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疑問

 バイトをしながら小説を書く、という生活は七年ほど続いた。


 書いた小説を雑誌に投稿してみたり、出版社に持ち込んだり、大小かまわず様々な賞に出してみたりとしていたが、最初の四年は全く芽が出なかった。才能がないのか、と落ち込んだこともあるにはあったが、とにかく諦めずに書き続け、ある時、そう大きなものではないが、賞をとることができた。それを知らせる通知が来た時には、喜ぶよりも先に目を疑ったのを覚えている。それを足がかりに、小説だけで食っていけるようになるのにはさらに三年かかった。十年以上かかることも覚悟していたことを考えると、予想よりも早かった。ちなみに、その間にバイトは五回変わった。


 その間、また来る、と言った言葉どおりに、兄は何度か自分のもとを訪れた。賞をとった直後にも見計らったかのように現れたので、それを告げると自分のことの様に喜んだ。せめてこれくらいは自分で父に報告したらどうだと言われたが、報告したところで父が許すとも思えなかったため断った。兄はそれ以上勧めてきたりはしなかったが、親孝行できなくなる前に、せめて仲直りくらいはしてくれと小言を言われた。


 それからさらに数年が経った。肉体の年齢は三十路を越え、それほど有名というわけでもないが、そこそこの知名度にはなった。ある程度余裕が出てきたのと、資料の本を置く場所がなくなったのとで、住居を変えた。生活空間自体はそれほど必要ないのだが、とにかく資料を置く場所がほしかった自分は、予算内でできるだけ広い住居を探した。ただし、広さのみを重視しすぎると、交通の便が悪く不便になるため、そのあたりも考慮した結果、中途半端に田舎な場所に家を買うことになった。


 これは余談だが、実はそれなりに大きな都市に、実際に購入した家よりも広い洋館があったものの、立地条件と敷地面積に対して、明らかに値段が安すぎたため、却下した。この物件を見つけてきたのは自分の担当だったのだが、いわくつきとしか思えないそれを、あまりにも熱心に薦められ、何か恨みでも買っただろうか、と数日間真剣に悩んだ。結局のところ、ただ条件に最も合うからという理由でしかなかったのだが。


 なにはともあれ、順風満帆とはいかないが、特に大きな問題もなく、順調だ。にもかかわらず、何か欠失感にも似た焦燥を感じるのはなぜだろうか?


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