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新たなる生活の幕開け

諸事情によりちょっとだけ書き直しをしました。内容が少し違います、ご注意ください。

いつも色々ありがとうございます!

「私だけ? 本当に? 担いでないよね?」


俺は思わず言ってしまった。そして言ってからそうだろうなと思い至った。

冬の荒涼とした力をこの春の生暖かい場所に呼べるのは、冬の一族だけ。

そして俺は冬の……申し子だった。そんな事に思い至った俺を見て、キャシーがまた溜息を吐く。


「ほら、あなた何もわかっていないわ。昔からそう。自分の力なんて何にも思ってないくせに、無駄に力があって、情勢も権力も立ち位置もどうでもよくて、ただ戦う場所ばっかり欲しがって。あの時代ですらあなたは異端の大馬鹿だったのよ? あの頃から大きく変わった常識の中で、異世界から来たあなたの非常識が、非常識のてっぺんを超えて非常識だってわかってないでしょう」


思い切り言われているな。というか俺は昔からそうだよ。

昔は戦う事にしか存在意義を見出せなかった。それは俺が戦いの神だから。

武の神だったから。

今は、料理とかガーデニングとか、DIYとか大好きになったし、それ系の技術を持っているけれど。

あの当時、俺が持っていたのは戦いの力と、冬の大地にも草木を芽吹かせる力だけだった。

ユーリウスは俺のそれを、死と再生の力だと言った。

死に誘う冬の力と、命を生み出す大本になる、冬の別の一面。

でも、俺の、命を生み出す力は地母神や豊穣のウェーニュスとかがそれ以上の物を持っていたから、役立たずのような力だった。

たとえ司っていたとしたって、だ。

俺はさんざん考えて、いろいろ思い当たる振りがありすぎて、なんとも言い難い顔をしてキャシーを見た。


「……小学校はやめて。心が折れる」

「安心してちょうだい、あなたは小学校でも問題ない見た目をしているわ」

「え、小学校決定?」

「決定よ。大丈夫。お金がなくて、中々小学校にも行けない子はたくさんいるんだから。ちょっと年上でも問題ないわ」


それにあなたなら、見た目で全然問題ないわ、だって私の目には十歳くらいに見えるもの。

にっこりと、それは素敵なウィンクをしたキャシー。

それはそれで、俺は複雑な気分を味わった。





「親方、私はそんなに子供じゃないのに」


「子供が知ったような口を叩くな。そのちびっ子位背丈のどこで子供じゃないって言うんだ」


親方はここで溜息を吐いた。


「それにな、俺は昨日も今日も先々週も言われているんだぞ、子供をあんなに働かせるなって」


おっとそう来ているのか。俺は難しい顔になった。

その日の朝の仕込みのさなかに、俺が不満を漏らせば、とたんに言われた言葉である。

俺はそんなにも子供に、見えるだろうか……見えてしまうな。

「お前はいなか者だから、誕生日なんてそんなに考えたこともなければ歳も考えた事がないだろう。だから俺がお前の歳を決めておく」

……俺何も言わなかった。

俺がどう言ったとしたって俺の歳は親方には通じないしキャシーはにこにこしているし、第一。

……歳がいくつであろうとも、俺が俺である事にはかわりがないのだ。

そして歳をいくら説明しても、それで納得してもらえなかった場合。

その歳なんて無意味なんだって事を俺は知っている。


「名前はそのままでいいな、リン。名字は何だったか?」

「貴族じゃないから、この通りの名前で通せばいいわ」

「そうだな。歳は十くらいで、保護者は俺とキャシーでいいな?」

「私こんなにかわいい女の子のお母さんなのね」

「何か違うと思うが……」


親方が俺のための書類を書き始める。

俺は読めても書けないので、黙って見つめる。


「親方、私はお金がありません、学校の入学金をどこで手に入れるんですか」

「それくらいの蓄えはある。お前のこれは未来への投資だ。お前は計算式は異常に出来るからな」


そりゃあまあ、おばあさまの元きっちりと色々、やりましたからねー

俺は心の中でだけ言い、親方が仕上げた入学願書をを見やって問いかけた。


「その、学校に行くのに、何か試験とかは」

「ない。入学の後の基礎テストで篩にかけられるからな。だいたいそこで文字の読み方や簡単な算数を習って、暮らしていくのに困らないだけの教育を受けられる」

「その分お高いのですか?」

「いいや、そこら辺の子供が通う学校だ」

「……とりあえずこっちの、常識を覚えます」


俺の決意表明に、親方が頭を撫でてくれた。

子供じゃないと言っても、俺はこの頭を撫でてもらうのが好きでしょうがない。

そこらへんが餓鬼なのだろう。


「それに、素質があればさらに上の学校に入れてもらえて。そこでで魔法の勉強もさせてもらえる。お前が魔法を使うとは思えないが、一応な。どこでどの血脈が流れているか分からないからな」


ぶっちゃけ冬の力を呼べますとは言えず、俺は微妙に笑った顔になってしまった。


「お店の事は」

「それなら、数人あのパクリの店からこっちに入りたいと言ってきている」


パクリの店は、経営が火の車だ。だって不味いし、健康にはならないし、美人にもなれない。

掲げた言葉が彼らを苦しめているのだ。

そしてあちらの店は、どんどん客足が遠のいている。

それでも仕入れの量は変わっていないらしいし、無駄な廃棄物もどんどんでているとか。

ちなみにこれは、泥遊びの場所を探してうろついていたぶーちゃん情報である。

言ってくれれば中庭に、泥遊びの場所を作るのに妙にいい子である。


「レシピを盗まれますよ」


俺の言葉に、親方は不敵に笑った。


「それが出来るものならな」


俺が親方の言葉の意味を知るのは、少し後の事だった。


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