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そういうとこ、好感度アップアップだよ

 こうしてまさかの急展開。一時間前まで想像もしていなかった恋人ができた。仮だけど。女子だけど。ていうか何が一番想定外って、相手がしーくんなんだけど。


「じゃ、じゃあ、また明日……」

「う、うん……」


 あたしの最寄り駅についたのでいつも通り別れた。別れたけど、気持ちは全然切り替わらない。

 なんか、すごい勢いで、恋人(仮)になってしまった。うーん。どうしよう。どうしていいのかわからない。いやまあ、今急にどうするも何も家に帰って寝るだけだけど。

 何というか、妙にそわそわしてしまって落ち着かない。何かしなきゃ、みたいな気持ちでむずむずする。


「ただいまー」

「おかえりなさい。もうすぐ夕ご飯できるから、早く着替えてきなさい」

「はーい」


 家について母親にせかされ、夕ご飯を食べて珍しく積極的にまじめに課題してお風呂入って、さてあとは寝るだけってなって手持無沙汰になると、やっぱり落ち着かない。

 時間はまだ夜の9時。寝るのにはさすがにまだ早すぎる。小学生でもまだ寝ない。ベッドに座ってテレビをつけてチャンネルを一通り回してみたけど、いつもなら見てるバラエティも全然入ってこない。たまに見る音楽番組も、普段ならイケメンだと喜ぶアイドルゲストがでてるのに、いまいち気持ちが盛り上がらない。


「……はぁ」


 なんだこれ。付き合うってこんな落ち着かないこと? うーん。なんかこう、さっきからしーくんのことばっかり考えてしまう。考えないでおこうと思っても、しーくんの顔が勝手に頭に浮かんでくる。


 別にしーくんに恋してた訳じゃないし、今までこんなことなかった。しーくんと恋人って言っても、口で言っただけだし、特別な何かがあったわけじゃないのに、どうしてこんなにさっきまでと違うの?


 Pi!


「わっ!」


 考え込んでいたせいか、携帯電話の音に過剰反応してしまった。恥ずかしくなりながら、少しだけ乱暴に携帯電話をとる。無料通信アプリrainだ。しーくんからアイコンスタンプがきてる。

 思わずどきっとしながら表示ボタンを押す。


『今電話していい?』

『(恥ずかしがってる猫のスタンプ)』


 で、電話か。まあ。いいけど。オーケースタンプを押すとすぐにかかってきた。なんとなくベットに寝転がりながら電話にでる。


「も、もしもし」

「もしもし。その、元気?」


 とぼけたしーくんの問いかけに、思わず笑ってしまう。


「ふふっ。さっきまで会ってたのに、今更?」

「そ、そうだよね。ごめん、なんか、緊張しちゃって」

「そ、そっか。その、あたしも、なんか、ちょっと緊張してた。でもあれだよね、しーくんはしーくんだもん。いつも通りだよね」

「う、うん。いつもの綾子が好きだから、いつものままでいてほしい、かな」

「っ……そ、そなんだ……なんか、えへへ。うんと……なんか、嘘みたいだよね。さっきまで友達だったのに、恋人なんて」

「……うん。私もそう思う。だから、不安で、電話かけちゃったんだ。ごめんね」


 えへへと照れ笑いするようにしーくんは笑う。な、なんか、不安になったしーくん、可愛いかも。いや、なんか、急に意識しすぎて、なんか勢いにのせられちゃってる気がする。ほんとにこのまま素直にしーくんにときめいちゃっていいのかな?

 好きって言われて好みだからってその気になってるけど、あたし、本気で女の子のしーくんと恋人として付き合っていっていいのかな? いやでも、だからこその(仮)をつけたわけだし、いいよね? とりあえず仮なんだから、いけるとこまでいってあたしが恋しちゃうのか、考えたらいいよね? うん。


「全然、いいよ。あたしもなんか、実感出てきたっていうか、まあその、とにかく、よろしく」

「……うん。ありがとう。こちらこそ、改めてよろしく」


 そもそも付き合ったことがないので恋人(仮)が恋人(本番)とどう違うのかもよくわかってないけど、とりあえず、恋人ごっこということで、お試しでいつでも別れらる恋人ってことで、普通に付き合えばいいよね?

 うん……明日から、楽しみかも。









「おはよー」

「はよーっす。あん? なんかあんた機嫌いい?」

「そう?」


 佳乃子の問いかけははぐらかし、ひまの隣のあたしの席につく。あたしに気づいたひまは顔をあげてんー?と首をかしげる。


「ほんとだぁ? なんかにやにやーってしてるー」

「し、してない。てか、それを言うならニコニコ、でしょ。いつもニコニコ優しい綾子ちゃんのイメージに合わない形容詞使わないでよ」

「にやにやって形容詞なの?」

「うーんとぉ、形容詞は名詞を修飾してー。副詞が動詞の修飾でしょー? ニヤニヤ笑うって動詞を修飾するからぁ、副詞じゃない?」

「さすが、成績優秀者」

「それほどでもー」

「うざ。てか、座んな」


 窓際のあたしと反対方向の扉側の席の佳乃子が、わざわざついて来てあたしの机の上に図々しくも座って馬鹿にしてくるので、いらっとして一限目の国語の教科書でお尻を押し出す。


「セクハラー」

「目の前にお尻向けられたあたしこそセクハラ受けてるってーの。なんなの? もうすぐ授業始まるのに絡んでこないでよ」

「つっめったー。せっかく優しい私が嬉しそうな綾子の自慢話聞いて、幸せ膨らませてあげようとしてるってのに。てか予鈴もまだだし」


 やれやれと肩をすくめる佳乃子に、うざがるより先に身を固くする。

 べ、べつにそんな、他人から見てわかるほど嬉しそうとか、そんなことないし。そりゃちょっとくらい? まあこれからの日々に? 期待してないって言ったらウソだけど?

 だからって佳代子に知られて面白がられるのとか、絶対NG。てか仮だしね。そんな大々的に言う段階ではないしね。だから絶対ばれたくない!


「おはよう、三人とも。今日もいい天気だね」

「きたっ、王子挨拶。はいはいおはよー」

「おはよぅ、しーくん」

「おはよう、しーくん。さっそくだけどちょっとこっち来て」

「えっ?」


 てなわけで、昨日言い忘れたからしーくんに口止めしなきゃ!

 しーくんの席はひまの二つ前で、荷物を持ったままやってきて挨拶してきたしーくんの手を引きながら立ち上がり、しーくんの荷物は佳乃子の膝に投げ置く。そしてそのまま教室から連れて出る。


 えっと。人気のないとこってあったかな? お。このクラス誰もいないじゃん。移動教室か。よし、入ろう。

 目についた二つ隣のクラスに入り、しーくんを入れてドアを閉める。よし、としーくんを振り向くと、しーくんは戸惑ったよう、なのはいいけどなんだかちょっと頬赤い? 照れてる?


「あの、綾子。急にどうしたの? いや、嬉しいけどね。もうすぐ授業だし」

「ん? うん。すぐ済む話だから。ごめんね。勝手な話だけど、あの、仮の話、内緒にしてほしいんだ。特に佳乃子には」

「あ、そういうことか。大丈夫。まだちゃんと認められたわけでもないのに吹聴する気はないし、綾子が嫌がるならなおさらだよ」

「ありがと。そういうとこ、好感度アップアップだよ」

「それは嬉しいな」


 にこっと笑うしーくん。う。爽やかで素敵。って! あたしずっとしーくんの手を握ったままだった!

 別に、普段から手くらい繋いだり腕くんだり抱き着いたりしてたけど。しーくんカッコイイからスキンシップよくしてたけど。でも恋人となれば全然別だ!

 手をつなぐくらいならまあ、付き合った初日からしてもありだと思うし、えっちくもないけど。でもやっぱ、恥ずかしいし。まだ心の準備できてない。


 あたしは慌てて手を離して、握ってた右手を左手で握りしめて誤魔化しながら、さりげなさを装って扉を向いてしーくんに背を向ける。顔、熱くなったのばれてないよね?

 奇しくも予鈴がなった。ベストタイミング!


「じゃ、そう言うことで。も、もどろっか」

「うん。綾子は可愛いね」

「っ、ばーか。何当たり前のこと言ってんの」


 なんか、しーくん余裕じゃない? そう言う大人っぽいリードする感じ、カッコイイけど。でも友達意識もあるから、なんかちょっと悔しい。


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