しーくんでもいいんだよ?
「もー! ほんっと、昨日のメンツ最悪すぎっ」
放課後、喫茶店でいつものメンツで駄弁ってると、隣のテーブル席でリア充がイチャイチャしだして、昨日の合コンへの怒りがこみ上げてきてあたしはコップを乱暴に置きながら文句を言った。
主催者である山本佳之子はため息まじりに口を開く。
「いや、言い過ぎだろ。私の彼氏の友達なんだから、みんな、イイ人だよっ」
「ぶりっこきもい」
「んだと。てか実際、悪くなかったじゃん」
きゃぴっと科をつくった佳之子に率直に突っ込むと、途端に柄が悪くなった。こんなに剥がれやすい化けの皮で、よくもまあ長く続く彼氏がいるもんだ。
それはともかく、どこが悪くないって? 連れてきた彼氏のフォローにしても、文句しかない。
「どこが。ゴリラと根暗は論外として、残りもいかにも体目当てのサルって感じだったじゃん。めっちゃ胸見てたし。あたし、動物園に行きたかったわけじゃないんだけど?」
「かーっ、逆逆。確かにそのサルは論外だったけども。でもゴリラはマッチョで顔もハーフみたいでいけてたじゃん。根暗はビジュアル系ロン毛なだけで、顔は割りと今風のイケメンだったじゃん」
「はー? まじ趣味悪いわ」
顔の造形が最低限整ってたのは認めるけど、雰囲気がないわ。雰囲気イケメンって言葉があるけど、あいつらは雰囲気ブサメンだわ。てか、そもそも整ってるって言っても、全く好みのタイプではない。
あたしはもっとこう、王子様風の爽やか優しい系イケメンが好きなのだ。
「あんたが理想高すぎなだけ。そんなんじゃ一生恋人なんて無理無理」
「そんなことないですー、あたし理想高くないし」
あたしの価値に見合うだけの男を求めてるだけですー。
あたしみたいに美人で優しくて頭もよくてスポーツ万能JKで、おまけに家事だってできる尽くすタイプな女、なかなかいない。つまりあたしの価値は天井知らずなわけで、最高な男を求めるのが当然なのです。
「は? どこが?」
だと言うのに、この佳之子と来たら、中学からの付き合いだと言え切って捨ててくれる。どこって、ええ? 具体的に聞かれると困るんだけど。
「どこって、例えばー……そう」
一瞬言葉につまって視線を漂わせると、さっきから黙って席についてる二人、特にあたしの隣に座ってる王子様に気づいて、あたしはにんまり笑ってそっと体を寄せて、右手をしーくんの膝にのせて囁くように、だけど向かいにも聞こえるような声を出す。
「あたし、しーくんでもいいんだよ?」
「図々しいわ。てか、それこそ理想高過ぎだっつーの」
「いたっ。ちょっ、蹴るー? 普通。このいった!」
「ばーか。調子に乗るからよ」
しーくんにアプローチしたのに、向かいの佳之子に脛を軽く蹴られて、いらっとしたので蹴り返したけど間違ってテーブルの柱蹴って地味に痛かった。
体勢を戻してカップの残りを飲み干して、佳之子を睨み付ける。
「何なのよ。めっちゃ妥協してるじゃん。しーくんでもオーケーなんだよ?」
「ばっか。しーくんとか、それこそめっちゃ王子様風爽やかイケメンスタイルよしの、スポーツ勉強なんでもござれで中身も紳士って、漫画かよってくらいのイケメンだろうが。どのへん妥協してんだよ」
「なんでよー。女の子でもいいって、めっちゃ妥協してんじゃん」
そりゃ確かに、女子高のうちではしーくんイケメンだって騒がれてるし、下級生からプレゼントもらったりしてるけど、女子じゃん。も、その時点でめっちゃ妥協だから。
「あんたみたいな、馬鹿でアホでどんくさい、顔だけ女にしーくんが釣り合うわけないでしょ。恥を知れ」
「ひっど。て言うか、あんたよりあたしのが成績いいし! 足だって速いし! 文武両道パーフェクトなあたしが妬ましいからって、そんな悪態つく? 普通」
「…………あんた、まじで言ってる? なんなの、その自信過剰な自画自賛は」
「はー? ほんとのことしか言ってないし」
「……まあ、それはそれとして」
え? なんでそんなビミョーな顔で流すわけ? え? ほんとにそうじゃん? テストではいつも全教科50点くらい余裕だし、体力測定では10段階でオール6以上だし。ヨユーで文武両道じゃん?
「しーくんも、たまには怒ってもいいんだよ? つかさっきから二人ともめっちゃ黙ってるけど、一応聞くけど、二人は昨日の合コンどうだった?」
「んー? ひまちゃんはぁ、やっぱりキラリ様が一番だからぁパスかなー。でもご飯は美味しかったしぃ、楽しかったよー」
「私はまあ、前にも言ったけど、あまり興味はないし、みんなが楽しかったならいいんじゃないかな?」
ゴスロリアニオタのロリに見えるけど同い年の田巻ひまはいつも通りだ。地味にそっち系のにモテるけど、本人はなんとかってアニメのキラリ様ラブらしい。
王子様のしーくん、曙茂子は今年度に転校してきた。イケメンだから誘って仲間にした。え? ひま? なんか、気づいたら一緒にいた。全然趣味違うけど、なんかニコニコしててムードメーカー的にいい子だし、1年時からつるんでる。
このメンバーで合コンするのは二回目だけど、基本的にあたししか彼氏求めてないし、敵がいなくてうはうはのはずなのに、そもそもしょぼいのしかいなくてマジうまくいかないわー。
「はー。まじで、次こそいいのセッティングしてよ」
「はー? もういいでしょ。つーか、いくら私の彼氏が男子校だからって、何回セッティングさせれば気がすむわけ? もう諦めなさいよ」
「なによ。まだ20回もしてないでしょ」
大体二、三ヶ月に一回なので、中学の時からお願いしてるけどまだそんなめちゃめちゃしてるって感覚はない。えーっと、17回目くらい?
「いくらあんたの頼みでも、毎回彼氏とデートできるタイミングを合コンにしてあげてて、その上文句ばっかなんだから、嫌にもなるっつーの」
「う……それは、ごめん。うー。でもぉ、だって。恋人欲しいんだもん」
そもそも、佳之子が彼氏のことのろけまくり自慢しまくりだから、こっちだって彼氏ほしー!ってなって、紹介してやろうか?って佳之子から言い出したのに乗っかったわけたし。
うーん、でも確かに、ちょっと図々しかったかも?
「それは分かるし、だから協力してやったでしょ? でももうイケメンの在庫もネタギレだから。欲しけりゃ他にナンパなりしてよ」
「ナンパしてくるようなのは、絶対やだ」
「あんたからナンパしろっつってんの」
「それで付いてくるようなのもやだー」
「我が儘言うなっての。ま、とりあえず、また次メンバー決まったら教えてやるけど、あんたはもうちょい理想低くしなさい。以上」
呆れたように肩をすくめつつも、そう佳之子は言った。また考えてくれてるのは嬉しいけど、理想、高くないと思うんだけどなぁ。
あたし好みのイケメンで、あたしのこと愛してくれる優しくて素敵な紳士の同じ年頃なら、誰でもいいし。
「だから高くないって」
「言ってろ」
「まーまー、とりあえずさぁ、週末三連休だしー、遊ばなぁい?」
「ああ、いいね。賛成。ほら、綾子も、気持ち切り替えていこう?」
「うー。まあ、しーくんが言うなら、しゃーないか」
「あ、私はパスね。毎日彼氏とデートだから」
「ぜってぇ誘わねぇし。ひまっ、しーくん! 私達、ずっともだよ!」
佳之子ばーか!