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甘く、セツナク

はじめましての方も、前作を読んでくださった方も、こんばんは。

今回も私得意の(?)日常のひととき話です。

今までで一番短いお話となりますが、あわ〜い初恋(に、なるかならないかくらい)の頃って心がじんわりするのでいいなぁ、あったかいなぁと思って書きました。

少しでも伝わればいいなぁなんて思います。

よろしかったらぜひご意見・ご感想などいただければ幸いです。



 生まれてはじめて、男の人の存在に気づいた。

 それはとても単純なことで…。

 高い身長だったり、大きな手だったり、低い声だったり。

 "好きだなぁ"って心があたたかくなる。

 たぶん、これを"恋"っていうんだろうなぁって。

 ただ漠然と、そう思ってた。

 

 

「結城、こんな時間まで何やってんだ?」

 

 完全下校の時間も迫る、午後6時20分。

 すっかり日は暮れて、窓の外は薄暗くなっている。

 

「澤田先生。日直の…日誌書いてました」

 

 トクン、トクン。

 冷え切った教室の中に一人でいたのに、今の私の心の中はなんだかほんのり熱くなっていて、開いた口から出る言葉はなんとなく緊張の色を帯びていた。

 

「お前、こんな寒い中まだやってたんか」

「…だって、今日男子の日直が用事あるって帰っちゃったし…」

 

 先生は教壇においてあるパイプ椅子に腰掛けて、それにしても寒いなぁと私に投げかけた。


「で、1人で仕事全部してたってことか?」

「…まぁ。日直の仕事、嫌いじゃない…です」

 

 それに…遅くまで居残っていたのは、こうして先生が来てくれるのを少し期待してたんです。

 まさかそんなことは言えないけれど、不意に先生と目が合ってしまって私のこころはさらに熱を持った。

 

「結城は真面目だな。責任持って仕事するとこ、エライよ」

 

 ニッコリ笑った先生がパイプ椅子から腰を上げ、私の座っている席に近づいてきた。

 ひとなつこい、暖かい笑顔。

 大きな背、広い肩幅に、低い声。

 私の憧れる澤田先生は、今年29歳の大人の男のひと。

 

「お〜、結城らしい。日誌ギッチリ書いてるな」

「そうですか?みんなと同じくらいだけど…」

「まぁ…こういうのは人柄がもろに出るからな。見てみ、昨日の八坂の日誌は文字かせぎに同じような文章何回も書いてるだけだろ」

「あ、ほんとだ」

「いいんだ。あいつはココってときに本気出すから」

  

 そう言ってクラスの人の話をする先生はいつもやわらかく笑ってるんだ。

 

 キーンコーンカーンコーン…

 

 2人しかいない教室に、やけに大きく聞こえるチャイム。

 

「やべ!完全下校だ!学年主任の高田が厳しいんだよ」

「あ、先生いま学年主任を呼び捨てた」

「え?聞こえたか?」

「…うぅん、何も聞いてない」

 

 目を見合わせて、どちらからともなく私たちは笑い出した。

 先生といると居心地がいいのは私の気のせいなのかな。

 ねぇ、先生はどうですか?

 

「さ、お前も早いトコ準備して帰れ。ホントに暗くなっちゃ危ないぞ」

「はぁい。…先生もすぐ帰るの?」

「おう。俺の勤務時間も、もう終わりだからな」

 

 ガシガシと大きな先生の手が私の頭をなでた。

 体の温度が一気に高くなる。

 

「って、もうだいぶ暗いな…送るか?」

 

 窓の外を眺めた先生の横顔と、私の頭にのせられた大きな左手。

 その薬指に光る…シンプルな結婚指輪。

 

 担任の先生で、半年前に結婚もした。

 恋なんて…しちゃいけないひと。

 

「だ、大丈夫です。自転車だし」

「そっか。じゃ、日誌もらってくな」

 

 お疲れさま。

 そう言って、先生は教室を去っていった。

 火照ったからだが、一瞬のうちに冷めてしまう。

 あの薬指を見るたびに気づかされてしまうんだ。

 先生が一緒に居て居心地いいと思うひとはちゃんと他にいるってこと。

 そのひとが、先生の帰りを待ってるってこと。

 

 

 足早に教室を出た後、一直線に靴箱へと向かった。

 同じ学校内なのに先生と話していたさっきまでとはまるで別世界のようだ。

 冷たくて、寒い。

 

「はぁ…なんでこんなに落ちこんでるんだろ、私」

 

 誰もいない時って、つい気持ちが声に出てしまう。

 靴箱での独り言はなんて響くんだろう。

 

 すると突然ガタガタっと物音がした。

 

「結城!まだいるか〜?」


 靴箱の隙間から、先生がひょっこり顔を出した。 


「さ!澤田先生?!」

「お〜いたいた」

「なんだ?そんな驚いた顔して」

「ちょっとだけ、びっくりしただけです!」

「ほれ、これ持ってけ」

 

 突然手のひらにじんわり暖かいものが降ってきた。

 校内の学食に置いてある自販機のミルクティー。

 

「これは…?」

「あったまるだろ。日直遅くまで頑張ったからな」

「あ…ありがとうございます」

「おう!クラスのヤツには言うなよ〜!」

 

 またにっこり笑うと、先生は"気をつけて帰れよ"と私を靴箱から送り出した。

 

 握り締めたミルクティーは再び私の心をあたためる。

 

 トクン、トクン、トクン。

 

 この気持ちを恋と言うのかな。

 高校1年生。

 今の私にはよくわからない。

 

 じんわりあたたかい、ミルクティーのような甘い想い。


 


 

 


 

 


 


 

 


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

まだまだ未熟者な私ですが今年もマイペースに書いていきますのでどうぞよろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
[一言] すごくあったかい気持ちになりました♪ こんな気持ちあったなぁー。こんな先生いたなぁー。って その頃の自分に戻れる小説でした☆ 短い小説だけど、たっくさん女の子の淡い気持ちが詰まってて好きです…
[一言] ほんわかした気持ちになれました(m'□'m) 先生の存在にほんわか(*´∀`*) 主人公の気持ちにほんわか(*´∀`*) これからも執筆頑張ってください(^^)v
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