ずっと大事にするから
その後の話。時間が少し飛んで、しーくんの誕生日に関する話です。こちら後編です。
「えへへ、しーくん」
「……似合う、ね?」
目を開けると、綾子が大きめWのリボンがついたカチューシャをつけて私に向かって正面に座っている。可愛い、けどその手には何もない? 首を傾げる私に、綾子はそっと私の両手をそれぞれ軽くつかんで、前かがみになるようにして顔を寄せてきた。
内緒話かな? と私も体の角度を変えて向かい合い、顔を寄せる。
「しーくん。あたし、立花綾子は、曙茂子さん、しーくんのことが大好きで、愛してます。世界で一番、大好きです。えへへ。だから、大好きなしーくんの誕生日にあげるものは、あたし、です」
「……」
お、あ、おぇ?
ちょっと、可愛すぎる言葉と内容に頭がついていかない。え、え? 要は、プレゼントは、あたし、ってこと? ま、まじ、まじでっ!? え。ほんとに? 本当にいいの? え? 全部? 丸ごと全部綾子のすべてを私のものにしていいってこと!? え。まじで、親がいないのってそう言う、そう言う意味だったの!?
「もう。返事して。せっかくあたしがしーくんに、その、勇気出して、き、キス、するって。あたしの唇をささげるって言ってるのに……嫌なの?」
「はっ!?」
え、あ、く、唇? あ、唇か。あ、はい。うん。ごめん。なんかうん。ちょっと頭いっぱいになって馬鹿になってた。それもこれも、綾子が好きすぎるからだから、許してほしい。
ろくに反応できなかった私に、綾子は赤い顔のまま唇を尖らしていて、だけどそれは恥ずかしさから拗ねて見せているのだとすぐわかる。私は頭を何とか切り替え、頭をふってから口を開く。
「ご、ごめん。ちょっと、嬉しすぎてパニックになってた」
綾子とちょっとでも近づけたらって思っていたのだ。その中でも最上級のキスを許してもらえるなんて、これ以上のプレゼントはない。急に私が高望みしすぎただけだ。落ち着け私。
綾子はふぅんと、嬉しそうににやにやと笑いだす。そしてぎゅっと私の手を持つ手を強くして、握りしめる。
「そうなの? うふふ。しーくんでも、そうなるんだ。あたしもいっぱいいっぱいだけど、大丈夫だよ2人一緒だもん。一緒に、進んでいこう」
「……うん。綾子、ありがとう。私も、世界一大好きだよ。綾子のこと、ずっと大事にするから、もらうね」
綾子にとって、キスって言うのは、本当に重要なことだってわかってる。本当に自分のすべてをあげるって、そんな気持ちで言ってくれたのがわかって、遅れて心臓がばくばくとうるさくなってきた。綾子が震えを隠すように強く力を籠めるその手を握り返して、誓う様に、私もしっかりと綾子の目を正面から見つめて、謹んで、誕生日プレゼントをもらう。
「うん……一番の宝物にしなきゃ、ダメだからね?」
「もちろん。約束するよ」
そっと、顔を近づける。綾子はもう赤いところしかないくらい、真っ赤になって、だけど目をそらさないままに静かに瞼をおろした。
どきどきと心臓ごと体が飛び跳ねそうだ。だけど、ここで失敗するわけにいかない。私は綾子のためなら、余裕のある素敵な王子様になりたいのだから。
そっと目をあけたまま綾子に近づく。その距離が1センチ無くなる度に、世界がどんどん変えられていくみたいに感じられる。
ああ。綾子が美しすぎて、世界が止まってしまいそうだ。だけどお願いだ。美しいからこそ、時間よ止まらないでくれと、心から願う。これからずっと、綾子とともに時間を進めていくのだから。
ゆっくりと、私と綾子の唇がふれあう。自然と私も目を閉じた。何度か頬にキスさせてもらい、一度綾子から頬にキスしてもらったけど、それが合わさるだけで、どうしてこんなにも幸福度が違うのだろう。
あんなに幸せだと思ったのに、これ以上の幸せがあるのかと思っていたのに、今もう天にも昇りそうなくらい幸せだ。
どきどきしすぎて何故か訳が分からないほど混乱していて、握ってるはずの綾子の手の感触が分からないくらいだけど、ただただ綾子の柔らかくて暖かい唇の感触だけが浮き上がっている。まるで体全てが唇になったみたいな奇妙なほどの快感に、時間が止まっているように感じた。
「……っ。はあ」
永遠に続けたい幸福だったけど、息が苦しくなったので、仕方なく唇を離した。唇を離しただけなのに、とんでもなく離れたみたいに寂しく感じられて、寒くすら思ってしまう。なんてことだろう。こんな幸福を知ったら、もうない時には戻れない。今すぐにでもキスしたい。でも綾子は、さすがに何度もキスを許してくれないだろう。
「綾っ!?」
目を開けて、綾子に声をかけようとした瞬間、綾子の顔が再びアップになり、気づいたら唇はふさがれていた。もちろん、綾子の唇によってだ。
「んっ、んんっ」
唇を押し付けて、唇の感触を隅々まで貪欲に味わおうとするかのように、どんどん綾子は迫ってきて、私はついに後ろ向きに倒れて押し倒されてしまう。それでも綾子はとまらない。
強く強く、綾子は私の唇を味わう様に、今までの控えめで貞淑な態度が猫かぶりだったみたいに、私に強く口づけた。
「っ、はあっ、はぁ……しーくん、愛してるよ」
「ん、私も、んっ」
さらに二回、綾子は私を押し倒したままキスの雨を降らせた。
「はぁ……ごめん、しーくん。しーくんが愛しすぎて、我慢できなかった」
息を荒げ、真っ赤にうるんだ瞳で、綾子はそう言う。けして唇を開かなかった清純なキスなのに、上下に重なったからか、熱く呼吸をもらしたからか、私と綾子の間には細い橋がかかっていた。気づいた綾子が恥ずかしそうに人差し指でそれをぬぐって、戸惑ってから舐めて綺麗にした。
「! 綾子! 愛してる!」
そんなの、そんなの我慢できるはずがない!
私は綾子を勢いよく横に転がして、その上に覆いかぶさる。さっきとは逆転して、キスをして、そっと右手を綾子の服にかけた。二つ目のボタンに指をかけたところで、その手に綾子の指が触れてきた。自分で脱ぐ、と言うのだろうか? と溶けそうな理性で考える。恥ずかしがりな綾子ならありそうなことだ。だけどせっかくなら、私の手でしたい。
私は唇を離して、至近距離で綾子を見つめたままそれを伝えようと口を開く。
「あ」
「しーくんっ」
先に綾子に強めに名前を呼ばれ、声がとまる。え、何? うまく頭がまわらない。
綾子は真っ赤な顔のまま、私の指を強く握る。
「こう言うえっちなのは、まだダメだよ。もっと、大人になってからだよ?」
もう、しーくんたら本当にえっちなんだから、と少し笑われて、頭が真っ白になる。え、え?
あ、そう言えば、綾子は、キスを捧げる、としか、言ってない、けど。て言うか、え。今も? あんな風に綾子からキスしてきても、その気持ちは変わらないままなの?
「あ、綾子。私……」
「ん? なあに?」
この先に進みたい、と言うには綾子の瞳は、こんなにエッチな姿なのに、やっぱり純粋な真っすぐさであふれていて、微塵も私がこのまま強引に続けるなんて疑ってなくて、言えるわけがない。綾子を大事にするといった口で、信頼を裏切ることなんてできるはずがない。永遠の愛を信じてくれてる綾子に、それを無くすようなこと、するわけにはいかない。
「……もっと、キスしたい」
「うん。あたしも」
早く大人になりたいな、と強く思いながら、綾子との永遠の愛が本当に続くんだろうなと、私は綾子への愛と、綾子の私への愛を実感して、溶けあうほど長く、満足するまで綾子とキスをし続けた。
次回は4/1、2、3のそれぞれ10時に3日かけて更新します。




