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番外:嫉みと陰謀編②「再会」

 馬車でエモシオンの町に着いた俺達を、門番から取り次いだ衛兵が城館まで先導してくれる。

 衛兵も俺達の顔を知っているから、オベール様とミシェル母のイザベルさん夫妻にすぐ会う事が出来た。

 城館の中で会う時はいつも人払いして貰う。

 身内だけになるからオベール様も気兼ねなく、公には行方不明となっている愛娘を本名で呼ぶ事が出来るのだ。


「おお、ステファニー!」


「お父様ぁ!」


 ひしっと抱き合う父娘。

 感動の再会。

 そして……


「母さん、相変わらず若いわねぇ」


「うふふ、ありがと。ミシェルも元気そうね」


 ミシェルとイザベルさんも、ステファニー達ほどテンションは高くないが感動の再会。

 娘に言われる通り、イザベルさんは本当に若く見える。

 俺が初めて会った時同様30代前半にしか見えない。


 ミシェルが愛する『弟』に笑顔で合図を送る。


「ばぁ! フィリップも元気ね、それにとても大きくなった」


 イザベルさんに手を引かれたフィリップも俺の子供と同じ2歳。

 俺達が身内なのが分かるのか、にこにこしている。

 顔はイザベルさん似かな?


「うふふ、可愛い跡継ぎも出来てこのまま行けばオベール家も安泰ね、お父様、お母様」


 ステファニーが笑顔でそう言った瞬間、オベール夫妻の顔が僅かに曇った。

 

 何か心配事があるらしい。

 気がついたのは俺と元魔王のクーガーだけだ。

 ステファニーとミシェル、そしてクラリスはフィリップに構いながら、イザベルさんと話している。


「親父さん、ふたりきりでちょっと話しませんか?」


 俺が内緒話を持ちかけると、オベール様は縋るような目付きをする。

 「助かる」というアイコンタクト。

 やはり何かあるのだ。


「分かった、ムコ殿。じゃあ私の書斎に行こう」


『旦那様、後で共有しましょう』


 すかさずクーガーが念話で意思を伝えて来る。

 家族の悩みは基本的に家族全員で解決。

 これがユウキ家の方針だ。

 俺は軽く手を挙げて、クーガーに応えたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「まあ座ってくれ」


 俺に肘掛付き長椅子(ソファ)に座るように勧めて自らも、もたれ込むように座ったオベール様。

 なんだか相当お疲れのようだ。


「どうしました? 心配事があるのでしょう」


「勘が良いな。さすがムコ殿だ」


「俺達は家族ですよ。包み隠さず話して下さい」


「……分かった。お前から聞いたステファニー救出の件を考えたら絶対に相談した方が良いと思ってな」

 

 ステファニーとオベール様が再会したあの日、俺は救出の経緯を説明した。

 オベール様はドラポール伯爵家の失態にして、オベール家に火の粉が降りかからないようにしたという俺の意図をしっかり理解してくれた。

 俺の心遣いを意気に感じてステファニーを任せたいと言ってくれたのだ。


 但し、オベール様へ俺は救出の一部始終を話してはいない。

 細かい事を言っても話が余計にややこしくなるだけだ。

 魔法を使って行方不明に見せかけたとだけ言ってある。


 オベール様の眉間に皺が寄った。


「実はな、あのドラポール伯爵家がまたもやちょっかいを出して来たのだよ、つまり嫌がらせだな」


「でも、オベール様って寄り親を変えましたよね。もうあいつらとは関係ないんじゃ……」


 貴族社会というのは足の引っ張り合いだともいえる。

 少しでも脇が甘い所を見せると容赦しないらしい。

 俺が画策した『ステファニー誘拐【偽装】事件』からドラポール伯爵家は転落の一途を辿った。

 屋敷前でのステファニーの堂々たる拉致で、貴族としての名誉が一気に失われてそれがきっかけで三男ウジューヌの不埒な悪行がばれたのだ。

 

 事件がなくてもドラポール伯爵家の王都での評判は最悪だったようである。

 こうなると処分する恰好の口実として王家よりつけ込まれた。

 誇りを重んじる貴族として、あってはならない失態や品格の無さを責められ、所有する領地の大部分を没収されてしまったのである。


 貴族は時勢の流れに敏感だ。

 ドラポール家の著しい凋落を見て、オベール様達寄り子へ上級貴族他家からの誘いが一斉に来た。

 当然主君鞍替えの誘いである。

 寄り親である上級貴族にとって、派閥の拡大は自家の繁栄に繋がるから抜け目がないのだ。


 子分の寄り子だって同様である。

 寄らば大樹の陰……

 多くの中堅、下級貴族が何かと別の理由をつけて主君の鞍替えをしてしまった。

 元々要領が良いオベール様も例外ではなく、さっさと主君を代えた。

 ステファニーの件で元々嫌気がさしていたからこれ幸いである。

 平時なら無理でも、どさくさ紛れで皆一緒だから平気だったのだ。


「こうなると原因を作ったのはどこの誰だという話になる……」


「ウジューヌの馬鹿でしょう?」


「いや違う……王都の噂では没落の原因が私とステファニーだと、ドラポール家では毎日呪詛の言葉が吐かれているそうだ」


 何、それ!

 とんだ逆恨みだ。

 原因は変態好色男のウジューヌだろう?

 奴がやらかした鬼畜な所業へ天罰が下ったのに何を言っているのか。

 まあしょーもない奴等だから常識など通用しないのだろう。


「その上、ヴァネッサも私を怨んでいるらしい」


「ヴァネッサ?」


「ドラポール家の長女で私の前妻だよ。田舎が嫌で勝手に出ていった癖に、私が今このように幸せなのが許せないようだ」


 ああ、ステファニーと犬猿の仲だった例のまま母さんか。

 話を聞けば王都で純粋培養されたお嬢様で、最初から田舎暮らしには馴染めなかったようである。

 ステファニー誘拐の件で、オベール様がドラポール家への文句をほんの少しだけ言ったら、これ幸いとばかりに離婚を申し出たそうだ。


「ドラポール家が追い落としの原因をでっちあげ、私へ領主不適格のレッテルを貼り、魔境の砦あたりへ左遷させようとしているらしいと王都に居る後輩から連絡があった」 


 ふ~ん。

 オベール様も貴族の端くれ。

 情報源は持っているって事だな。 


「ヴァネッサが離婚する際に護衛で付けた我が家の従士達は、勝手に当家を離れてしまった。仕方無いから解雇したが、最近奴等が戻ってこのエモシオンに入り込んでいる」


「へぇ、戻って来たんですか」


「ああ、とんでもない奴等だよ。市場で商品や接客に難癖をつけたり、衛兵の見ていないところで恐喝を働いたり町をやんわりと荒らしているのだ」


 ヴァネッサとかいう女性も中々の相手だ。

 オベール様の従士の大半を取り込んだ話術で、ドラポール家凋落の原因がオベール様のせいだと吹き込んでいるのだろう。

 元従士達は自分達の不幸全てがオベール様のせいだと思い込むに違いない。

 

 それにしても今やっているのも狡猾なやり方だ。

 派手にやれば当然牢屋行きだろうが、摑まる一歩手前くらいで目立たないようにじわじわやるとは。

 こうしてオベール様の悪い評判を王都だけではなく、地元エモシオンの住民にも伝えて行くのだろう。


「郊外では最近山賊が増えた。証拠はないが、ウジューヌあたりが雇った冒険者か傭兵の食い詰めた連中かもしれない」


 う~ん。

 郊外でも山賊が横行しているのか……

 これは不味い。

 そんな奴等が増えてエモシオンは勿論、ボヌール村の人が襲われでもしたら一大事だ。


「分かりました、こちらでも調べた上で対処します」


「ああ、頼むよ。本来は新しい寄り親に相談するのが筋だとは思うが、まず自助努力によって結果を出せと仰りそうな方だから」


 ふ~ん……

 少々面倒見が悪いようにも思えるが……俺の知らない貴族社会ではいろいろとあるのだろう。

 俺は他にも話を聞いた上で、オベール様と共に嫁ズの下へ戻ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここはオベール家城館客間……

 俺と嫁ズが暫く寝泊りする部屋となる。


「と、いうわけなんだ」


 俺はオベール様から聞いた話を嫁ズにすると各自の反応は様々であった。

 当然ながら烈火の如く怒ったのがステファニーだ。

 身体を震わせて大声で叫ぶ。


「ヴァネッサめぇ! 自分が幸せになれないものだから。それにウジューヌのキモオタデブめぇ」


 ああ、いつもの可憐で優しいステファニーが壊れて行く……

 俺は慌ててステファニーを抱き締める。


「おいおいステファニー、大丈夫だ。俺達で解決しよう」


「くうう……」


 俺はステファニーの背中を優しく撫でてやる。

 漸くクールダウンして来たようで身体の震えが止まって来た。

 

 ミシェルとクラリスも顔をしかめている。

 貴族社会のどろどろに触れてうんざりした表情だ。


「旦那様、やっぱりボヌール村の方がのんびりして良いよね」


「でもミシェル姉、フィリップちゃんの事も心配だし、このままではボヌール村へも影響が出ると思いますよ。放っておけませんね」


「う~ん、困ったね」


 ボヌール村へもクッカを始めとして全員へ話が伝わっていた。

 念話によるクッカ達の声が伝わって来る。


『家族に害を及ぼすなんてクッカは絶対に許しませんよぉ』


『ボヌール村へも悪さをしそうですしね』


『くうう! 私も行けばよかったぁ! そうしたら私の弓でめためたにしてやったのにぃ』


「まあ、待て」


 嫁ズの中で唯一冷静なのが……クーガーだ。


「とりあえず調べてみよう。オベール様の話を信じないわけではないが、情報をもっと集める必要があるだろう」


 おお、凄いな。

 元魔王だけあって頼りになる参謀だよ。

 確かにクーガーが言う通り、まだまだ不確定要素がてんこ盛りだ。

 ジャンを使って王都を探る事もしなければならない。


「クーガーの意見に賛成だ。あまりのんびりとは出来ないが、まずは情報収集だな」


 俺がそう言うと、嫁ズは同意して大きく頷いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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