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番外:昔に帰ろう編⑧「笑う門には福来たる!」

 クラリスは最初服を作る事にかけて天才的な女の子だと思っていた。

 しかしそれは大きな間違いである事が段々と分かって来たのだ。


 エモシオンの町へ行って大空屋の仕入れにおいて素晴らしい才能を発揮すると、商売に目覚めてミシェルに弟子入り。

 優れた商人としての適性を見せたのである。


 ところで……

 またリア充とか言われそうだが、最近また寝る時のパターンが増えた。

 嫁複数以外に嫁と実子の3人で寝るパターンである。


 今夜、俺はクラリスと一緒に寝て、傍らの小さなベッドにはまだ1歳の息子ポールを寝かせていた。

 3人一緒に川の字で寝ないのはその……まだまだ愛の行為をいっぱいする為だ。

 このスケベ野郎だって?

 貴方も! そこの貴女も! いずれ夫婦になれば分かりますって!

 

 たくさん子供が欲しいと言うクラリスの要求に応えた後、まどろむ一時の事。


「はいっ! 旦那様、よかったら貰ってください」


 以前、クーガーが俺に四つ葉のクローバーをくれたのと同じパターン。

 今回はクラリスから俺へのプレゼントだ。


「おおお、凄い! そっくりだよ」


 クラリスが差し出したのは俺そっくりに描かれた似顔絵であった。

 いわゆる肖像画ではなく、俺の特徴を上手く捉えてデフォルメ的に描いた似顔絵なのである。


「急に旦那様の顔を描いてみたくなったの、私から感謝の気持ちを込めて」


 相変わらず癒し系の笑顔を見せるクラリス。

 笑うと垂れ目がなくなるくらいの癒し系だ。

 しかし洋服を作る時に見せて貰ったデザイン画は秀逸だと思ったが、このような才能もあったとは。

 言うなればクラリスはまるでボヌール村のレオナルド・ダ・ヴィンチである。


「俺、クラリスにそこまで感謝されるくらい尽くしたっけ?」


 俺がわざと意地悪く言うと、クラリスはむきになる。


「何を仰っているのですか! 旦那様と出会うまで私は農作業の合間に洋服をちまちま作る地味な女の子でしたもの」


「地味な子なんてとんでもない! お前はすっごく可愛いじゃないか」


「可愛いって言って貰うと、私どきどきするんです、とても嬉しくなるんです」


 俺は甘えるクラリスをきゅっと抱き締める。


「私、旦那様と結婚して、家族も大勢出来てとても幸せだと思っていました。だけど最近もっともっと楽しくなって来ているんです」


 最近のクラリスの充実振りを見ると俺もそう思う。

 クラリスはマルチな才能を発揮して家族に貢献しながら、自分も充分に楽しんでいる。

 人生を謳歌しているといえるのだ。


「ポールはクラリス似だ。将来楽しみだな」


 俺は傍らで眠る息子のポールを見て言う。

 クラリスみたいに芸術家タイプに育ったら、王都で勉強したいとか言うのだろうか?

 そうなったら、どうしょう!?

 賛成? 反対?

 妄想は膨らんで行く。


「いいえ! 旦那様に似て強い男の子になりますよ。レオやイーサンみたいに」


「おお、そうかもな」


 クーガーとクラリスの日頃のスパルタ教育と、先日の狩りデビューも加わって、最近レオ&イーサンは男としての強さを感じさせるようになっていた。

 レオは渋く、イーサンは爽やかに男っぷりをあげている。

 クラリスは自分の息子に対してやはり強くなって欲しいようだ。


「ポールが芸術と強さのセンス両方あったら無敵だな……顔はクラリス似で恰好良いしな」


「うふふ、旦那様の欲張り! それって親馬鹿ですよ」


 俺はまたクラリスとイチャイチャする。

 ああ幸せと思いつつ、ふと俺の似顔絵を見ていたら、凄い事を思いついたのだ。


 俺は考え付いた事を早速クラリスに伝えて相談する。

 クラリスも俺の意見に賛成してくれた。

 とっても面白いと感じたようだ。


 こうして俺とクラリスは深夜ひそひそと作戦を練ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一週間後の朝食後……


 俺は大広間へ家族を集合させた。

 いよいよ俺とクラリスで練りに練った作戦が発動するのだ。


「よおっし! 注目!」


「何、何?」

「また何か新しい遊び?」

「教えて! 教えて!」

「あそぶぅ!」

「ばぶぶう」


 俺とクーガーが教えた遊びは村に定着して概ね好評だ。

 でも一旦楽しい遊びを知ると、新たな楽しい遊びをもっともっと求めたくなるらしい。

 そう、人間とは欲が深い。

 まあ、このような事であればとっても平和でいいけれど。


 俺が取り出したのは、髪型、眉毛、目、鼻、唇といった様々なパーツであった。

 最後に顔全体の輪郭を持ち出す。


「な~に、これ~?」

「誰かの顔?」


 首を傾げる嫁ズの中でやはり一番に気付いたのはクーガーである。 


「あ~っ、もしかして!」


「そう! もしかしてだ」


 俺はにっこり笑うと顔のパーツを並べてやった。


「あ~ドラゴンママだぁ」

「こわそ~」

「そっくり」


 最初は誰だか分からなかった顔のパーツもちゃんと並べるとクーガーの顔になった。

 普通に描くと顔がそっくりなクッカと区別がつかなくなるので、少々デフォルメ化してある。

 ちなみにクーガーの口からは彼女の渾名通りに灼熱の炎が吐かれていた。


「描いたのは……クラリスかなぁ? ふ~ん、いい度胸しているじゃない」


「ええと、その~」 


 クーガーが本気で怒ると充分怖い事を他の嫁ズは知っている。

 クラリスは思わず俺の顔を見た。

 受け狙いでまずクーガーを描けと言ったのは俺だ。 

 こうなる事を予想して躊躇したクラリスであったが、俺が押し切ったのである。


「おいおい、俺が描いてくれと頼んだのさ。それに最初はクーガーを出さないと始まらないだろう?」


 今迄の流れを見ると、古い遊びの先鞭をつけるのは俺とクーガーというのが家族の中では常識となっていた。

 今回は製作BYクラリスだが、最初のモデルはクーガー以外考えられないと、俺は暗にほのめかしたのだ。

 当然、自分が茶化された事に怒ってみせたのは、クーガーお約束のポーズだ。

 クーガーが本当に怒るのはこんな些細な理由などではない。


「うっふふふ、OK! 分かっているって。でもこれの本当の遊び方をレクチャーしないとね」


「本当の遊び方?」

「何それ!」

「ばっぶ~」


 指を左右に動かすクーガーの挑発に家族は当然大騒ぎ。

 期待が膨らんで行く。

 クーガーは俺の並べた自分の『顔』をリセットすると息子のレオに顔をしゃくった。


「これはね、福笑いという遊びなんだ。レオ、やってみな」


「うん」


「まずママの顔を置く」


「置いた」


「次に目や鼻全部並べるんだ」


 レオは言われた通りにやると先程俺が並べたクーガーの顔が出来上がる。

 場は当然、盛り上がらない。


「これで面白いの?」

「旦那様、いまいちじゃない?」

「ばっぶ~」


 家族からは不満の声が湧き上がる。


「まあまあ、お楽しみはこれからさ」


 クーガーはにやりと笑い、レオにタオルを巻いて目隠しをした。

 当然ながらレオの視界は遮られる。


「ママ! みえない!」


「見えなくて良いんだ、今度はこれでママの顔を並べてみな」


「う、うん!」


 戸惑うレオはクーガーから渡された顔のパーツを勘だけで並べて行く。

 出来上がりは、果たして!?


 出来上がった顔を見た家族は大笑いする。

 顔のパーツはてんでばらばらに並べられていたのだ。


「あはははは!」

「何、これぇ!」

「おでこに口があって火を吹いてる! 変よ、絶対変!」

「まるでクーガーが怪物ですよぉ、まあ元からですけどぉ」


「あはは、クッカ! よ~く言った!」


「ぎゃあああっ」


 どさくさに紛れてクーガーをからかったクッカ。

 当然クーガーにお仕置きされて、頭をげんこでぐりぐりされている。


 そして自分のママであるクーガーの顔を作った当のレオはというと……爆笑していた。


「あははははははははっ」


 初めて見る。

 こんなに大笑いするレオを。

 クーガー似の寡黙でクールな男子の筈なのに。

 原因が原因だけにクーガーも複雑な表情をしていた。


 よっし、そろそろ雰囲気を変えよう。


「おいおい、じゃあ次はこれだ」


 子供達がすかさず反応する。


「あ、クラリスママだ」

「やさしそ~」

「さっきとちがう」


「おらぁ! さっきと何だってぇ? レオ!」


「…………」


 クーガーの怒声を聞いて、すかさず黙り込むレオ。

 こいつ、一人前に処世術を身につけやがって。

 俺は思わず苦笑した。


 クラリスの顔の福笑いで盛り上がった直後、俺は自分の顔を出し、更に次々と家族の顔を出して行く。

 頑張り屋のクラリスは家族全員の似顔絵を描いてくれたのである。


 こうなると自分の顔が茶化されても誰も文句はいえない。

 それどころか、全員が大変な盛り上がりだ。


 家族誰もが『変顔』になり、笑われる。

 しかし自分もつい笑ってしまう。


 腹の底から笑う。

 涙が出るくらい大笑いする。


 笑顔が満ちたユウキ家には『福』すなわち幸せは次々とやって来る!


 俺を含めた家族全員はそう確信していたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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