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あたしがいいって言ったらいいの

「しーぃ、くんっ」

「ふふ、何? 綾子」

「なんでもなーい。呼んだだけ。えへへ、可愛いでしょ」

「うん、綾子は可愛い」

「えへへぇ。もう、しーくんてば素直。大好きっ」

「私も大好きだよ」


 恋人になったので、今日から一緒に学校に行くのだ。昨日は見つめてるだけで時間を忘れて、結局クレープ持ったまま日が暮れた。家に帰って寝る前に電話してたら、また実感もわいてきて、さっそく今日から待ち合わせる約束をしたのだ。

 そんなわけで、学校までの間こうして一緒にお話ししている。はぁ。一日ぶりだけどしーくんやっぱイケメンだなぁ。


「えへへ、しーくーん」

「もう、綾子ってば。私より浮かれてるね」

「だってしーくんのことが好きなんだもん。それにしーくんよりとか、比較しても仕方なくない? だってあたしがしーくんが好きで嬉しくて浮かれてるんだもん」

「……綾子はやっぱり可愛いなぁ。私も大好きだよ」

「じゃあもっと浮かれてもいいんだよ?」

「結構浮かれてるつもりだけど」

「ま、いいけど。しーくんがあたしのこと大好きなのはわかってるし」

「……綾子はさすがだね。そういうところが、好きだな」

「そう? ありがとう。あたしはしーくんのイケメンなとこが好きかな」

「知ってるよ」

「もー、冗談だってばぁ。外見だけじゃないから」

「わかってる。私も冗談だよ」


 そんな感じでいちゃいちゃしながら、時々会話の流れでしーくんの肩を叩いたりするのにもちょっとどきどきしつつ、学校へ向かった。


 できるだけ長く二人きり(周りの通行人は無視)でいたいからゆっくり歩いたけど、しーくんといるとすぐについてしまった。はー。ちょっと残念。


「あ、おはよぅ、二人とも」

「あ、ひま。おっはー」

「おはよう、ひま」


 ゆっくり歩くためにいつもよりかなり早めにでたので、まだいつもより早い時間に到着したけど、ひまはすでに席についていた。さすが真面目。佳乃子はいない。馬鹿だからね。


「あ、聞いて聞いてひま。あたしたち、付き合うことにしたから」

「えっ」

「んー? あたしたち? ごめんねぇ、綾子ちゃん。ひまちゃんにはぁ、心に決めた人がいるからー」

「いや、そう言うボケいらないから」


 ってか、なんでしーくんが『えっ』って言うの? 付き合ってるじゃん。なんで驚くの? 付き合ってないと思ってたの? それで朝から好き好き言ってたとか、こっちがびっくりするよ?

 あたしがしーくんにジト目を送ると、しーくんははっとしたようにあたしを見てから、いやいやと手を振りながら一歩あたしのもとへ戻ってくる。


「誤解だよ? 別に言ってほしくないとかそういうのではなくて、その、あっさり言うから驚いて」

「なんでー? あたし恋人できたら自慢したいって言ったことあるよ?」

「あるけど、女の子同士だし」

「そうだけど。あたしもちょっと思ってたけど。でも好きになったしもうそんなの関係ないよ。あたしがいいって言ったらいいの。ね? ひま? うらやましいでしょ?」

「うーん。別にうらやましくはないけどぉ、よかったねー」

「そうでしょう。しーくんはイケメンだからうらやましがるのもわかるぅ。でもあたしのだけどね。ふふふっ」

「わー、全然話きいてなーい。さすが綾子ちゃーん」

「ふふふ。あー、しーくん大好き」


 席に座ったままのひまに存分に自慢しつつ、しーくんの右手の袖口をひいて鞄をあたしの机に置かせ、そのままのろけに入る。


「昨日しーくんと初デートだったの。んふふ」

「そうだったんだー」

「なにー? 何か盛り上がってんじゃん? てか綾子珍しく早いじゃん」


 おっと。ここで佳乃子が自分の席に鞄だけおいてやってきた。全く寂しがり屋の混ぜてほしがりやめ。でも今はいい! くくく、ここで積年の恨み、は言い過ぎだけど、さんざん自慢された仕返しにこれからどんどん自慢するんだから!


「おはよう、佳乃子! 実はしーくんと付き合うことにしたから。いいでしょー」

「……は?」


 佳乃子は失礼なことに何言ってんだこの馬鹿とでも言いたげな胡乱な目をして、そのままあたしの隣のしーくんに視線をスライドさせた。しーくんははにかむように微笑みながら頷く。


「そうなんだ。実は、前から好きだったんだ」

「……ちょっと、私もどきっとした。マジでイケメンだなぁ、しーくんは。てか、まじか」

「うん。なんというか、ごめん」

「謝られることじゃないけど」

「そうだよ、しーくん。自慢することだよ。あたしみたいな可愛い彼女ができたんだから。佳乃子も、もう、美男美女カップルだからって嫉妬はやめてよね。あ、でももっと羨ましがってもいいんだよ」

「……こんな馬鹿でほんっとにいいの?」

「……こういうとこ、可愛い、よね?」

「あー、はい。まあ、好きにしたら?」


 何だか佳乃子がとても失礼なことを言っているけど、今日はしーくんがいてくれるだけで嬉しくてわくわくどきどきして、ずっと夢心地で楽しいから許す。


「それで昨日しーくんとデートしたんだけど、しーくんたら公園のベンチにハンカチしいてくれたの。めっちゃ王子様じゃない? 素敵でしょー」

「……綾子が喜んでくれて、嬉しいよ」


 すごいときめきポイントだったので自慢したんだけど、しーくんはちょっと恥ずかしくなったらしく、頬を染めて視線をあたしたちからそらして、それからまた戻して微笑んだ。はぁ。何だか可愛い。可愛いしーくんも素敵。









「てなわけで今日もデートするから。じゃあねー」

「あ、ごめんね、二人とも。じゃあまたね」


 こうして2人は仲良さそうに教室から出て行った。見るからにハイテンションな綾子がぐいぐい引っ張ってるけど、しーくんもまんざらではなさそう、と言うか嬉しそうだ。

 綾子のことが前から好きだったというのは、フォローでもなんでもないらしい。今まで全然気づかなかった。


 仕方ないのであぶれた私とひまも一緒に教室を出る。


「にしてもあの二人、意外だよね」

「そうかなぁ。しーくんは前から、綾子ちゃんのこと好き好きーって雰囲気してたよー?」

「えー? 調子いいこと言ってない?」


 全然素振りも感じてなかったし、普段綾子に恋愛経験者ぶってる私が、2次元オタのひま以下の感度だったのが悔しいので、半目で疑ってみる。ひまは得意気に胸を張ってみせる。


「ほんとだもーん。あとぉ、本人も言ってたけどー、美男美女でよくないぃ?」

「美男じゃないけど。まあパッと見はね。てか、まじかぁ。女子高だしいるらしいって聞いたけど。てか確かクラスに二組はいるけど、まさか綾子がそうだとはね」


 偏見するつもりはなかったけど、綾子は全くそうだと思わなくて、てか身近な存在でそう言うのがあるとは思ってなくて普通に驚いたしちょっと引いてた。


「うーん。他のクラスとか他の学年と付き合ってるのもいれるとぉ、8人くらいいるよー?」

「まじで。てかあんた、私ら以外と友達いない割に、情報通よね」

「見てたらわかるよぅ」

「友達いないのは否定しないのね」

「佳之子ちゃんたちいたら十分だよぉ」

「私はいいけど、あの二人付き合ったらあんたはちょっと寂しいでしょ」


 私は別に、学校で話すくらいなら他にも友達いるし、彼氏いるから学外で遊ぶの減っても気になんないけど。でもこの子他に友達いないし、放課後もなぁ。さすがに私と二人で遊ぶばっかは。

 別に普通にひまのこと友達だと思ってるけど、二人きりばっかはなんか。ひまって自分からメチャクチャ話す方でもないし。基本四人でも私と綾子が話して、二人が聞き役って感じだし。ひまと二人でずっと話すってなかったし、ちょっと不安と言うか。


「んー、まー、でも二人が幸せならぁ、嬉しいよねー」

「……そうね」


 でもほんとに、いい子はいい子なんだよね。綾子が仲間にいれてなし崩しに友達になった形だけど、この機会にもちょっと、ひまと仲良くなってみるのもあり、かな?


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