲滅力も高かった。魔法のスペシャリストである精霊たちによる魔法弾幕は、最も効率的にチンピラどもを撃破した。


 これは後で生き残りから知ったことだが、今回の件は末端の暴走だったらしい。


「おえっ」


 …カレン君は精霊魔法は強くても精神はまだのようだ。まあ戦闘中に吐かないだけマシか。こういうのは新人は誰でも、熟練でも時折ある。


『その辺に吐いとけ。後で掃除屋が片付けてくれる』


 掃除屋とは軍の特別部隊(特殊部隊ではない)の1つであり、事件の後に掃除する事を任務としている。


 俺はなんとなく洗面台に登り鏡を見る。猫は色をあまり認識できないと言うが、俺は普通に認識できている。謎だ。そして俺の左目には、注意しないとわからないくらい薄っすらと魔法陣が書かれている。シャオン特製のいつでも爆破できる全く嬉しくない魔法陣である。


 さて、俺はそろそろ帰るか。飼い主たちも帰ってくる頃だろう。


 頑張れよ、後輩!

マーキュリーには水星や水銀の意味があります。あと神様の名前です。

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