第8話 「空中散歩を楽しもう!」
俺は飛翔魔法で一気に300mほど上昇して空中に静止する。
熟練度が1の筈なのに、どうやらこの魔法も一発で成功!
魔法がず~っと成功するなんて、今迄の運の悪さが考えられない。
もしかしてどこかのゲームの盗賊みたいに運のパラメータもMAXだから?
まあ、良い。
今は、この状況を楽しもう!
「おおおっ! 改めて見るとやっぱり凄い!!!」
ここへ来た時に既に感動していたが、上空には降るような満天の星空がある。
あまりに星がたくさんありすぎて目がチカチカするくらいだ。
都会で暮らしていた俺には、暫く見ていなかったふるさとの空のようである。
星の配置は地球とは全く違うだろうが、綺麗であれば天文学にあまり興味のない俺は拘らない。
『クッカ! 視力をぐ~んとあげるにはどうしたら良い?』
『はいっ! 遠眼鏡のスキルと念じて下さい。暗視と同じですよ』
よおし……はいっ、念じたぞっと。
うおおっ!
これまた凄い。
調節してと!
『ズームインとズームアウトで倍率も念じれば自由自在ですよぉ』
すかさずクッカのアドバイス。
ナイス!
まさに「取り説」要らずだね。
サンキュー!!!
よっし、どうだ?
おお、バッチリだぁ!
足元には草原と点在する森という光景が広がっている。
後を振向くと柵に囲まれたボヌール村が見えた。
ズームイン!
おお、村にある俺の家が見える!
感動した!!!
いったんズームアウトして。
ええと……村を基点として見ると……
俺は東西南北をズームインとズームアウトを駆使して見渡して行く。
現在居るのは村の北西。
村の北東には別の大きな森が広がっており、湖みたいなものが見える。
西の森より遥かに大きな森だ。
何か探索しがいがありそうである。
北には歩いて来た街道が伸びている。
こっちは管理神様曰く、いくつかの町を経て行き先は王都。
南はと言えば、街道をだいぶ歩いて下るとボヌール村よりほんの少しだけ大きな町とその奥の丘に、ちんまりした白い石壁の城館がそびえているのが見えた。
ここが多分、領主の館。
リゼットがオベール様って言っていた人が居るのだろう。
彼には絶対に目をつけられないようにしないと。
莫大な報奨金が貰えるなら俺だって王様へ報せる。
そうしたら俺は勇者まっしぐら……そんなの嫌だ!!!
ちなみに領主が居る町より先にも街道はずっと南へ伸びていた。
それ以外は街道を挟んで草原を基本に森、湖(もしくは沼)という地形が展開されるパターンで他に人間の町や村などは見当たらなかった。
ここはやっぱりすっごい田舎なのだ。
まあざっくりと見ただけだから、もしかしたら見落としているかもしれないが、小さい集落は後でチェックすれば良いだろう。
『よし、時間も限られているし早速、薬草採取へGO!』
『はいっ! 飛行訓練をしながら西の森の中ですね、ゴーゴー!』
お!
クッカのノリも良くなって来た。
相変わらず笑顔が超可愛い。
まあ彼女は美人さんだから何をやってもOKなんだが。
俺は西の森を目標に飛翔を開始した。
速度を急に上げたり、回転したり、急降下したり、空の散歩を存分に楽しみながら。
ところで皆さんは夢の中で空を飛んだ事があるだろうか?
俺はある。
夢の中だと何故か高所恐怖症も感じなかった。
だけど「思ったように飛べた!」とは言い難い。
何か身体に制限をかけられたように重くて自由に飛べなかったのだ。
それが今や!
風を切って飛ぶこの素晴らしさ。
やろうと思えばどこまでも限り無く速度が出そうである。
どのように飛ぶかは、頭の中で思うだけでOKなのだ!
満天の星の下、夜の大空という海を自由に泳ぐ魚のように俺は飛び回った。
傍らではクッカがぴったりくっついて優しそうに微笑んでいる。
『うふふ! ケン様ったら、まるで子供みたい』
良いんだ!
どうせ、俺は大きな子供。
楽しいおもちゃを手に入れた気分なんだよ。
『でも、そろそろ行きましょう、西の森へ』
クッカに促された俺は、速度を少し上げて西の森へ飛んで行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どうでも良いが、基本的に俺は怖がりである。
お化け屋敷も滅茶苦茶苦手な男だ。
だから闇からホラーって不気味なお化けが出たり、血がブーなスプラッタなんかが好きな女の子は一切NGだった。
そのような映画に誘われてもすべてお断りだから、どれくらい彼女を作るチャンスを逃がしたか分からない。
ついでに高所恐怖症だから高い所もダメ。
え?
さっきはどうして空飛んだのに大丈夫だったって?
勇気ってスキルがあるんだとさ。
某少年誌の合言葉のような、某ゲームのスペックのような、そんなスキルが今の俺にはある。
だから今は全く平気だ。
あ~ははは。
凄いよ、オールスキルって!
『そういえば飛翔した直後、高いの嫌だよぉって泣き叫んで手足バタバタ。涙だだ漏れで鼻水たらしてパニクっていましたものね! もしかして、おしっこも漏らしてませんか?』
漏らしてね~よ!!!
て、普通言うか? それ!
クッカ、こらっ!
俺が怒るとクッカは「てへぺろ」しやがった。
『えへへ、ごめんなさ~い』
ったく!
まあ、こんなに情けないレベル99男ですよ。
等身大で良いでしょう?
前置きが長くなったが、俺達は西の森の上空に来ると、降りられる場所を探す。
ちょうど木々が途切れた原っぱがあったので、そこへ出来るだけ目立たないようにそっと降りる。
周囲には何も居ないが、無論索敵は欠かさない。
夜の森だから夜行性らしい生命反応はたくさんあるが、大抵は大人しい草食獣らしく、クッカから危険は殆ど無いと言われる。
『あ!』
『あ!』
俺とクッカの声が重なった。
だいぶ離れているが、大型の肉食獣の気配を察知したからだ。
『熊だ』
『熊ですね、この森の中で北西約2km先に居ます。悪意を持った魔族や魔物そして人間はアンノウンと出ますが、普通の人間は人間、兎や鹿も含めて動物は90%の確率で索敵出来ます。ケン様も同じ力をお持ちですよ』
『う~ん、どうしようか?』
『その体力吸収の魔剣を使います?』
俺が腰から下げている、引寄せの魔法で得た黒い刀身の魔剣は体力吸収の効果が付呪されていた。
効果は文字通り体力吸収して、逆に持ち主に奪った体力を渡す反則な剣だ。
『うん、もし遭遇したら戦うよ』
何もしていない熊を殺したくないが、がぶりと喰われるのは嫌だものね。
ここで俺は、はたと手を叩く。
ひとつ思い付きをしたからだ。
『そう言えば俺って動物や魔物との意思疎通って出来るの?』
確かソロモンの72柱悪魔にそんな特技を持つ悪魔がいたと思い出したのだ。
俺の問いにクッカは……
『ええ、出来ますよ』
は?
あっさり言うな……全然OKなんだ、それ。
ここで俺はふと思う。
『じゃあもしかしてあの時、ゴブに平和的な解決……すなわち降伏勧告も出来たんじゃないの?』
これもクッカはあっさり答えてくれた。
『出来たかもしれませんが、彼等はまた人間を襲います、こればかりは食欲=本能ですから仕方がありません。出会ったら排除のみです、悪・即・斬!!!』
ぶれないっす、女神様。
何せ、ゴブが大嫌いと来てる。
『それより早く薬草を取りに行きましょう。熊に会う前に』
確かにその通りだ。
俺達は足を早めて昼間、リゼットが採りに来たという薬草の繁茂地へ向かったのであった。
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