しーくんじゃなきゃ、嫌だよ
「ちょっと、立花さん」
「ん? なに? あたしのサインでも欲しいの?」
「そんなわけないでしょ」
知らない子に声をかけられたから、振り向きながらまずは軽いジョークを飛ばしたのにめっちゃ馬鹿にした目で見られた。ノリわるーい。
「テンション低くない? ていうか誰? あたしちょー忙しいんですけどー」
「大事な話があります」
え? ほんとになに? もしかしてあたしのこと…!! と思うほど、さすがに空気読めなくない。嫌われてる感ばりばりだし。二人はあたしの返事も待たずに、踵を返して歩き出して、近くの教室に誘導しようとしてくる。
とりあえずあたしはこの後しーくんとデートで忙しいので、あたしも踵を返して歩き出す。
「ちょ、ちょっと立花さん!?」
「話があるって言ってるのに何普通に立ち去ろうとしてるの!? 非常識にもほどがあるでしょ!」
「えー。返事も聞かずに人気のないところに連れ込もうとしてる二人に言われたくないんだけど」
あたしのセリフは非常に正論のはずなのに、何故かとても文句を言われた。面倒になってきたので、仕方なくついていき、あ、そう言えばこの前しーくんも連れ込まれたって言ってたぞ! とぴんときたので、しーくんにメッセージを送っておいた。
教室に入って扉を閉めた二人はあたしがスマホをいじってるのに気づくと、むっと眉をよせた。
「ちょっと、何スマホいじってるの? 話をするって言ってるのに失礼でしょ?」
「はいはい。で、何の話?」
「率直に言うけど、茂子さんに付きまとうのはやめて」
「ん? しげ、ああ。しーくんのことね」
一瞬本気で誰? と思ってしまった。あー、確かにそんな名前だわ。なるほどね。で?
「別に付きまとってないけど。ていうか、あんたたちってこないだしーくんに声かけてきた人?」
「しーくっ、その馴れ馴れしい失礼な呼び方やめなさいよ」
「どう見ても迷惑だから言ってるのよ」
この人ら、ほんとにどこを見て物を言ってるんだろう。こっちは本人から直接話をきいて、迷惑だって断ったって聞いてるのに。あたしは呆れて肩をすくめながら、優しく二人にいってあげる。
「それしーくんから言われたの? そうじゃないでしょ? しーくん迷惑がってるよ」
「あなたのことが迷惑なの。私たちには見たらわかるの!」
「あたしだって、しーくんが嫌がってないって見たら分かるし」
「わかってない!」
「わかってる!」
「ちょっと。立花さんのペースに巻き込まれてるよ。落ち着いて。同じレベルになってどうするの」
「あっ。ごめん。ありがとう」
「えー。巻き込まれてるのあたしじゃん? あたし可哀想」
睨まれた。うーん。どうしよう。と困っているとガラッと勢いよくさっき二人がしめた空き教室のドアが開いた。
振り向くとそこにはしーくんがいた。さすが王子様。あたしの危機を察して助けに来てくれたんだね! まあ、普通にさっき呼んだんだけど。
「しーくん!」
「茂子さん!?」
「た、立花さんが呼んだんでしょ!?」
「そうだよ? そりゃ呼ぶよ? 馬鹿なの?」
て言うかめっちゃ目の前で使ってたよね? なんで考えてないの? 絶対馬鹿だよね?
あたしはしーくんの隣に移動して、いらっとしたので二人に見せつけるようにその腕をつかむ。
「しーくん大好き。あたしのことを助けに来てくれたのね!」
「もちろん。綾子のためなら、いつでも駆けつけるよ」
「しーくん!」
やだ。本気でカッコよすぎてきゅんきゅんしちゃう。ちょっとふざけて言ってみたのに、ノリノリですやん。大好き。
「怖かったでしょ? よく頑張ったね」
しーくんは悶えるほど好きがあふれちゃうあたしの頭にぽんと右手をのせて微笑んでから、二人に怖い顔を向けて、あたしをかばう様に前に出た。特に怖くはなかったけど、お姫様ロールが素敵なのでうんっと頷いてしーくんの後ろから高みの見物をさせてもらうことにした。
「二人とも、関わらないでって言ったよね?」
「私たちは、茂子さんのためをお」
「名前で呼ばないで、とも言ったよ」
「……曙さんの目を覚まさせてあげようとしたの」
「頼んでない。迷惑だってどうしたら伝わるの?」
お、おお。思ったよりはっきり言うんだね。しーくんカッコイイかも。あたしに向けられたらと思うと、どんな状況でも謝ってしまいそうだ、と思うのに意外とこの二人は芯が強いようだ。
ちょっとひるんだけど、二人とも見つめあってからきつくしーくんを睨みつける。ていうか、しーくんのためじゃないの? しーくん睨んでどうするの?
「だから! 私たちは曙さんならすてきなお姉さまにだってなれるのに、もったいないから言ってあげてるの!」
「そうだよ! 男扱いされてるのに、そんなに庇う必要ないでしょ! 私たちなら、曙さんのことお姉さまとして尊重してあげるのに!」
ん? ん? え? なに、この人たちいったい何のこと言ってるの? お姉さまとして尊重ってどういうこと?
私と同じように訳が分からなくなったらしいしーくん。ちょっとだけ首をかしげたから後ろからでもわかる。
「いや……意味が分からないけど、お姉さまになりたくないし」
「そんな!」
「じゃあ! 私たちはどうなるんですか!?」
「えぇー……知らないけど」
「あのさぁ」
「何ですか!」
「立花さんは黙っててください!」
うわぁ。あたしには敵意満々だなぁ。でもあたしは優しいから言っちゃう。
「お姉さまとか、姉妹が欲しいなら、二人で姉妹になればいいんじゃない?」
「え?」
「そっちの髪が長いほうが、さっき冷静にたしなめてたし姉ってことで、そっちの眼鏡かけてるほうが妹ってことじゃダメなの?」
「……それじゃダメだもん。だって、博美ちゃんは、お姉さまが欲しいんだもん。だから私が妹になったって」
「えっ? いや、と言うか、八重ちゃんこそ、こう言う曙さんみたいなショートカットの凛々しいお姉さまがいいんでしょ? だから私は」
「え? 私そんなこと言ったっけ?」
「言ったよ。だから曙さんにお願いしようって」
「ええっ。私てっきり、博美ちゃんもお姉さまが欲しんだとばかり」
「……私は、ずっと」
「あのさぁ二人とも、ちょっといい?」
このままシリアスな雰囲気で二人が見つめあい始めたので、声をかける。ぴくっと反応してあたしたちがいることを今思い出したみたいに見られた。髪の長いほうが見るからに嫌そうに口を開く。
「……立花さん、あなた本当に空気読まないよね?」
「いや。どうでもいいから、あたしたち帰っていいよね?」
「……うん。そうね。早く帰ってくれる?」
「その前に謝ってね? ちゃんとごめんなさいって言ってよ」
あたしの言葉に2人は顔を見合わせてから、ちゃんと申し訳なさそうな顔で謝ってくれたので許すことにした。しーくんのカッコイイとこも見れたしね。
てなわけでさっさと帰ることにした。ドアを閉めた途端にお姉さまとか聞こえた気がしないでもないけど、聞こえていないことにしてあげよう。
「はあ……疲れたね」
帰り道、しーくんは深くため息をついた。いやー、お疲れさま。
「ほんとにねー。結局二人とも相手のためにしーくんをお姉さまにしようとしてたんだね。痴話喧嘩に巻き込まれたってこと?」
「そうかも……そうかぁ。だから私が嫌がっても効果ないんだね」
「しーくんのことが好きじゃないから、迷惑でもいいんだね。残念だったね」
からかうように言うと、ちょっとむっとしたみたいにしーくんは肘であたしをついた。
「別に残念じゃないし、好かれてなくてほっとしたよ」
「ほんとにー?」
「本当。綾子にだけ好かれてればいいよ。私は、綾子だけでいい。綾子だけがいいんだから」
なんて、優しい笑顔で言われるとときめく。だからあたしも満面の笑顔で応えてあげる。
「あたしも、しーくんがいいよ」
「しーくんでもいいんだよ、じゃなくて?」
返された言葉にはっとする。それは確かにあたしが言ったことだけど、もう二週間以上前のことなのに。むう。引きずりすぎ!
「意地悪。しーくんじゃなきゃ、嫌だよ」
あたしの言葉に、しーくんは知ってるよ、と微笑んだ。しーくん、大好き。
本編完結。
次回はおまけで、3/31の10時と11時に更新します。




