年齢の暴露
若干生理ネタのようなものが含まれています、ご注意ください。あくまでもこれはフィクションです。
「なんでいるんです、フォーマルハウト」
「いや、このあたりで安くてうまい店っていうのを聞きまわったら、ここに行きついたんだけどよ。このカレーっていうの、めちゃくちゃ旨いな! いくらでも食べられる」
「リンの恩人だからな、残り物だがいくらでも食っていけ」
親方の男前な発言である。隣では床に置かれたご飯の皿に花を突っ込んで、ぶーちゃんがもりもりと残り物や残飯を食べている。
俺たちはいま、急きょ夜の酒場が休業になったために、店の中で夕飯を食べていた。
酒場が休業になったのは、本当なら今日仕入れる事ができたはずの、酒各種が、魔物の襲撃によって仕入れられなくなったからだ。
それをあてにしていたキャシーは、いつもこの店に来てくれる常連の好みの、その酒たちが入らないなら、いっそ店を開けない! と言い切り、休みにした。
そう言う、魔物の襲来のせいで開けられなくなった店は、このあたりでは多い。
そのため、この店もか、という感覚でしかないらしい。
ありがたい事だ。
普通、いきなり休みなんてしたら、反感を買うし、嫌な思いをお客さんにさせてしまうのだから。
俺は甚割と胃袋に染み渡る、甘口のカレーをほおばりながら、脇に座って辛口のそれをもりもりと食べている、男前を見やった。
夏の大陸によくいる赤毛と、緑の目。
夏の大陸の人間は総じて、暖色系の髪に、どことなく緑色を思わせる瞳の人間が多いのだ。
そしてこの色のために、フォーマルハウトは出自が分かりやすいだろう。
春の大陸の西の方は、夏の大陸と交易が盛んだから、大陸を超えた結婚も多いのだ。
間違いなくフォーマルハウトは、夏の血を引いているに違いない。
やはり、炎の竪琴を使いこなせる奴は、夏の何かしらとかかわっているのだなと、俺は改めて実感するわけだ。
「あー。それにしても旨いな。西も結構美食のやつらが多いから、料理はそこそこのはずなんだけど、こんな旨い米も、メニューも聞いた事がない」
「それはそうよ、ふふ、ギギーが頑張って考えたんだもの」
キャシーはさりげなくそう言う。俺は別に新しいメニューの事で、頑張った覚えはないのだが、頑張った事にしておいた方が、いろいろ憶測がなくていいのだ。
知っていたメニューだと言えば、一体どこの国の物だとなり、どこの国の物でもないとばれれば、俺の素性が……うん、面倒くさい。
「ところで、リン。国王陛下に何と言われたんだ?」
親方が、今日の味はなんとかかんとかとぶつぶつ言った後、俺に話題を振ってきた。
俺は一瞬言おうかどうか、迷った。
だが、言わなかったら、もし俺経由以外で知られた時、親方がひっくり返るかもしれない。
言った方がいいだろう。
「なんか、側近にならないかと言われました」
「は……?」
親方がスプーンを取り落とした。
そして絶句した顔になり、俺をまじまじと見つめる。
そんなに穴が開くように見られても、俺は穴なんて開かないけど。
なんとない、微妙な気分にはなった。
そんな俺を見て、親方は言った。
「リンを? ……側近? なんの冗談だ? こんな、子供を……?」
「アーティ、落ち着いてちょうだい。国王陛下は何か、私たちにはわからない思いがあるのかもしれないわ」
「だと言っても、リンはまだこんなに子供で」
「なあ、アーティ殿。一つ聞いてもいいか?」
いきなり、フォーマルハウトが問いかけてくる。
そして俺の腹から腰のラインを、無造作になぞってきた。
「この骨格で、子供なのか?」
俺はぎくりとした。
骨格で、普通年齢がばれるか?
でも、人間は年によって骨格が違うとか、聞いた事があるようなないような……
「フォーマルハウトさん?」
何が言いたいんだ、と言いたげな親方である。
フォーマルハウトは、俺が何と誤魔化すかと考えている間に、こう言った。
「こいつの骨格は、もう十八かそこらの骨格だぜ?」
親方が愕然とした表情になった。
そして俺は、終わったかもしれないと本気で思った。
俺は親方に、年齢は言ってない。
だから嘘こそ言っていないが、親方たちの勘違いを否定した事もないのだ。
あー、とか、うーとか、うなっていた時だ。
キャシーが真顔で聞いてきた。
「そう言えば、私たちギギーに年齢なんて、欠片も聞いた事がなかったわ……ギギー、あなた本当はいったい幾つなの? これで嫌うとか、そう言う事はないから、教えてちょうだい」
「……」
俺は一瞬黙ったわけだが、フォーマルハウトがまた、俺のラインをなぞってくる。
そのセクハラをする腕をひねり上げつつ、俺は答えた。
「今年で、十九」
「あなた、見た目が随分と若く見えるのねぇ……全く気付かなかったわ。でもあなた、月の物が来ていないわよね?」
「諸事情で来ていないんですよ」
俺はそう言って誤魔化した。思い出したように鈍く痛み始めた、下腹部の古傷に舌打ちをしそうになりながらも。
俺は、よくわからないが、成長ホルモンだか女性ホルモンだかが、人よりも少し少ないらしいのだ。
だが簡単に言えば、俺の生理が来ないのは原因不明。
医者も匙を投げるものだが、俺は生理が来なくて問題になる年齢のころ、貧乏すぎて医者に通えなかった。
それに生理用のナプキンという、意外と値の張るものを買わなくていいという利点を重要視したから、気にしなかった。
……もしかしたら、元が神様というものが、俺の何かに影響しているのかもしれないけれども。
「まあ……大丈夫なの?」
キャシーが心配そうに聞いてきたけれども、俺は誤魔化す事にした。
「今まで問題ないんですから、大丈夫ですよ」
「どうりで、女の血の匂いがしないわけだ」
親方がぼそりと、そんな、妙な事を呟いていた。
<親分お代わり>
空気が微妙になったあたりで、ぶーちゃんがお皿を鳴らして、訴えてきたので、空気の感じは霧散した。
そしてフォーマルハウトは、俺をじっと見やり、何かを考えながら、三杯目のカレーを食っていた。
宿をとっていないというこの男前のために、俺たちは相談して、親方の部屋のベッドを貸す事にした。
親方はその辺に、毛布を敷いて眠るらしい。
俺は、ぶーちゃんと寝ているために使っていない、新品のマットレスを、親方に貸す事にした。
この世界のマットレスがふかふかすぎて、俺の体に合わないという事もあるんだけれどな。




