ネクロファンタジア──リア充のイチャイチャを見てヒトに絶望した俺はネクロマンサーとして転生! 6
俺たちは一人の──豪奢なドレスを来て、胸に勲章か何かを付けた妙齢の美女と向き合っていた。目つきは鋭く、化粧が厚い。こういう手合いは女教師に多いが、絶対に性格はキツイ。内心、誓ってもいい(誰に?)と思った。
「シャルロット町長夫人だ……」
近くにいた客の一人がそう呟いた。
「……お義母様、私は自分の意志で話かけていただけですわ。それにこちらの方は異国からの魔法使い様。失礼ではなくて?」
ブロンシュが女の失礼極まりない言い方に反論する。話が本当ならこの二人は母娘の様だが、明らかに血縁関係はなさそうだ。ブロンシュは俺と同じ年頃、17かそこらだろうし、こっちの性格のキツそうなシャルロットとかいう女性は30いくかいかないかくらいだろう。それに両者とも美人だが何から何まで色々な意味で全く似ていない。
「何が失礼であるものですか! どうせこの小人の仲間という事はろくな者ではありません! それどころか異国出身で魔法使い? ますますもって怪しく、危険極まりありません! 皆の者、その者を捕らえなさい!」
シャルロ……いや、このババアの性格はゴミ以下だ。
兵士たちが前に出て来る。
俺は突然の事に固まっているラファエル達周囲の人間から離れるように前に出る。
「シ、シャルロット様!お、おやめください!」
「お義母様!何という事を……」
ラファエルとブロンシュが口々に言う。
「黙りなさい! ……危険人物である事は間違いありませんが、自らお縄につく態度、その潔い態度だけは認めましょう、小人仲間よ」
そうこうしているうちに俺の周囲を兵士が取り囲む。手には槍や剣。以前の村で見たものよりかは上等な代物。よく切れそうだ。
「……随分、平然としているのですね。これからあなたを捕らえ危険人物として〈尋問〉します」
そう淡々と告げて来る。
「黙ってついてくれば多少の痛い目で済みますがどうしますか?……小人仲間よ」
俺は────────。
俺は足元の石畳を見つめた。そして、一瞬の沈黙の後に──。
ドゴン!カーン!グシャ!
丁度石畳ぐらいの大きさの石が兵士たちの顔や腹にめり込む。石畳の石をイメージして彼らに放ったのだ。
「……グッ、グフッ」
「……ガぁ、クソ……」
「こ、こびとごときがぁ……」
「……」
「……」
恐らく即死したのが五人、他は瀕死の重傷が三人ほどといったところだろうか。
数舜遅れて周りが動き出す。
「キャーーー!」
「な、なんてことだ……」
「セ、セイジ……お、お前、そんなきょ、強力な魔法が使えたのか」
口々にざわめきだす。そんな中、あのババアは呆然として固まっていたが、わなわなと震えて口を開いた。
「……!! ま、まさかあり得ないわ。その年でこの様な強力な魔法など使えるわけがない……。王都の宮廷魔術師の家系の者ですら習得するまでに十年、二十年はかかるものよ……」
勝手な言い草だ。俺は意味が分からない世界に突然来させられたのに。魔法が使えるから何なのだ。……いや、しかし俺は晴れてこの世界で公然の殺人犯だ、そして元の世界でも……。そう考えると魔法が使えた方がこういう権力者連中に対抗できるかも知れない。これは良い事だぞ、聖児。
俺はババアの出方をうかがっていた。しかし、動いたのはババアでは無かった。
「……私がおります、ご安心下さいませ」
ババアの取り巻きの一人──ローブを着た体格のいい老人が混乱の中、前に進み出て来る。
「お、おお!そうであった! マルシェ! 闇を司る魔術師よ! 奴の息の根を止めてしまいなさい!」
「……御意」
そこに意見するものがいた。
「お、お爺様! 私がその者の相手を致します!」
俺たちを遠巻きに見つめていた群衆の中から若く張りのある青年の声が聞こえ、群衆より一歩進み出た。
「ルノワール……お前はまだ全く魔法が使えないではないか……。それとも自慢の剣術で戦うのか? 言っておくが、この者、洗練されてはおらぬがかなりの魔力、魔道の才の持ち主だぞ。……お前には勝てん! 黙って見ておれ!」
ルノワールと呼ばれたのは身長190程、二十歳ぐらい、肌は褐色で恐らく白人に有色人種の血の混じった体格良く顔立ちの整った──青年であった。
「クッ……私の力不足が悔やまれる……。お爺様……くれぐれもご無事で……」
つくずく勝手な奴らだ。そう思いながらやり取りを聞いていた。その間、ふと後ろを振り向くと後方にブロンシュとラファエルが視界に入った。二人は急遽割って出たこのいけ好かないイケメンを見つめていたが、態度は正反対だった。
ブロンシュはその大きな瞳を心配そうに見開き潤ませながら彼らのやり取りを見ていた。ルノワールが戦いを諦めるとほっと肩をなでおろした。
ラファエルはチラチラとブロンシュとルノワールの間を視線を行き来させていた。その視線は険しくルノワールを見るときの目は〈親の仇〉いや、この男がこの男であるが故の不倶戴天の宿敵の様に思えた。その眉間の皺は更に濃く、目は濁っていた。
青年が引き下がり、老人が口を開いた。
「……では、異国よりの魔法使いよ、覚悟は良いか?」
うぜえ。この世界の何もかもが身勝手だ。
考えるよりも前に魔法が発動した。
老人の足元の石畳が爆発四散し、砂埃が舞った。