第2話 クライン=コーラル改めシャーちゃん
この世界の暦 1年は12ヶ月で1ヶ月は32日。ちなみにクリスタル女学園新年度は4月からで夏休みは7/1から8/32まで。
人の名前
ファーストネーム→適当に思い浮かんだ単語
ファミリーネーム(貴族等)→宝石関係の名前
週1じゃ物足りないので最低週1の不定期にします。
「それで、私は貴猫の事をなんと呼べば良いですか?」
もうわかんない!そう私は問題を棚上げにしました。この猫ちゃんが賢者クライン様だと言う証拠も、そもそも転生者である証拠もありませんし真実を確かめるのは困難でしょうから。
『そうだな……クラインという人間はもう死んだのだから、好きに呼んでくれ』
「でしたらシャーちゃんって呼びますね」
出会った時にシャーシャー鳴いていたからシャーちゃんです。個性的と定評のある私のネーミングセンスですが、何か?
『シャーちゃんはちょっと、ネーミングセンスが無いというか。ニャン助とかはどうだろうか』
「似たようなものじゃないですか。シャーちゃんで良いですね」
なんでしょうこの茶番。
カッカッカッ
廊下から足音が聞こえてきました。おそらく私の同居人ですね。
「ただいま。なんだノワール、今日の散歩は短いな」
この少しハスキーな響く声の主が、私の同居人のセルシウス=サファイアさんです。2-3(クリスタル女学園高等科は、1学年3クラスで各クラスは40人です。ちなみに私は2-2です)のクラス代表で、所謂絵画のモデルのような気品のある姿は主に中等科までを含む下級生を中心にファンがいます。
特に特徴的なのは女性の中ではかなり高い背丈と少し硬質で鮮やかな青い髪、そして同性からさえも噂されるスタイルの良さです。しょぼん。これらはサファイア伯爵家の血が強いそうです。
髪の色は魔法の適性と関係ないことが証明されていますが、髪と瞳の鮮やかさは保持魔力量(普段から体内に貯めておける魔力の量)に比例します。ちなみに私は平均的な魔力しかありませんが、保持魔力量が全てという訳でもありません。
「ええ。怪我をしている猫ちゃんを拾ってしまって切り上げてきました」
「ニャア」
私は猫ちゃん改めシャーちゃんをセルシウスに見せます。なんともわざとらしい鳴き声ですね。
「猫か。お前のことだから、どうせ飼いたいとか言うんだろ?」
なんでバレてるんですか!?そりゃまあ魔法の使える猫は珍しいですし、見捨てるのもあれなので飼いたいのですが。
「なんでって、お前は優しいから見捨てないだろうなーって思ったからだよ」
心の声が漏れていましたか。このセルシウスという親友といると、つい口が軽くなってしまいます。
「でも、音とか大丈夫でしょうか」
高等科寮では動物を飼う事は禁止されていませんが、他人に迷惑を掛ける行為は制限されています。爪研ぎとかアウトですね。
「平気平気。私は音なんて気にしないし周りの娘には結界を使えば大丈夫さ」
さらっと言いましたが、結界を貼る魔道具は特に値段が高いです。ここの所は貴族様ですね。
『感謝する』
「うわ、こいつ喋るぞ!!」
今日はいい日です。昼間からセルシウスの砕けた言葉遣いを聴けました。いつもは夜寝る前のお喋りぐらいです。
「ノワールなにこれ。使い魔?魔物?」
「落ち着いてください。使い魔ではないでしょう。魔物かどうかは……わかりません」
使い魔はつまり人工的に作られた魔物で、ここまでの生物味と知能はありません。魔物の可能性は否定できませんが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
セルシウスはシャーちゃんの昔話を聞きました。半信半疑……3:7といった所でしょうか。もちろん疑が7です。それから彼女がいくつか質問をしましたが、すべて完璧に回答されました。
「うーん、中身が男性なのを飼うのはちょっと心配だな」
『安心しろ。私の情熱は妻だけに捧げている』
わーお熱い。歴史の授業で平民出身のクラインさんは爵位欲しさに結婚したのかと思っていましたが、そうでも無さそうですね。現在進行系なのもポイントが高いです。
「そこまでいうなら……良い。かな?」
こうして、私達に新たな同居人が増えたのでした。めでたしめでたし。
コンコンコン
「失礼します」
「はいどうぞ」
名門校のクリスタル女学園では、他人の部屋/家に入るときには『失礼します』と言わなければいけません。これを怠ると先生から聖なるお小言を与えられます。
「ポットか、どうした?」
入ってきた生徒の名前はポット=キャッツアイ。キャッツアイ男爵家の令嬢で、セルシウスの同級生で私達のお友達です。猫の獣人だからか、小柄でスリムな体型です。彼女は南西部の森林地帯の出身です。
「どうしたって、早くしないとお昼ごはん食べそびれるよ?」
セルシウスの机の置時計を見ます。13:00。この学園では基本的にお昼は12:30から13:20までに食堂で食べなくてはいけません。忘れるとその日のお昼は抜きです。ここは北棟の4階なので南棟1階の食堂までは5分はかかります。
「セルシウス。急ぎましょう!」
「ああ!」
私とセルシウスは速歩きで食堂に向かいました。
視点:クライン=コーラル男爵改めシャーちゃん
吾輩は猫である。そんな書き出しの小説が勇者達の世界にはあるそうだが、まさか本当になるとは思わなかった。100年前の理論では、転生は理論上起こりうるとされていたが観測はされていなかった。
まあせっかくの第二の人生だ。前世は良くも悪くも波瀾万丈の人生だったから、今度は日向ぼっこでもして朽ちるとしようか。勇者たちの言葉でスローライフと言うようだ。幸いに拾い主は優しそうだし、意思疎通程度は猫の魔力でもできる。ふと机の上のカレンダーを確認する。今日は7/32。夏休みだな。
……?ポットと言うらしい獣人の少女が、近距離でこちらをじっと見詰めてくる。黄色い髪はここの学生に一般的な鮮やかさだ。吊り目で睨まれると少し恐怖を覚える。
「ニャア?」
「……君さ、誰?普通の猫じゃないし僕達と同じ獣人でもない。んー、使い魔でも魔物でもない普通の猫と人間が奇跡的に融合してる?でもなんで……」
突然、少女が呟きはじめた。驚いた事に、見た目からは想像つかないがこの少女は頭が良さそうだ。言うしかないか。
『やあ。俺はシャーちゃん。ああ落ち着け杖を突きつけられてはビビって話もできない。』
やれやれ、3度めの説明をするか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『それで、君はキャッツアイ家の者か?』
ポットちゃんは俺を一応信じてくれた。猫、冥利に尽きる。
「そうだけど、なんで分かったの?」
『夏休みなのに残っていることと、魔力や身体の特徴だな』
「あーなるほど」
キャッツアイ男爵家は俺の前世の時代に成立した家で、その領土はもともと未開の森だった。そこに大人魔戦争(魔界から魔王が1人、降りてきた事で起こった戦争)の難民の獣人たちが集落を開き、後にジュエル王国に併合された。
そこに限らず、ジュエル王国は併合した領土に『友好の証』として、留学生の形で実質的に人質を取り、監視役を送っている。まあ進んだ王都の知識をわざと盗ませている側面もある所が、勇者達に『王国はツンデレ』と言わせる所以である。
「そうだ、【シャーちゃん、僕の下僕にならないかい?】」
わお。こいつ、いきなり使役魔法をかけてきやがった!しかも魔法名を声に出さない高度な技術を使って。一部の獣人は使役魔法が得意というが、留学生として選ばれるからには特に優秀なのだろう。末恐ろしい……
『【断る。】それと俺に精神系の魔法は聞かないと思え』
残念ながら俺の前世は賢者クラインだ。互いの得意分野なら学生程度に勝ち目は無い。
「そっかー残念。じゃあ学園からは出ていってもらうしか……」
『それは困る』
せっかくのスローライフを手に入れたんだ。そうやすやすと手放せるか!
「んー、じゃあ1つお願いしてもいいかな?」
用意されていた感が否めないし上から目線が腹立つが、スローライフのためには仕方がない。
『内容による』
「それじゃあ……」
ポットちゃんの『お願い』は、ほんの少し面倒なものだった。
ノワール/女/魔法科/高等科2年生(特待生)/生物部/平民
回復魔法
回復魔法基礎
水魔法
魔法理論
セルシウス=サファイア/女/魔法科/高等科2年生/吹奏楽部/サファイア伯爵家
複合魔法基礎
水魔法
火魔法
魔法理論
ポット=キャッツアイ/女/魔法科/高等科2年生/帰宅部/キャッツアイ男爵家
使役魔法
使役魔法基礎
闇魔法
魔法理論
魔法科とは2年制進学時に芸術・魔法・科学から魔法を選択した人。
魔法理論は大学進学する人が受ける。他に魔法工学や魔法陣学など。
生物部は飼育もするけど解剖が多いお嬢様らしからぬマッドな部活。
複合魔法は非常に難しいので2年生で基礎をやって発展は3年生から。