第25話 「俺、召喚士デビューしちゃうってよ! ③」
俺は妖精猫のジャンをまず最初の従士として呼び出した。
続いてクッカの厳しい『監修』の元、戦闘向きの魔物を呼び出す。
『召喚!』
実は俺好みの魔物が居る。
そいつを俺は召喚しようと思う。
二度目の召喚前に、クッカからは下記の厳しい召喚規定が設けられた。
人間型の女性魔物は勿論、全てのメスはクッカとキャラが被るから一切禁止!
悪魔、吸血鬼、夢魔、不死者、幽霊などの召喚は不気味だし、俺のキャラに合わないから一切禁止。
蛇、ミミズ等、クッカにとって生理的に嫌いなものは一切禁止。
幸い、俺が好きな魔物はこれらの規定に引っかからない。
……筈だった!
ごおはあああああああっ!!!
召喚された魔物は実体化すると、びりびりと空気が振動するほど凄い咆哮をした。
あちゃぁ……
これじゃあ、もしかしてボヌール村へ聞こえたかな?
心配した俺がしかめっ面をしていると……
『きゃ~っ』
『ひいいっ』
召喚した魔物を見て悲鳴がふたつ!
クッカとジャンであった。
見れば、クッカは腰を抜かして、ジャンはにゃごにゃご言って混乱している。
『ど~したの?』
『ケン様! だだだ、駄目です! この魔物は絶対にいけませんっ!』
『そそそ、そうだよっ!』
クッカとジャンが駄目と言っているにはそれぞれ理由が異なる。
ちなみに俺が召喚したのは……
巨大な犬の魔物、冥界の番犬と呼ばれるケルベロスである。
俺の憧れ、魔獣ケルベロス。
3つの頭。
剛毛に覆われた逞しい胴体。
そして蛇の尾……
一説には尾が竜という話もあるが、俺が召喚したケルベロスは弟のオルトロス同様、尾が蛇であった。
『無理無理無理無理!』
クッカは機関銃のように拒絶の言葉を吐き散らし、ひと息ついて……
『蛇の尾なんて絶対に無理~っ!!! ケン様っ、早く異界へ帰還させて下さいっ』
しかしなぁ……
俺が戦闘用に従えたいって思うのは、こいつしか居ないし。
そう思っていたら……
『ワガアルジヨ。シンパイハ、ムヨウダ』
お、ケルベロス。
お前って、喋れるのね。
『オヲキラウナラ、ケイジョウヲカエレバヨイ。カンタンナコトダ』
うぉん!
ケルベロスが軽く吠えると、何と彼の尻尾は怖ろしい蛇から、ふさふさのラブリーテイルになった。
俺がついモフモフしたくなるような可愛い真っ白な尾っぽに一変したのだ。
『え?』
べそをかいていたクッカが驚いて目を丸くしている。
俺はしてやったりと笑う。
『クッカ、これでOKだろう? なあケルベロス……それ、いつでもモフモフして良いよな?』
『…………』
一瞬の沈黙……
そして激しく蔑むような視線。
ああ、高尚な趣味を理解して貰うって大変だ。
でもここで諦めてはいかん。
『駄目?』
『シカタナイ、ワガアルジガ、ノゾムナラ……』
ああ、よかった!
もふもふしちゃおう、そうしよう。
クッカはちょっと不満そうだが、黙っている。
尾の本当の形状を知っているからだろう。
だがケルベロスなら戦う従士として何の問題もないから渋々認めてくれたようだ。
『よ、よくねぇ! 俺はよくねぇんだよぉ!』
一方、まだ首をぶんぶん横に振っているのはジャンである。
こいつが拒否する理由はクッカ同様単純だ。
妖精猫は妖精犬という宿命の好敵手が居るので分かる通り、犬が大の苦手なのだ。
まあ現実でも犬が好きな猫の方が稀だ。
だが、あまりにもジャンが騒ぐのでケルベロスも頭に来たらしい。
『サワグナ、ダネコ』
『だだだ、駄猫だとぉ!? て、てめぇ!』
『ジョウゼツト、ヘンシンノウリョクデシカ、シュジンニコウケンデキナイダネコハ、ダマレ! オトナシク、シズカニシテイロ!』
『くう! 俺がケンにとって全く役に立たないと言うのか!』
『ソウダ! オマエハモジドオリ、ドロボウノヨウニ、シノビコムダケダロウ? ドロボウネコヨ』
『おおお、俺がぁ! どどど、泥棒猫だとぉ! もう許さん!』
ジャンはいきなり二本足で立ち上がると、手の先から鋭い爪をぴゅっと伸ばす。
ああ、妖精猫の武器のひとつはこの何をも切り裂く爪なんだ。
『いい加減にしなさい! ふたりともっ』
クッカが鋭い声で叱る。
おお、そうだ。
俺も黙って見ている場合ではなかった。
妖精猫とケルベロスの喧嘩なんて滅多に見れないから、つい見とれてしまったのだ。
『おいふたりともやめろ! これから俺の従士として適材適所で働いて貰うんだ、お互いを尊重しろ』
適材適所……俺が好きな言葉である。
決め付けは良くないが、仕事には向き不向きというものがある。
あくまで理想だろうが、俺にとって仕事は適性重視!
出来るだけ楽しんでやって欲しいもの。
ケルベロスは俺に対してとても忠実のようだ。
すっぱり矛を収めてくれる。
『ワガアルジガ、ソウイウノデアレバ、ワレハシタガオウ』
『ぐうう、分かりましたよ! 見てろよ、糞犬っころめ! 俺は駄猫じゃねぇ、必ず役に立ってみせるぜ」
俺の執り成しでジャンも渋々引き下がってくれた。
喧嘩が収まると、俺は最後の召喚魔法を発動する。
『召喚!』
最後に俺が召喚したのは移動用の魔物である。
俺には飛翔と転移の魔法があるが、やっぱり移動用の従士が必要だ。
俺の召喚魔法により生み出された白光の輝き。
その中から嘶き、現れたのは一頭の巨大な鹿毛馬であった。
巨馬の馬体は全身がバネのようであり、特に後肢は異常な程発達しており他の馬とは全く違っていた。
かといって禍々しいという雰囲気は全く無く、額に白星を持ち後足は白が入った神々しく美しい馬なのだ。
確かにペガサスや八本脚の馬よりも名前は知られていない。
しかしこの馬の能力は決して彼等に劣ってはいないのだ。
遙かなる天空を一気に駆け抜け、地においては岩をも粉砕して走りながらも傷ひとつ負わない頑健さを誇るのだという。
クッカはさすがに吃驚している。
『ケン様! こ、この馬は!?』
『ああ、かつてある大悪魔が騎乗していた妖馬だな』
『彼はベイヤール! ケン様がこの馬を召喚されるとは!』
『かつての悪魔の騎乗馬だが……問題無いよな』
『管理神様からは今の所お咎めのメッセージは届いていません。……たぶん問題ありませんね』
『と、いうわけでベイヤール、今後とも宜しくな』
ぶひひひ~ん!
ベイヤールは元気良く嘶いた。
ジャンはベイヤールの迫力に気圧されたように黙っており、ケルベロスも僚友を頼もしそうに見詰めている。
これで俺、クッカのコンビに頼もしい3人の従士が加わったのだ。
目の前に東の森が広がっている。
またオーガみたいな人食いの魔物が出たら、誰かがレベッカみたいに襲われてしまう。
それを防ぐのがボヌール村の「ふるさと勇者」である俺の役目だ。
俺はそう強く決意して、ゆっくりと歩き出したのであった。
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