第2話 「俺TUEEEとか笑っている場合じゃないよ」
管理神様は結局、自分が言いたい事だけ言って去ってしまった。
俺に与えたレベルが単に最高位だという事しか、話してくれなかったのだ。
普通のケースなら、チュートリアルの説明くらいあっても良い筈である。
まあ、いつまでぐだぐだ言っていても仕方がない。
もう割り切ろう。
「仕方無い……俺の担当は珍しく自由放任主義の神様なんだろうな……」
俺は独り言ちると、自分を無理矢理納得させる。
そういえば神様は、ひとつだけ凄く気になる事を言っていた。
転生した俺の人生がたった一発でアウトになる致命的なひと言を。
俺のレベル99の力が、もし王国へ知られれば勇者確定となって魔王討伐を命じられるとか……
勇者?
嫌だ!
真っ平だ、そんなの。
神様が俺をあっさりレベル99にしたように、こんな簡単に勇者が創れるのであれば、どうぞ魔王討伐を希望する方にお願いして下さいよって感じだ。
やはり仕事というのはぜひとか、必ずとか希望する人が居れば、その人がやるのが一番良い。
ようは適材適所だ。
故郷に帰ってのんびり暮らそうとしていた俺を、手違いで死なせた上に勇者までやらせるなんて全くもって理不尽な神様だ。
でも神様にいくら怒っても意味が無い。
だから自己防衛して俺の力を知られないようにしなければならない。
特に領主に知られるとすぐ王様にご注進されてしまうのだと。
絶対に要注意だ。
だが自分の身体の能力の試運転はする必要がある。
この世界がどんな世界かも分からないし、またすぐ死ぬのは勘弁だ。
俺は改めて周囲を見渡した。
相変わらず何もない大草原だ。
すご~く遠くにいくつか森が見える。
そして自分はと言うと、頑丈だが地味な革鎧を装備した単なる少年なのも変わっていない。
でも……やっぱひで~や。
割り切ったつもりでも、つい愚痴りたくなる。
普通、最初にくれる筈の剣や当座の金を含めた、いわゆる『冒険セット』さえ無い。
一体、何なんだ。
と、なると頼りになるのはこのような場合のサバイバル知識だ。
幸い俺はラノベ、ゲームなどからこのような世界の知識はひと通り得ている。
俺の『先輩方』がどのように異世界に順応していったのかもしっかり覚えていた。
「よし! それで行こう」
まず思いついたのは、身を守る武器だ。
手ぶらじゃ不安だし、レベル99なら当然凄い魔法を使えるに決まっている。
確かどこかの小説に引寄せの魔法ってあったな。
好きなアイテムを自分の手の中に持ってくる超便利な魔法だ。
果たして使えるのだろうか?
レッツ、トライ!
「我が手に得よ!」
俺は剣をイメージして声に出す。
すると……現れた!
革製の鞘に入った刀身1mくらいの剣が突如現れたのだ。
それも俺の好みの剣らしく細身で軽い。
鞘から抜くと、刀身は綺麗な銀色で眩く光っている。
「どんなスペックなんだろう?」
その瞬間であった。
剣の性能が俺の頭に現れたのだ。
ミスリルの魔法剣。
あらゆる魔法を付呪して様々な属性の敵に有効な攻撃を与えられる万能剣。
「おおっ! すげー!」
俺は剣を抜いてひと振り、ふた振りした。
ぴゅおっという風を切り裂くような音がして凄そうだ。
「あらゆる魔法を付呪か。じゃあこれはどうだ!」
俺は叫ぶ!
「燃え盛る炎よ! 剣に纏えっ!」
これってどこぞの『主人公』が言っていた必殺のセリフを少し変えてるが、果たして?
ごわあああっ!
「うっひゃああ!」
俺は驚いた。
ミスリルの剣が紅蓮に染まり、激しい炎が10mも噴き出したのだ。
まるで映画で見た火炎放射器である。
凄まじい熱気が俺の頬を打つ。
「ええっと! ここ、これ止めるのはどうしたら良いのかな? PCとかだとDeleteだけど……」
すると即座に炎が消えた。
どうやら正解……だったようだ。
少しずつ慣れて来た俺はどんどん、レッツトライ!
「おお! じゃ、じゃあ! こ、今度は俺のスペックを見よう……ど、どう、だろう?」
スペック……出ました!!!
ケン・ユウキ(人間族:男:15歳:独身)
レベル99(MAX)
HP:999,999、MP:999,999、STR:999,999、ATK:999,999、DEF:999,999、INT:999,999、AGL:999,999、DEX:999,999、MND:999,999、MOV:999,999、LUK:999,999
はぁ!?
ななな、何これっ!!!
ええとスキルはと……
オールスキル(仮)。
付録:天界所属案内用女神呼び出しシステム。
って!!!!
「ここここ、こんなの見たことねぇっ! は、はっきり言って……人間じゃねぇよ~っ!」
誰も居ない街道に俺の声だけが響いていた。
――10分後
気を取り直した俺は再び村へ向かって歩いている。
とんでもない俺の能力。
悪役で言えばいきなりラスボス級だ。
こんなの聞いた事がない。
やっぱり普通はレベル1からコツコツとアップしていくのが王道である。
最初からレベル99なんて、これじゃあ全くチート、超反則だ。
「これって本当にやばい! 俺TUEEEとか笑っている場合じゃない。力をすご~く加減して使わないと、すぐ目立っちゃうぜ。誰かから王様へ連絡されちゃえば勇者認定まっしぐらだ!」
俺は一応考えた。
万が一勇者になった最悪の場合の事を。
ちなみにさっきから勇者=最悪って言っているけど、俺は決して勇者に対して悪意などない。
ただ、誤解のないように言わせて貰えば、いろいろな話を聞いたり読んだりしている限り、勇者ってあまり幸福になった人は居ない気がする。
強大な力を警戒された挙句、とんでもない危険人物として怖れられて抹殺されるか、良くて使い捨ての便利屋さんになる場合が多い。
結論!
俺はやっぱりそんな結末は御免だ!
そんな時、腹が鳴った。
ぐううう……
あれ?
腹……減ったぞ。
レベル99でもこれは……ありなんだ。
俺は少しホッとした。
飯も水も要らない身体とかだったら凄いと思う反面、もう完全に人間じゃない。
それって、もはや神様だ……
「きゃ~っ」
おおっ!
いきなり若い女の子の悲鳴だ。
でも周囲を見渡したら、どこにも姿が見えない。
もしかして俺の聴覚が異常にあがって、遠くの声が聞こえたからだろうか?
それに遠くからやばそうな気配が伝わって来る。
ここから街道を外れてずっと西の方角だ。
俺が読んだ事のある大好きなラノベだと、凶悪なゴブリンに襲われた女の子を助けて村へ一緒に行くパターンがあるけど……
よしっ!
行ってみようか。
ええっと?
距離は?
俺がふとそう考えた時。
『西へ真っ直ぐ! 目標まで距離約1Km』
若い女性の無機質な声がいきなり響いたのだ。
これは先程の神様の念話と一緒である。
「は!?」
これって……ナビゲーターシステム?
まるで……音声案内カーナビだ。
それも1kmって!?
そんな遠くの声が聞こえたのか?
「とりあえず急ごう」
俺は走り出した。
「おおおっ、身体が軽い!」
自分の身体ながらまさに飛ぶような感じだ。
砂煙が巻きあがり、俺はとんでもない速度で西へ向かって走って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺がダッシュで現場へ向かうと、行き先に多くの気配が小さな気配を追いかけているのを感じた。
ええと……もしかして索敵って出来るのかな?
すると……またあの女性の声が聞こえる。
『目標まであと約500m。そして、目標の周囲に多数敵あり。敵はアンノウン!』
「アンノウン? アンノウンって何だっけ?」
俺は記憶を呼び覚ます。
確か、アンノウンというのは未知とか不明って意味である。
そうか!
遭遇して確認しないと自分の中に知識として蓄えられないんだ。
まだ俺は1回も敵にも誰にも出会っていないから。
「きゃああ!」
また女の子の叫ぶ声が耳へ入った。
さっきよりずっと近い。
「やばいぞ! 急がないと」
俺は一気に速度を上げる。
すると草原を必死にこちらへ走ってくる女の子が1人。
髪を振り乱して、逃げて来る。
そして凄い数で追いかけて来ているのは……
1mくらいの小柄な身体に、サルを思い切り醜く兇悪にしたような顔付き。
雰囲気からして、やはりお約束のゴブリンだ。
少し先に青々とした森が見える。
あそこでゴブリンに見付かって逃げて来たのだろうか?
森からこの草原まで、ず~っと走って来たのであろう。
少女はもう息が切れそうだ。
俺は大声を張り上げる。
「お~い!!! こっちだ!」
そう言えば、言葉って通じるのだろうか?
俺は日本語しか喋れないが……まあ、良い!
ハッとした少女は俺に気付いたようだ。
地獄に仏という安堵の表情を浮かべて、転がるように走って来る。
俺は立ち止まると少女を受け止めるように、両手を大きく広げたのであった。
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