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よろしくね、王子様

 どこが好きなの?と聞くと全部好きだよ。と返ってきた。

 その優しい微笑みにときめいたけど、違う。あたしはそう言う定型文が欲しいんじゃない。いや嬉しくなったけど。あたしはうっかり顔が緩んでしまわないよう、ちょっと子供っぽいけど頬を膨らませて怒ってますアピールをする。


「そういう、こー。おたまぼかし…おたま」

「おためごかし?」

「そう、それ! そう言う言い訳臭いのじゃなくて、本気で聞いてるのに」

「うーん、私も本気なんだけど」


 しーくんは少し困ったように微笑む。う、こ、困らせてる?

 でも、だって。ほんとにわかんなくなっちゃったんだもん。しーくんが、どうしてあたしを好きなのかわからないと、なんか、不安なんだもん。


「だって……しーくんて、すごいカッコイイし、なんていうか、あたしのほうが凄いことってないって言うか」

「綾子、好きとか嫌いって。どっちが凄いとか、そう言うことじゃないよ。それに、綾子は凄いよ。綾子がいるだけで、私は自分に自信が持てるから」

「? ……? ん? え? 自信……? あたしと言う自分より下の存在をみて自信を持つということ?」

「違うよ!? なんでそんなに急にネガティブになってるの!?」


 えー? だって、あたしを見て自信を持つって、どういうこと? そもそもあたしは別に、普通に自分のこと信じてたし、殊更自信があると意識してたわけじゃない。なにかがあって自信を持つ、と言う感覚がよくわからない。だって自分のことだし、自分だから信じてるものじゃない? んー。なんかよくわかんなくなってきた。


「ネガティブってか、その発言はそう受け取るでしょ」

「そ、そうかな。うーん、でも、じゃあなんていえばいいかな。私は本当に、今までずっと一緒にいた、ありのままの綾子が好きなんだけど」

「う……あ、ありがと」


 照れるぅ。って、そうだ。そもそもあたし自身に自信がないから聞いたんだった。なんで自信がなくなったんだっけ? あ、しーくんがあたしのこと好きと言ってくれる理由がわからないからか。んー、でもなんか、あたしのこと好きだって言ってこんな風にめっちゃ優しく微笑んで見つめられてると、しーくんがあたしのこと好きなのが伝わってくる。

 その気持ちを疑うほど、この目を疑うほど、しーくんとあたしは他人じゃない。だからもう、気にしなくていいか。不安な気持ちも、しーくんと隣で見つめあってるとなくなってしまった。


「あ、あのさ、しーくん。変なこと聞いてごめんね。うん。あたしもしーくんのこと好き、かも」


 しーくんに好かれていると思うと、どきどきするし嬉しくてしーくんのことぎゅっとしたくなる。それにやっぱり好みだし。いやほんと、そればっかかって思われるかもだけど、でもやっぱ見た目とかも重要だし。見た目も声もしぐさもセリフもいちいち好みなんだもん。だから、あたしも好きなのかも。


 そう思って、思い切ってそう言ったのに、しーくんは少し目を見開いて、ぱっと嬉しそうに頬を赤く染めて微笑んで、だけどちょっぴり意地悪そうに顎をひいてあたしの顔を覗き込んできた。


「かも?」


 うぐ。いやまあ、そりゃ? しーくんは明確に好きって言ってくれてるのに濁したのはあれだけどさ。


「う。まぁ、好きだけど。けどさぁ」


 急すぎて、本当かなって思ってしまう。しーくんのこと、本当に昨日までなんとも思っていなかったのに。好きだって言われてその気になってるだけじゃないか。

 だってそんなに簡単に、大好きな人を決めていいのか。軽いノリで、いい人なら誰でもいいって本気で思ってた。だけどいざ恋人になるのかって聞かれたら、やっぱり、躊躇ってしまう。


 だってよく考えたら、恋人になったらただいちゃいちゃするだけじゃなくて、やっぱりキスしたりとかあるわけだし。あ、でもしーくんとは女同士だからそれ以上はないのか。じゃ、じゃあ、そこまで深く考えずに好きだけで付き合ってもいいのかな?

 こんな風に考えてしまう時点で、少なくとも今、あたししーくんのこと特別に大好きだって思ってしまってる。それはもう、間違いないと思う。


 この気持ちが、単なる勢いだけで後々小さくなったりしてしまうとして、そんな不確かな状態で、しーくんと本当の恋人になっても、いいのかな?


「急に、しーくんのこと、意識して、好きだって思っちゃったから、急に、好きじゃなくなるかもって、思ったら、なんか、しーくんに悪いし。てかそうなったとしても、その後もずっと友達としてもそばにいてほしいし、簡単に答えを出しにくいって言うか」

「綾子は本当に、可愛いね」

「ほわ。な、なに。流れ読んでよ。そう言う流れじゃなかったでしょ」

「ごめん。本当に綾子が可愛すぎたから」


 しーくんは声をあげて笑いそうなのをこらえるように、くすくす笑いながらそんなことを言う。

 笑われているのに、全然嫌ではなくて、そんなでも可愛いと言われると嬉しくてにやけそうになる。うー、しーくん、やっぱり好きだ。だって、こんな風に、あたし以外に可愛い可愛いと言ってこんな顔を向けるなんて、すごく嫌だ。

 ずっとあたしの方を向いていてほしいと、そう思ってしまうんだもん。だからやっぱり、これは、恋になるんだと思う。


「でもいいんだよ。綾子はそんなこと気にしなくて。だってそれは、私が頑張ることだから」

「え?」

「私のことを好きでいてもらうのは、私が努力することだよ。だから綾子が私のことを好きだと思ってくれるなら、素直にそう思ってくれてるだけで、私はとても嬉しい。綾子は頑張らなくていいから、そのまま正直にいてくれればいいんだよ」


 しーくんの言葉がじわじわと胸に染み入る。ああ、しーくんは本当に今のあたしを丸ごと好きでいてくれて、ありのまま受け入れてくれようとしているんだ。

 そう思えば、好き以外のことを理由につけて、かもなんて半端なことを言ったのが申し訳なくなってくる。本当に、あたしはしーくんのことが


「しーくん、好きだよ」

「ありがとう。改めて、私と、付き合ってくれますか?」

「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 熱くてたまらない、心臓もうるさくて全身熱いけど、もう耳とか顔なんてとれちゃうんじゃないかって思うくらい熱くてたぶん馬鹿みたいに真っ赤になってる。

 だけど目の前のしーくんは真っ赤だけどとても素敵な微笑みで、全然馬鹿みたいと思わないし、きっとしーくんも同じ風に思ってくれてるはずだから、顔をそらして自分の顔を隠そうなんてちっとも思わない。

 ずっと、しーくんのことを見つめていたいし、見つめてもらいたい。しーくん。しーくんこそ、あたしの王子様だったんだ。近くに居すぎて気づかなかった。でももう、目を離さない。


 こうしてあたしは、しーくんと正式に恋人になることになった。


「あ、でもあれだよね。あたしは、しーくんに好かれる努力をするってことだよね? あってる?」

「今のままで十分だけど、そう思ってくれるくらい好いてくれてるって思えるから、嬉しいな」

「うん。頑張るから、末永くよろしくね、王子様」

「もちろん、お姫様」

「……恥ずかしくて死にそう」


 調子に乗って余計恥ずかしくてついに右手を顔に当てて半分隠すあたしに、しーくんはそれほどでもないのか笑って、また可愛いねと言った。しーくんはカッコイイよう。


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