世界一愛してる
その後の話。時間が少し飛んで、しーくんの誕生日に関する話です。二話投稿で、こちら前編です。後編は11時に更新。
「しーくん。今日はあたしの家に来てくれる?」
「え? どうしたの急に」
「いいから。ダメなの?」
「もちろんいいけど」
放課後、クラスを出ると同時に綾子は突然そう提案した。正直前から綾子の家は気になっていたけど、ご家族がいるなら行きにくいし、無理を言うほどでもないので行ったことはない。
なので突然だけど、招待されて嬉しい。いつもよりさらに機嫌のいい綾子とともに、綾子の家へと招かれた。
「今日はお母さんもいないから、安心してね」
「う、うん」
他意はないんだろうけど、どきっとするなぁ。今日家族いないなんて、何してもいいよ、みたいに聞こえても仕方ないよね。
綾子の家は一軒家で、普通の住宅街の中にあった。なんと言うか、綾子の住んでる地域、家と言うだけでちょっと特別に見える。
家にはいってすぐに、綾子の部屋に通された。何だかいい匂いがする。家全体が少し甘いような匂いだ。なんだろ。もしかして母君の趣味がお菓子作りで染み付いてるとか?
「お待たせー」
綾子がいないと思って無遠慮に部屋を見回していると、声と共に勢いよくドアが開いてビクッと肩ごと振り向いてしまう。
両手で大きめのお盆を持つ綾子がいて、え、今どうやってドア開けたの?
「あ、足であけたよー」
疑問に気づいた綾子は片足をあげて指を動かして見せてきた。えー。この部屋のドア、ドアノブ回す丸いやつだったよね? 器用すぎない? あとなんか、その指動かすやつエロいと思うのは私の心がけの問題なのだろうか。
「じゃーん。今日は、しーくんの誕生日会をしまーす」
「えっ!?」
テーブルにお盆を置きながらされた予想外すぎる言葉に驚いてしまう。だってそんな
「先週してくれたのに?」
先週、私の部屋で四人で誕生日会してくれたのに。そして実際の誕生日からも10日も過ぎてるし、何故今? と言う戸惑いが大きい。いやそりゃ、祝ってもらって嬉しいけど。
「先週はみんなで友達バージョンでしょ。今日は恋人バージョン」
「そ、そうなんだ」
恋人バージョン、綾子の自宅で二人きり、となると俄然私の中で期待が膨らんでしまう。これってもしかして、その、特別なことを期待してもいいのではないだろうか。二人でわざわざするってことは、二人でしかできないことをすると思ってしまうのは自然だ。
いや、私だって不埒なことばかり考えてるわけではないけど。でも、未だに二人きりでも手を繋ぐのと指先と頬にキスだけだ。頬にも滅多にさせてくれないし。でも、頬くらいは今日期待してもいいよね? 何ならハグとか。腕を組むくらいは期待しても、いいかなぁ?
「ありがとう。嬉しいな」
「ふふふ。もちろん再来月の私の誕生日も期待してるからね」
「任せてよ」
何ならプレゼントは私、とかやったら怒られるよね。うん。わかってる。綾子の誕生日には色々考えてるし、安心してほしい。とにかく今日を楽しもう。
綾子は嬉しそうにニコニコしながら、ずっと立ったままだった不審者丸出しの私の肩を押してテーブルの前に座らせる。そして自分はその隣に座った。
部屋の配置的に、テーブルはテレビの横にあるので、なんとなく向かい合わせに座るのかなと思っていたので、隣に座ってくれたのは地味に嬉しい。可愛い丸い小さめのテーブルなので、私の家より自然と距離も少しだけどより近い。
「じゃじゃじゃじゃーん。ケェキでーす」
綾子はご機嫌にお盆からそっとケーキが入っているであろう箱を持ち上げ、お盆を先に床に下して、効果音をつけながら箱を開けた。
「お。お? もしかして、手作り?」
「あ、やっぱりわかっちゃう? 普段ケーキって滅多に作らないから。クリームを綺麗に塗るの、苦手なんだよね」
「いや」
これで苦手って、ちょっと一般的女子高生に謝ったほうがいいよ。ケーキは普通にお店に並んでいても気づかない、と言ったらさすがに言い過ぎだ。じっくり見ると側面のクリームがちょっと波打ってたりするし。
だけど上のクリームやイチゴの飾りつけも綺麗なもので、上からパッと見て手作りだとわかるほどじゃない。わかったのは単に、クッキープレートにチョコで書いてある『しーくん お誕生日おめでとう』の文字が綾子の字だったからだ。
「凄いね、綾子はお菓子作りも上手なんだから。尊敬する」
「大げさだなぁ。このくらい、私レベルの美少女なら当然だよ。でもありがとう」
満更でもなさそうだけど、本当に大したことなさそうに綾子は言う。謙遜ではないけど自分に自信満々の綾子にとっては当然のことなのだろう。そういう自然体なところ、本当に好きだ。
「じゃあケーキ入、おっと。一緒にしよっか。予行練習に」
照れ笑いながらナイフを持った手を寄せてくる。可愛いだけに、その無邪気に未来を疑わない様には、あー、真面目に私が綾子の未来のレール引いてあげなきゃと思わせてくれる。とりあえず女同士で結婚できる国のピックアップしとこう。
手を重ねてナイフを持ち、そっとケーキを2等分にした。綾子は私と目を合わせてえへへと可愛く笑ってから、私の手を外させて食べやすいようにさっさと6等分にした。そう言う乙女チックさと現実的な部分の割合、絶妙だなぁ。
「さぁ、食べて」
お皿に乗せてフォークを添えて私の前におき、カフェオレもセットしてからどうぞと促し、わくわくした顔で見てくる。そのキラキラした瞳に、私は抱きしめたい欲求を抑えつつフォークを手に取る。
「いただきます」
そして一口。うん。美味しい。味は本当に、下手なその辺の店で買ったのより美味しい、と言うのは私の恋人としての欲目だろうか。さすがに高級店より、とは言わないけど、こんなの女子高生が趣味以下でつくる味じゃないよ。
はぁ。思っていた以上に綾子の女子力が高くて、付き合う時間が伸びるたびに惚れ直してるよ。綾子って一緒にいるほど好きになる。こんな人他にいるのか。好かれ続けるよう、もっと努力しなくちゃと思わせる。こんなに私の人生にプラスしかない人いないよ。愛してる。
「どう? どう?」
「美味しい。世界一愛してる」
「っ、もう。しーくんたら、正直者なんだから。すごく好きぃ。うふふ」
とろけそうな笑顔で喜んでくれるのを見るだけで、恥ずかしくてもどんどん何度でも気持ちを伝えたくなる。
「綾子は? そう言えば、好きってよく言ってくれるけど、愛って言ってくれたことないよね?」
私もさすがに、愛してるってちょっと大げさな気がして恥ずかしいから、大好きほど頻繁には言わないけど。でも綾子は言ってくれたことがないぞ、と唐突に気づいた。
もちろん綾子の顔や声音や態度から、その気持ちを疑うことはないけど。でもたまには聞いてみたいな。誕生日なんだから、このくらいのおねだりは許されるよね?
「あ、そうだっけ? えへ。なんかちょっと、あ、愛って。オーバーな感じがして。もちろん、そう言っても全然過言でないくらい大好きだけど。うん。えと……言うね? 私、しーくんのこと、あ、その前に」
「ん、なに?」
はにかみながら言おうとする綾子の可愛さになごんでいると、思わぬ焦らしに意味もなく相槌を打ちながら尋ねる。綾子はぱっと立ち上がる。
「プレゼント用意するから、目つぶって。絶対開けちゃダメだから。自分で目隠しもして。ほら」
「わかったわかった」
フォークを置いて自分の両目を隠す。それを確認してから綾子はぱたぱたと歩いてどこかをごそごそと触って何かを用意しだす気配を感じる。わくわくする気持ちになる。なんだろう。何を用意してくれてるんだろう。綾子ならもちろん何でもいいけど、私のことを考えてくれたその結果何があるのかと考えると、とても楽しみだ。
すぐに綾子は戻ってきて、すとんと勢いよくまた私のすぐ隣に座るのを感じた。反射的に目を開けそうになるのを、手で押さえて我慢する。
「いいよ、しーくん」
よし。私はそっと手を外して、目を開けた。




