補修の後は
学校帰りは恐ろしく暗い道だった。
たった一時間でこんなにも……とは、まったくもって冬の状態である。
先生も先生だ。
俺が一時間で補修を終わらせた途端に、目を輝かせてあれこれそれと、算数的な物をやらせやがって。
おかげで一時間で終わった補修も、三時間経たなければ解放されなかったじゃないか。
「暗いな」
俺は小さく呟いてから、道具袋を探った。
と言っても、一番前のポケットに入っている、相棒の折り畳みナイフを確認しただけ。
いざとなったらすぐに、これを引っ張り出せるようにしてあるだけだ。
魔物の喉笛を切り裂いたこれは、なまくらにならないように、丁寧に手入れをした。
おかげで、ぴかぴかのつやつやだ。
俺はそれを指先でいじりながら、夜道を歩く。
大通りは繁華街になっており、夜道には夜店、そして客引きのお姉ちゃんたちがいる。
その美人な人たちをうっすらと眺めながら、俺は帰宅するために歩いていた。
その時だ。
流麗なその調べが聞こえてきたのは。
何の音だと思えば、竪琴の音に間違いなく。
誰が演奏してんだ、ずいぶんとその辺の旅の芸人にしては、よくできている。
俺も気になって音の方を見れば、やっぱり同じ事を考えた人達が人垣のような状態だ。
おーおーここまで人を集めるって事は儲かるだろうな。
一体どんな奴がこんな演奏をしているのか。
俺は人垣のあいだに首を突っ込み、音の主を見た。
そこにいたのは燃える赤毛の美青年。
見間違いようのない、フォーマルハウトその男だ。
宿代でもないのだろうか。
昨日は泊めたけれど、家だって宿屋じゃないから泊める場所はないし。
フォーマルハウトが金を稼いでいてもおかしくない。
俺はそれ以上気にする事もなく、その場を立ち去ろうとした。
音が変調しなかったらな。
しかし音は急激に変調して、続いて始まったのは甘ったるい甘ったるい恋歌。
そういう物が大好きな奴らが、きゃあと言った。
おい客引きのお姉ちゃん、あんた仕事さぼってその男に夢中になってどうするのさ。
俺は苦笑いをしつつ、そこを見続けた。
その時だ。
ちらりとその、緑色の目と目が合ったような気がした。
俺に気付いたらしい。気の所為かな?
ましてや、俺が現れたから曲を変調させて甘ったるくした、なんていうのはおそらく自意識過剰以外の何物でもない。
さて帰ろう。
「本当に暗い」
俺は夜道の暗さに、子供の出歩く暗さじゃないなと思った。
そして自分に突っ込んだ。俺十八。
この世界では立派な大人だろう。
見た目あれだけどな。
つらつらと考えた後、俺は足早に店の裏口に入った。
<親分おかえり、もっと遅かったらぶーちゃんおむかえ>
「そっかそっか、お待たせ、補修が意外と長かったんだよ」
<そうなの? 親分頭わるい?>
「頭がいい方じゃないと思うけど、普通」
<親方、ハーブのスープ作って待ってた>
「乾燥ハーブのあれ? あれもうちょっと何か改良の余地があるような」
俺は親方が作る、滋養満点だが味がいまいちの、高価な乾燥ハーブをそこそこ使ったものを思い浮かべて、笑った。
裏口から入り、カバンをその辺に置き、俺は常につきっぱなしの暖炉、これは魔法の一部だから燃料が少ない物の近くで、毛布に包まって保温されている鍋を開けた。
ふわりと漂う香りは、あんまりバランスのいい香りじゃない。
しかし、親方が作ってくれたものにケチはつけない。
大皿にそれをよそってから、俺は隣の御櫃に入った冷たいご飯を一緒に入れて、汁かけごはんにして一人食事をした。
一人の食事は寂しいと思うのは、この世界でぶーちゃんを含めて三人で食卓を囲むから。
日本じゃ一人ぼっちで常に食事をしていたのに、俺も変わった物である。
俺はぶーちゃんの、今日のお客さん状況を聞きながら食事を終わらせた。




