『テストつかれた』
『テストつかれた』
今日のホワイトボードには、やる気の無い少しフニャッとした文字でそうかかれていた。
だらしなく机に前のめりになって漫画を読んでいる栗島先輩と視線が合うが、すぐに逸らされてしまった。
「園部さんと桃井さんは高校初のテストでしたがどうでしたか?」
「私はノー勉でも大体は予備知識だけでいけたぞ」
この横にいる青い髪の天才少女には高校の定期テストなんて余裕なのだろう。
俺はどこにでもいる凡人だ、必死こいて勉強して満身創痍な状態。最初から躓くと後が大変と担任に言われたのでテスト期間中は真面目に家で勉強していた。
「俺は中々に疲れました、やはり中学とは違いますね」
「助手君、二人で夜中共に手取り足取り勉強したあの範囲はどうだったかな?」
「変な言い回しは止めてくれって……お陰さまで何とかなったよ、ありがとうな」
実際、凄く分かりやすくて為になった。最後に出てくる様な応用問題もサラッと解けてしまうくらいには身になる教え方で感心してしまうほどだ。
「まぁ、でもその様子ですと園部さんも何とか赤点は大丈夫そうですねぇ」
「いやぁ、まぁ何とか回避できそうですね」
一番心配だった数学科目が何とか乗り越えられたわけだし……多分、きっと、恐らく大丈夫なはず……。
「中間が終わったら、すぐ期末テストね」
「栗島先輩……現実を見せないでほしい……」
先ほどまですっかり忘れていた事なのに……。
しかし、それが終われば夏休みに……!!
「助手君にまた勉強を教えられるのか!」
「教えるならもう少し普通に教えてほしいな……」
「別に変な事はしていないじゃないか」
あれのどこが変じゃないんだ……。
それは一週間ほど前のこと。
俺は一人、家で勉強をしていた。
すると、ガチャッと鍵の開く音がした。
「助手君、可愛い私が来たぞっ」
「あー……そう、今はお呼びでない」
ウサギのぬいぐるみパジャマを着た桃井さんが家に押し掛けてきた。
流れるように俺の背後へとまわり、後ろから抱きついてきた。
「今何の勉強をしているのだ?」
「数学だけど……」
「教えたい」
「さすがに大丈夫」
即答できるほどには今のところ詰まっていない。
詰まったら聞こうとは思っていたが、この調子なら聞かなくても大丈夫そうだ。
背後に温もりを感じながら、暫くそのまま筆を進めていく。
「一樹……」
「っ!?なんだよ急に……」
突然、耳元で吐息混じりに名前を呼ばれてゾワッとした。
「さすがにそこまで無視されるとツラいぞ……」
「何を彼女みたいな事を」
「フラれたからなー……まだちょっぴりショックを受けているのだぞ?」
別に彼女の事が嫌いではない、けど何か付き合うとなるとまだ何か違う気がするのだ。
桃井さんは離れて俺のベッドに寝転ぶ。
そのまま俺は勉強、桃井さんは寝転んでスマホをいじっていた。
「桃井さん、ちょっと質問いい?」
「いいぞっ……!」
待ってましたと言わんばかりに飛んでくる桃井さん。
すぐさま右腕に抱きついてくる。
「抱きつきはしなくて良くない……?」
「なら教えられない……離れたら死ぬ……」
なんだかめんどくさい彼女の様な事を言い出した。
別に熱い以外には害はないのでそのまま放置することに。
桃井さんの説明はよくわかるのだが……どうしても腕にいるのが気になってしょうがない。
そんな感じに過ごすこと数時間。
「助手君……?」
「ん?どうした?」
顔をわずかに紅潮させ、手で口元を隠して恥ずかしそうに聞いてきた。
「私の事……前よりかは好きになってくれたか……?」
「……ノーコメント」
「そうか……」
少し残念そうにして立ち上がる桃井さん。
「そろそろ遅くなるしお暇しようかな」
「あぁ、教えてくれて……ありがとう」
「別に構わないさ、いつでも聞いてほしい」
彼女が出ていくのを横目にみる。
それから毎回そんな感じになるわけで、正直な所気が気でない瞬間が何度かあった……俺も年頃の男子だししょうがない。
「とにかく、普通に向かい合って教えてほしい……夏は熱いからさすがにキツい」
「わかった、善処しよう」
確実に直してこないな、これは。
そんな顔をしている。
そのあとはどんな勉強をしただの、今回のテストで自信のある科目は何かとか話をした。
気がつけば、小百合さんは小さな水槽を眺めて、いつもの調子に戻っていた。
「小百合さん、大丈夫ですか?」
「何がでしょう?」
「いや、その……なんでもないです」
「何でもないのにそんなことを……今ので数十秒無駄に過ごしました、どうしてくれるんですか?」
この通り通常運転だ、なにも心配することはない。
「あぁ、でもやっぱり疲れたわね……今日は解散、かいさーん」
そうして日は、テスト明けと言うこともあり、主に栗島先輩が疲れているだろうという事で、早めの解散になったのだった。
れぽです(/´△`\)
がんばる……(´-ω-`)