失敗したはずの召喚
気付いたら、何か古めかしいと言えば聞こえのいい、時代遅れなローブを着た男の人が、俺を見て呆気に取られていました。
何だか薄暗くって湿気た部屋は、光る苔が生えていてそこまでしかいに問題はないけれど。
さっきまでいた、我が家ではないのは間違いなくて。
……誰かこの状況を説明してくれ。切実に。
「なんで人間が」
男の人が呆然とした声で言っている。
そんなもの俺が聞きたいに決まってんじゃねえか。
何なんだあんたら。
言いつつも実はけっこう、厄介事に巻き込まれる感を感じているのは事実だ。
伊達に修羅場はくぐっていない。
とはいえ。
「あの、ここはどこですか」
俺の口は当たり障りのない、この状況では当然ともいえる言葉を口に出した。
えらいぞ俺。うん。
「ここはシュホード大陸の、セレウコス国の首都バルザックです」
一番近くに立っていた青年が、そう言った。
うわ、なんつう懐かしい地名だろうか。
というか、セレウコス国まだあったんだな……
今何年よ。新星歴で何年?
「はあ……」
そんなことを思いつつも、俺は理解不能という声を上げる。懐かしい地名だ、懐かしいのは間違いない地名だ。
だからと言って、なんでここにいるのかの理由にはならない。
「どうして私はここにいるんですか?」
ごくごく普通の事を問いかける。青年はそれを聞いちゃいない。
「失敗だ……今度こそ失敗だ……」
「大丈夫ですよ、誰だって失敗はあります、次の機会に」
青年を慰めている年配の男。
青年の方は、何だかめちゃくちゃぶつぶつと、落ち込んでいるのだから。
埒が明かない。俺は立ち上がって、その青年を蹴り飛ばした。
「いっ!!」
青年が声を上げる。弁慶のむこうずねだ、痛いだろう所をピンポイントで蹴ってやったから、さすがにこっちに注意を向けてくれるだろう。
俺の暴挙に、この部屋にいた人間たちは呆気にとられている。
「何が起きているのかさっぱり分からない人を放っておいて、自分の考えに浸るのはやめてもらえませんかねぇ?」
もはや恫喝、その自覚はある。いかんせん声が男のように低いので、怒るとまるでやくざになってしまうのだ。
それで泣かせた人間は多数。男ももちろん含まれている。女の子は、例外なくぼろっぼろに泣く。ただ事実を言うだけで泣かれるので、最近はコミュニケーションをあきらめている。
痛みで膝をついて呻いている青年が、俺を見やった。
「……」
彼は口を開いて閉じた。言いたい事があるのなら言え。うっとうしい。
「喋る気がないのか、それとも言っても理解できないと思っているんですかね? じゃあ一つずつ片付けましょうか。一つ目、なんで私はここにいる?」
「……私が召喚したから」
「はい一つ片付いた。何にも解決してないけれど。じゃあ二つ目。人様をここに誘拐してきた理由はなに?」
「誘拐などしていない!」
青年が言い返す。自覚はないわけか。ろくでもない。
「じゃあなんで私がここにいるんですかねぇ? 少なくとも私は、自分の意思でここに来たわけじゃないのが明らかだ」
俺は青年を見降ろして鼻を鳴らした。
「そういうの、立派に誘拐ですよ」
「……」
青年が黙った。黙られても困るので、話を進める。
「話戻して。なんでその、あんたから見れば召喚? ってのをやったんですかね?」
「この国の危機だからです……」
答えてほしかった事じゃない。言い方が悪かったか。
「あっそ。三つめの質問、あんたはなにを呼び出すつもりだったんですかね?」
言葉を変える。国の危機とかはっきり言ってどうでもいいんだけれど、失敗と言っていたからには俺じゃない何かを呼び出すつもりだった訳だ。
「……武神ギギウス・ブロッケンを呼び出すつもりでした」
言葉に詰まった。何も言えなくなった。
だってそれは、俺の前世だったから。