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he is floating in the pool (流れるプールの小事件)  作者: ンジャバダ・ンジャバダ
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出題編

 実はあのおっさん、ボクが殺してきたんだ。


 もう新聞にも出てたよね。えーと、何面だったかな……あったあった。

〝『レジャー施設で通り魔か 男性死亡』。被害者は市内に住む米沢一郎さん(43)。胸や腹を複数回刃物で刺されたことによる失血死が原因とみられる〟。


 付け加えるとさ、この米沢っておっさんがすげーキモかったんだよ、ボクのことチラチラ見てきて。こっちは中学生だってのに、アレ変態だよ。


 それでムカついたから、ナイフでブスブスって刺してやったの、流れるプールの中で。すごくない!? 白昼堂々、家族連れとか若者でにぎわうプールの中で、だよ!? 

 

 まぁ、堂々とやれば意外とバレないもんなんだよね。万引きでも放火でもいいけどさ、コソコソビクビクしてるから怪しまれるんだ。平然とやってのければ、その場では疑われないよ。まぁ、カメラで撮られてたら知らないけど。


 それで、刺されたおっさんなんだけど、「ウッ」とか言いながらバシャって水に倒れこんで、そのままプカプカ浮いてんの。近くの女子大生みたいなのが「何アレ、キモーイ」とか言ってたから、ボクも「キモーイ」って指さしてた。ナイフはすぐに隠してね。女友達と一緒に来てたからさ、「あのおっさん、キモーイ」って指さして笑い合ってた。


 んでさ、流れるプールじゃん? そのままうつぶせで、グルーッて流れに乗ってプールを回り始めたの! 

 

 もうおかしくってさ、しばらく笑ってたよ。まぁ、ジワジワ血が流れ出し始めてたから、すぐに上がったんだけど。プールサイドでグルグル流れるおっさんの死体見てゲラゲラ笑ってた。

 もっとも、それが死体だと知ってたのはその場ではボク一人なんだけど。


 周りがざわつき始めたのは、二周目に入り始めたころかな。どうも水の色が赤っぽく濁り始めてる気がする、なんだか塩素とは別の異臭もする、それはあのプカプカ流れてる男性から出ている気がする、そういえばあの人ずっとうつ伏せ、息継ぎしてなくね……? 

 だなんて言い始めて、休憩時間でもないのに、一人、また一人とプールから上がっていってさ。監視員もそこで気づいたみたい、あのおっさん、おかしくね? って。


 じんわりとおっさんの周りだけ血が滲んでる、誰もいないドーナツ型の流れるプール。上から見たら、綺麗なグラデーションだったろうね、水の青と血の赤がさ。まるでロールケーキの断面みたいになるのかな、おっさんは果肉かなにか。


 そんで、異変に気付いた監視員は飛び込んで、おっさんに声をかける、「大丈夫ですか……ギャアア!!」

 しっかりしてほしいよね、男なのにあんな声出して。ボクなら死体ぐらいであんな声はあげないよ……。

 

 んで顔面蒼白で腰を抜かした監視員は、慌てて上司やら警察やら消防やらに連絡。すぐにアナウンスでその場を離れないように指示が出て、その場にいた客は一時プール内に閉じ込められたの。普通なら犯人はすぐ逃げ出すんだから、意味ないのにね。今回は普通じゃないから、犯人であるボクも一緒に閉じ込められてるんだけど。


 んですぐに警官が何人かやってきて、捜査開始。死体を視るヤツ、客に話聞くヤツ、なんか知んないけど巻尺でプールの幅とか測ってるヤツもいたかな。

 当然ボクと女友達も事情聴取。担当の警官がさっき殺したおっさんにソックリでさ、内心ムカついたな、「さっき殺したのに」って。いろいろ訊かれたけど、

「なんか騒がしくなって、周りのお客さんもドンドン上がり始めてたから、一緒になって上がったら、そこで初めて死体が浮いてるって知りました、マジキモイです」とかそんな感じで適当に答えた。


 持ち物も確認された。持ってたのは財布とスマホが入った防水ケースに、ロッカーのカギ。もちろんナイフは隠してる。ロッカーのカギは別の警官に渡してた、役割分担があるみたいでさ、そっちの担当に調べさせるみたい。ロッカー調べられても何も困んないし、着替えとスイッチとスプラくらいだもの。コンドームは財布に忍ばせてるよ、ワンチャンあった時の嗜みとしてね。


 すぐに調べ終わってつまんなかったよ。せっかく、犯人が目の前で、凶器もすぐそばにあるってのにすぐ解放しちゃうなんて、マジ無能。ボクだってこんなドキドキは滅多に味わえるもんじゃないってのに。


 つまんないからふざけて、

「胃の中もケツの穴も何もないですよ、一応見ますか?」って言ってたら、

「そんなこと言うもんじゃない」ってしかめ面。マジつまんねぇ。


 女友達の方も、30秒もしないで終わり。そんな感じで、その場にいたプールの客全員に訊いて回って二時間くらいしたら、帰ってよし、ってことになって脱出成功。死体見つけた監視員とか、一部の客やプールの管理者は警察署に連れていかれたみたいだけど。


 ちょうど夕焼けが沈みかかる頃でさ、達成感を味わいながら夕陽を浴びて帰路につく……とはならなかったな。あまりにもあっさり、コトがうまく行き過ぎたもんでさ。


 ……え、いつもナイフ持ってるのか、って? 

 そうだよ。学校行くときは止めてるけど、持ち物検査あるし。小さいバタフライナイフだよ、刃をしまった状態で全長10センチかな。いい値段したからね、キッチリロックがかかって不意に刃が飛び出すようなこともない、超安全。休みに出かけてる時はいっつも持ち歩いてて、人刺してみたいなぁって思ってた。リンゴの皮むきと、鶏肉切ったことしかなくてさ。念願叶ったけど、あっけなかったな。


 ……おっさんを刺した直後、ナイフはどこに隠したか、だって? 

 やだなぁ、そこは自分で考えてもらわないと。ちなみに警官にも、もちろんキミにも嘘はついてない。


『犯行後、凶器はどこにどうやって隠したか』。


 ヒントは充分に出したから、考えてみなよ。



――ほら、もうわかったでしょ?



 よかったら感想欄に回答を書いていってよ、後で必ず正解は発表するからさ。

 そうだな、三日後……いや、一週間後、まぁ一週間以内に必ず。


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