表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱の中 ―ある4人の場合―  作者: 河野章
7/10

ep7

「猫か……」

 なんとも妙な気持ちで政春は独りごちた。

 寝室だった。猫のことをアパートの大家に告げたことは、後悔していなかった。後悔していないはずだった。

 先に眠っていたはずの妻が「え?」と小さな声を上げた。

 政春は狼狽した。妻の意外そうな声に、虚を突かれたのだった。

「いや、その……」

 思わず言い訳をしようとしていた。狼狽した自分に驚いていた。

「猫……?」

 聞き返してくる妻の声が心なしか弾んでいた。布団から、ベッドへ寝る生活に変えたときに、ベッドは付けずにそれぞれで寝れるようにしていた。そのベッドの上で、妻が身を起こしたのがわかった。

「猫が、どうしたの?」

 妻の聞き返してくる声が、優しく寝室の闇に響いた。

「あぁ、その……猫、でも飼うのも良いのかなぁと」

 嬉しげな妻の声に心のどこかがコトリと動いた。それはとても暖かく、驚きとともにじわじわと広がった。心にもない言葉がすらすらと出た。暗い寝室で天井を見上げながら、喜んでいる妻の顔が目に浮かんだ。久々に見る笑顔だった。

「猫を見かけたんだよ、黒い子猫。裏のアパートだ。……誰も飼う人間がいないのなら、家で引き取っても良いんじゃないかと」

 薄暗い中で、みるみる妻が嬉しそうにする気配がわかった。実際、ほうっと感嘆のため息を漏らすのが耳に届いた。「動物は苦手だって言ってたじゃない」と、小さく笑う声が少し離れた隣からする。それは心地よく、頬にくすぐったい感触だった。

「……隣の大家に、聞いてみるよ。猫がどうなったか」

 政春は満ち足りた声で妻と話した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ