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順応

 自分で思ったよりも順応性が高かったのか、若い肉体に精神が引きずられているのか、腹を括ってしまえば、この状況を受け入れるのにさほど時間はかからなかった。もともと、見も知らぬ場所、というわけはない。昔過ごしたことのある場所なのだから、それも当然と言えるかもしれないが。幸いなことに、今は長期休暇の最中だったらしく、その間に世間の状況を調べ、自分の記憶と照らし合わせていった。それによると、どうやら“今”の自分は大学の二年らしかった。


 三十年以上前の記憶は、自分が思う以上に劣化しており、状況自体を受け入れるのは早かったが、慣れるのには時間がかかった。気をつけているつもりでも、もとの時間での意識のまま行動しそうになる。自炊しなければならないのをうっかりと忘れてしまい、ようやく思い出して材料を買いに行ったは良いものの、現在とは違う紙幣に戸惑い、冷蔵庫を持っていないことを失念して買い込みすぎた。買い物一つでこれだ。しばらくはわけのわからない頓珍漢な事をしては、周囲にあきれられたり、困惑されたり笑われたりしていた。十年一昔というが、元の時代と、この時代とでは三十年余りの開きがある。混乱はある意味当たり前といえた。


 最も自分がなじむのに苦労したのは生活面ではなく、意識の切り替えだった。中身がどうであれ、今の自分の外見は二十代なのだ。五十代の意識のままで行動するわけにはいかない。しかしそれも、最初のうちこそ急に老けただの、ジジくさくなっただのと言われ、どうなるものかと思ったものだが、体が若いと精神も若くなるものらしい、長期休暇が明ける頃には何とかそれらしく過ごせるようになっていた。


 実家はいわゆる旧家で、そこそこに財産があった。そのため、贅沢をしなければ十分暮らしていける程度の仕送りはあったが、バイトを始めた。金を貯めながら、これから先の計画を練った。


 昔は感じなかったものだが、若いというのはそれだけでも有難いものだ。それほど運動をしていた訳ではなかったが、それでも五十代の肉体に比べれば、はるかに体力がある。少々無理をしようが、一晩寝れば回復する。それをいいことに、元の時代の自分からは考えられないほど精力的に動き回った


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