彼女の前世
は、神様って何それお前頭痛いタイプ? と思われるのは間違いないんだが。
俺は神様だった。それも慈悲の欠片なんて持っていない系の、敵にはとことん容赦のない神様だった。
神様の敵って何よ、悪魔? と思う方々もいらっしゃることは間違いないだろう。
そういう単純な分け方じゃないんだこれが。
まああれなんだよ……神様にも派閥って物があるんだよ……派閥通り越して憎みあって敵になってる感じのがね……
同じ神様だから不老不死だし。いつまでたっても進歩しない頭硬い連中ばっかだった。
ぶっちゃけ俺はそんなのどうでもよかった口だ。戦う場所があればいいと思っていたような戦闘狂で、俺を抱えていた派閥の問題児で、同時に最終兵器だった。
だって前世の俺は戦うために生まれたようなもので、戦いの中でしか自分を感じられなかったんだから。
戦って戦って……ある日いきなり、もう戦う場所はないとかほざかれた。
なんだそれ。呆気にとられた俺に、俺を抱えていた派閥の頭領が言った訳だ。
いわく。
『我々は和解したのだ! 相手方とも話し合いで物事を決定する事にした! もうお前用済み!』
本当はもっとオブラートに包んだ遠慮のあるもの言いだったと思ったけれど、まとめて言っちまえばそんなものだった。
冗談じゃない!
ぶち切れた俺はその場でそいつを三枚おろしにした。
それがやばかった。何故かと言えば頭領は全知全能の神とかいうタイプの神だったのだ。
普通は返り討ちに会う事必須だったのだ。
それをその場の怒りで三枚におろした俺は、ひっじょーにやばい奴になってしまったわけだ。
そうしてどうなったかと言えば、答えは簡単だ。
全知全能の神とかいった頭領のそれは根深い呪いをかけられて、寿命がある存在に生まれ変わる事になってしまったのだ。
身体が壊れていって、精神も封じられていくその時、俺は真面目に思った。
俺がいらない世界に生まれたい……! と。
実は誰にも腹のうちを明かした事がないから誰も知らないんだが、俺はエルフとか人間とかオーガとかそういう、文明を持っていて言葉が喋れて、寿命のある生き物っていうやつに大概あこがれを持っていたのだ。
つまり頭領の呪いは俺にとって好都合だった。
普通に神様じゃなくなる時はいろいろ面倒くさい手順が必要で、決意してもその手順を踏む前に邪魔が入る事が多かったので、この呪いはラッキー! だった。
そして俺は運よく、俺がいなかった世界に生まれ変わる事に成功した。
その国……日本は、俺がいた世界よりもずっとずっと文明の発達した国で、魔法よりも始末の悪い物であふれている国だった。
それでも悪いもんじゃなかったし。
ただ参ったのは、俺の神様としての何かに共鳴した、日本の大量にいる神様がお願いを聞いて欲しい! なんて言って厄介事を押し付けてきた事だ。
元神様のよしみとして、そぼそぼとそういうのを解決していって。
対価として知らない事を教えてもらって。
人間生活もそこそこ楽しくやっていて。
俺は人間生活を満喫していたんだが……何の因果か、去った世界に召喚されてしまったわけだ。
運命の神に問いただしたい。
現世の俺が何をした! 善良な一般市民やってただろうが! 時々ほかの神様のお願いだって聞いてただろうが! 悪い事はしてないだろう!
内心でそんなことを思っているとは露知らず、目の前の青年たちは難しい顔だ。
場所は建物のどっか。俺に間取りを感知する能力はない。千里眼は持ってないのだ。昔は持ってたんだけどな。
それを持っていないから、目の前のやつらの心だって読めない。
俺は何もこっちに言ってくれないやつらをしり目に、お茶を啜った。
……雑草で嵩増ししてんな、このお茶。ぼったくり値段なのは間違いない。
色は赤くて紅茶の中でも上級品の色だ。しかし味は雑味が多すぎる。まずい。
これなら俺は、こっちの世界にある草のイヌニゲを使うぞ。
あれは紅茶よりもうまいのだ。
「……で?」
それにしても、いつまでたっても俺に対して何も言わないやつらを見やる。
「私、家に帰してもらえるんですよね」
召喚に失敗したのですから、それ位やってもらえますよね? というニュアンスを込めて問いかければ、青年が難しい顔をした。
「それが……」
「それが」
「禁忌である聖女召喚や、神召喚は、送り返す事が出来ないのです」
「呼べるのに?」
俺そういうのわかんなーい、という調子で問いかける。
だって俺召喚された事ないし。自分で天界から降りて好き勝手してたし。
そういうの、本当に経験がないのだ。
「おかしいじゃないですか」
「……」
青年は黙る。黙れば許されると思ってんのか、馬鹿が。
「じゃあ、私は帰れないんですか?」
「……そういう事になります」
青年の脇にいた中年が言った。
「私はこれからどうなるんですか?」
殴りたくなるのをこらえつつ問いかけた。
割と暴力的な部分は、神様時代から変わらない気性だ。
「……」
男も女も顔を見合わせた。言いにくい事があるらしい。
「それは……王宮に今回の事を報告して」
「それで?」
「それから……決定します」
「つまり私は用なしとして処分されると言いたいんですか? 勝手に呼び出しておいて、目的の相手じゃないから処分? まあまあなんて野蛮」
猫を千匹くらいかぶった素振りで言ってやる。
俺がまだ、こっちの世界にいた頃の王様ってそういう身勝手さ満載だったわ。
その体制が変わってなかったら、俺の予想は当たる。
彼らは何とも言い難い顔をした。