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前編

基本はてきとーです。そんな話を書いてみたかった。


 突然だけど、俺こと笹木真紀(ささきまさき)は異世界召喚とか言うのを食らった。

 しかも、まさかのクラス召喚だ。

 最後の誰だかが教室に入った途端、魔方陣って奴が浮かび上がった。天井、床、四方の壁を埋めつくし、あれ? って思ったらそこはもう異世界だった。


 体育館よりちょい小さめの広間は、豪華な西洋建築。前にテレビで見たベルサイユ宮殿に似た感じの飾り付けだ。


 そこにいた、王様らしきおっさんは死にそうな顔で草臥れていた。隣の宰相? みたいな爺さんは棺桶片足突っ込んでるんじゃないかってくらい顔色が悪い。真っ青を通り越して土気色?

 あと、魔術師みたいな爺さん、兄ちゃん、姉ちゃんたちは、枯れ木レベルでガリガリだ。


 俺たち全員思ったね。

 なんか、ヤバくね? って。


「こ、子供だと?」


 王様は俺たちを見て真っ青になった。


「召喚は成功したのではないのか? 勇者はどこだ?」

「陛下、召喚の陣は確かに五百年前と同じように作動いたしました。となれば、彼らの中に我らが待ち望んだ勇者がいるのではないでしょうか?」

「子供だぞ、子供に戦わせると言うのか!」


 王様は苦悩に顔を歪めた。


「あのう、詳しい話を聞かせてもらえますか?」


 勝手に盛り上がっている王様サイドに声をかけたのは委員長の小幡だった。さすが出来る男、小幡。

 小幡の一言をきっかけに、俺たちはことの顛末を知ることになった。


 曰く。

 大陸のど真ん中に魔王領があって、十年前くらいに魔王が代替わりしてから、魔王は周囲の国に宣戦布告をしたそうだ。

 それと共に魔物を放ったり、毒を撒き散らしたり、結構地味に酷いことをしてきたらしい。

 毒なんかはじわじわと周辺国の民と土地を蝕んでいき、周辺国はこの十年でヤバいくらい地力を奪われたとか。

 このままでは、人間は滅ぼされてしまう。

 最後の手段として、勇者召喚を行ったそうだ。


「今まで幾度も失敗したが、この度ようやく成功したのだ」


 五百年前の召喚以来、なんか失敗続きだったらしい。

 で今回ようやく手応えあったと喜んだの束の間。召喚されたのは現役高校二年生の三十人だった。

 そりゃがっかりもするよな。

 日本人は特に若く見られるから、王様たちにはマジで子供に見えたらしい。どのくらい子供かって言うと、俺たちの感覚だと小学生くらいだって。

 いくら勇者でも小学生に戦わせるのは酷っていうか鬼畜だよね。


 その結論に至った王様たちは疲弊しても常識人のようだ。良かった。

 いきなり戦場とかに放り込まれなくて。


 しかし、このままでは世界は魔王に支配されてしまう。最悪の展開は回避されていない。


「勇者っ! なに、チート? オレチート?」


 よっしゃあと雄叫びをあげているのは高梁。説明するまでもないがお調子者だ。


「も、もしかしたら、僕にも隠された力が…?」


 ぼそぼそ喋りながらも期待にうち震えているのオタクの吉村。


 え、どうなの?

 本当に俺たちの中にチートな勇者がいるのか?

 ざわつく俺たちを魔術師の爺さんと兄ちゃんと姉ちゃんが鑑定し始めた。


 勝手に鑑定の話になってどうよ? とか思わなくもないけど、何かスキルとかあるなら知っておきたいよな。


 どうやら俺たちはもう元の世界に帰れそうにないし。

 世界中を探したら見つかるかも知れないけど、爺さんは帰る方法を知らないんだそうだ。

 爺さんは俺たちに頭を下げて詫びながらそう言った。


 爺さん、大丈夫? さっきよりも顔色悪くなってるよ。

 このまま、ポキッて死んじゃわない?


「ま、まさかの文字チート…オレ、本とかまともに読んだことないのに…」


 高梁は水晶みたいなものでできたプレートから手を離すと床に崩れ落ちた。


 プレートに触れるとステータスが解るらしい。文字チートって、どんな文書でも読めるってことか。確かに、高梁じゃあ豚に真珠だな。つか、お前よく高校入試通ったな。


「あ、暗算って…」


 吉村も呆然としている。期待したスキルじゃなかったようだ。

 暗算かあ、商人には垂涎のスキルじゃね?


「なんてことだ…」


 二人を横目で見ながらプレートに手を乗せると兄ちゃんが青ざめた。


「タタル、どうした?」

「お師匠様、彼なのですが…」


 兄ちゃん、タタルはプレートを爺さんに見せる。プレートを覗き込んだ爺さんは目を見開いた。


「なんと! 魔力値がゼロとは!」

「え?」


 驚愕の事実が判明した。


 なんと、俺には魔力が皆目ないらしい。

 タタルや爺さんたちが呆然とするほどの酷さ。

 俺も横からプレートを覗く。


 体力:160

 気力:160

 魔力:0

 属性:

 加護:


 なんだろう。素人でも解る悲惨な内容だった。


「属性もなく、加護もないとは…」


 爺さんと兄ちゃんは俺を痛ましげに見る。

 魔力なし、属性なし、加護なしの三重苦は前代未聞らしい。

 体力、気力は人並み。

 基本、体力と気力は年齢かける十、プラスマイナス十パーセントが標準で、それを下回ると虚弱体質で上回ると健康優良。

 俺は標準ど真ん中。絵に描いたようなド普通の異世界人だった。

 泣ける。


「ま、まあまあ。普通が一番だよ」

「サッサ、ドンマイ。向こうと変わらないと思えば」


 慰めが慰めにならない…


 三十人もいるから、さすがに勇者クラス、聖女クラスもいた。小幡は魔法チートらしい。くそう、リア充かっ! 書記の浜崎は浄化の上位持ちの聖女予備軍。

 浜崎は美少女だからそのポジは許容できる。

 俺をサッサと呼ぶのだけは未だによく解らんが。俺は雑巾じゃねえ。


 とにかく、三十人中二十九人は何かしらのスキル、能力、属性、加護を持っていた。


 なーにーもーなーいーのーはーおーれーだーけー!


 項垂れる俺は、二十九人から全力で慰められた。


 ひとり、こういうのがいると、クラスは纏まるらしい。

 王様たちが望む勇者とかではないが、元の世界に戻れない以上、皆はこちらの世界で生きる覚悟をある程度決めた。

 戦闘系、浄化系、治療系チートは魔族と戦うことも申し出た。

 その代わり、自分たちの生活の保証を約束させた。

 王様たちは泣くほどに喜び、この国での俺たちの安定した生活を保証した。

 戦えない者は、城勤めとか王都の有力商家勤めとか、職も保証してくれた。


 当面の生活の心配をしなくて済むだけでもかなり有難い話だ。


 俺はと言えば、王都に残ることもできたけど、辞退した。

 だって、三重苦が生きていくには、王都は魔法で溢れている。

 生活魔法を付与された魔法具って言うのが、都のあちこちに張り巡らされていて、快適なんだろうけどさ。

 魔力がないと明かり一つ点せないんだよ。

 魔力を封じ込めた魔法具を支給してくれるみたいだけど、なんかもう最初から心が折れてしまって、夢も希望もなくなってんだよ。


 そういう訳で、俺は魔王領とは逆に位置する農村に移住することになった。

 村レベルだと、魔法具もそんなに多くない。不便らしいが、魔法具の恩恵を授かっていない俺には大して差はない。


 それに現在地方の村は人手不足なんだって。

 男は十五で成人すると徴兵される。働き盛りが持っていかれるから、農村は大変なんだそうだ。

 徴兵されないのは、規定以下の体力の持ち主のみ。体が弱いとさすがに兵隊さんは無理だからね。

 なので、村にいるのは年寄りと女子供と病弱な男。

 だから、俺の移住は歓迎された。

 ド普通だけど、健康だからね。農村には得難い人材なんだぜえ!

 …とりあえず、自分を慰めておく。

 うん、歓迎されてるならいいじゃない。

 うん。


 かくして俺は、田舎のサタ村の新しい住人となった。




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