第5話 転生の挨拶
遅れてしまった理由
日曜締め切りの学校の文化祭関係の作業をしていました。勝手に休んで申し訳ございません
視点:シャーちゃん
明日は勇者祭である。勇者祭とは、およそ150年前に勇者クニヒコが四天王とその隷下一個師団と相討ちになったことを悼む祭りだ。勇者とは人力一万人分に相当する出力の能力を持ち、100人の統率の取れた近代化軍に匹敵しうるとされている存在だ。
クニヒコは頭のいいバカというもので、『1000人の軍隊』を包囲から無傷で脱出させるために『100人の軍隊相当』の力を持った自分が囮になったのだ。もちろんクニヒコ1人で脱出するのも可能だったはずだ。彼は最後まで合理的だったというのは当時の有識の評判。
さて明日は勇者祭なので、親愛なる飼い主二人は新しい服を買いに出かけている。ポールちゃんへの授業も午前中に終わった。俺はある人達へ転生したことの挨拶をするつもりだ。スローライフに反するだろうが、王都中の情報は全て集めないと蕁麻疹が出るような連中なので、俺という特異な存在はいずれバレる。その前にこちらから出向いた方が面倒が少ない。
ギィ…
ボロボロの厚木の扉を開け、入ったのはこれまたボロボロの骨董品店だ。あまりにボロボロなので倉庫と言われても違和感が無い。当然客はいない。スラムにまで知識人は寄り付かないし、スラムに知識人はいないからだ。
「わー!猫ちゃんだカワイー」
ピンク髪の受付嬢の少女が抱きかかえてくる。
『シャオン。苦しい離せ…ておい!投げろとは言ってない!わー銃を向けるな!』
これはここの受付嬢なら正しい反応かもしれない。ここは軍の拠点の1つだ。ジュエル王国軍特務隊、通称はマーキュリー。それがここを使用している。
マーキュリーの管轄はこのスラムの制御…ではなく、王国に危険をもたらす組織の調査・討伐だ。こんなことを言うと異世界では『チューニ病』と言われるらしいが、時には非合法なこともするジュエル王国の闇の部分である。一般佐官程度には存在すら知らされない。
「で、あんた誰だい?ここに来るってことはまともな奴じゃないな」
『まあ落ち着け。拳銃を突きつけられてはびびって話もできやしない』
そして何回目かの説明を始める。
この少女(という歳でもないが)はシャオンと言い、マーキュリーの副隊長兼受付嬢だ。頭が砂糖で満たされていそうな顔だがエルフであり、俺が前世でここに来た時もここにいたのですくなくとも170年は生きている。詳細は俺にも知らされていないが、本人によるとこの国の建国(今からおよそ700年前だろうか)に立ち会ったらしい。少なくともマーキュリーが結成された500年前にはいたとされる。
しかし表向きは17歳と言い張っており、服装などもその時の17歳の女性が好みそうなものを着ている。こんなんでも頭の切れや記憶力は非常に高く、魔法技術も精神魔法と魂魔法以外は賢者の俺すら抜く。というか俺の師匠だし。まあ長くなったが、簡潔に言うと我が国の最終兵器である。
「ふーん。で、気づいたら猫に転生していたと」
「ま、信じないよ。私達ってそういうもんじゃん?」
そう。特務隊は無辜の一般国民から反政府組織を見つけ出す。いわば何も無い所を疑うのが仕事だ。
『信じなくていい。俺が言いたいのは今生はのんびり暮らしたいという事だ』
「おけ把握」
俺が魔法技術的に格上のシャオンと精神魔法で話せるのは、向こうがわざわざ合わせてくれているからだ。もちろん非常に高等な技術である。
ギイ…
「こんにちは!」
入ってきたのはまだ喉仏も出ていない少年だ。スラムらしいボロボロの服を着ているが、なぜか匂いなどはしない。
「あ、カレン君いらっしゃい!」
少年は慣れた手付きで骨董品を触りだした。
『なんだおい、今時はこんな少年も入ってるのかい?』
マーキュリーは先程述べたように反政府組織の討伐が目的であり、情報漏洩を防ぐため少数の精鋭魔法使いたちで構成されている。
「彼は精霊魔法の天才なんだ。これでも将来のエースだよ」
精霊とは空気中の魔力がなんらかの形で集まり、意思を持ったものである。その意思の出所は死んだ高い知能を持つ生物の魔力と考えられている。基本的に産まれたときに刻みつけられた記憶以外は持っていない。脳が無いのに意思がある理由は謎だが、魂も魔力の塊なので両者は関係があると見られている。また、精霊には空気中を漂うものから何か(人や歴史ある品、建物)に憑いて縛られているものまである。
そんな精霊に何か(主に自分の魔力や魔石)を代償に力を貸してもらうのが精霊魔法であり、精霊とは魔力の塊であるので魔力の扱いに長け、魔法の効果対魔力が非常に高い。すなわち自分が払った魔力で本来使えた魔法よりも高位の魔法が使えるわけだ。また、望む属性の精霊さえいれば理論上すべての属性の魔法が使える。
そんな精霊魔法を使える人は非常に少なく、使える人も保持魔力量が少なく最終的に並程度の魔法しか使えない人や弱い精霊しか扱えない人が多く、強い精霊魔法を使えてかつ大きな魔力を持っている人は非常に貴重である。
余談だが、このようにスラムに埋もれた人材を発見するのもマーキュリーの仕事の1つである。俺もそうして発見された人材の1人だ。ブラッドストーン家が滅ぼされて運良く逃げ出せた(今思えば見逃された)ので放浪し、行商隊に拾われて、正体がバレる前に王都のスラムに逃げ込み、何年か用心棒などをしていた時に雇い主がマーキュリーに討伐され、才能があるからと拾われたのが14歳の頃だったか。
コッコ
ドアが叩かれた。
「はーい」
入ってきたのは鳥型の魔法生物だ。作りは粗雑だが飛ぶのに必要なものは揃っており、緊急時の実践的なものだ。
シャオンがくくりつけられた紙を見る。
「…カレン君」
「はい」
「指令。黒軍のやつらが集まってるから叩いてきて」
黒軍は聞いたことがないが、勇者祭に合わせて数年おきに反政府組織が動く伝統は、今も続いているようだ。
「もうグラントさんが向かってる。黒軍は殺しても問題ない。場所はこの紙を見て。予想される攻撃目標は…クリスタル女学園!」
どうしよう。主人公ノワールやねんけど…
精霊≒幽霊です