~G.W《ゴールデンウィーク》からの~ままならない今日この頃 第7話
日常的な学校生活を題材にしてるので、良い部分悪い部分、入れ替わり立ち替わりに出てくると思います。いわゆる鬱展開と呼ばれるものや、ムカつき表現など、そういう内容が好みでない方もいると思いますので、キーワードにも残酷な描写ありと表記してますが、あらためて前置きしておきます。
『断罪ショウ』早よwと、作者もそう思いつつまだ先に。。。
時間というのはとかく不思議なもので、世の学生が待ち望んでいる連休の一つ、G.W・ゴールデンウィークなど今年もあっという間に過ぎていった。五月九日・・・・・・今日からまた日常が始まってしまう。
普段から朝に弱い裕紀ではあるが、今朝に関してはすでにシャキッと目を覚ましている。洗顔やカバンの支度なども済ませて、あとは朝食を食べるだけな状態。いつも母がする朝食の準備より早い。
はあっ・・・・・・休日だったら、逆にこんなに早起き出来るのにな。
などとゴールデンウィークで身に付いた早起きの習慣にため息をつきつつ、朝食もそろそろ出来る頃合いだろうと自室からリビングまで下りていった。
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家を出てから学校までの道のり。目に映る道中のあれもこれも 、久しぶりすぎて何だか奇妙な感覚だ。こんなところを歩いてたっけな~と、まるで自分が学生でなくなったかのような懐かしささえ感じる。そんなことを思いながら、いつもの通学路を行く。
メトロの本駒込駅。今日も、余裕ある時間帯。人混みの流れに沿ってエスカレーターに乗ろうとすると、「ういっす」と後ろから声をかけられた。
「ういっす、″りょっちー″」
友人の良治に、裕紀はいつもの挨拶を返す。ゴールデンウィーク中もちょいちょい一緒に遊んでいたものの、やはり″懐かしい″という感覚がした。
「あれだ、宿題今日だったよな 」
と裕紀が言えば、良治の顔がたちまち苦笑いに。
「お前、それ現実とか止めてくれよなぁ~っ!?」
若干おかしな言葉で、ぐあっと頭を抱えたりもする。「ヤベェよ、あと十二問」と、情けない現状を吐露した。
や、やっぱりフラグが当たった・・・・・・。
「まあ、まだ時間あるだろ」
内心苦笑しつつもスマホの画面で時計を見つつそう言う裕紀。HRが始まるまで、それくらいの問題数なら終わるだろう。
「いや、お前のペースならな??」
嫌味かと、軽く裕紀に噛みつきつつ先にエスカレーターのステップに乗る良治。「どうすっかなぁ~」などと言いながら、気忙しくあちこちに目をやっている。
「ありゃ?」
と良治。ふとエスカレーターの上方に目線が止まった。「級長じゃね?あれ」とそちらを指さしつつ、裕紀に同意を求めてくる。
「ん。ああ、柳井君か」
後ろ姿を見て、そう同意を返す裕紀。級長こと、裕紀らのクラスメイトの柳井誠一。クラス委員長を務めていることから、『級長』あるいは『柳井級長』などと呼ばれていた。
エスカレーターを昇って地下道を出た辺りで、まずは良治の方が、後ろから柳井に声をかける。
「ういっす、柳井級長!」
「ん。あ、おう?」
少し眠たげな調子で、キョドりつつ裕紀らの顔を見やる柳井。「君達か」と、気だるげに返事を返してくる。
「ゴールデンウィークはどうだった?」
「ん~。まあまあだった、かな?」
今度は裕紀の方がした問いかけに、柳井はあらためて彼の方を見る。すると寝ぼけ眼などさっさと取っ払って、「君こそ、どうだったんだい?もうすぐ全国模試だけど?」と、急に真顔で尋ねてきた。
「あー、うん。そうだったね・・・・・・?」
柳井の問いかけに少し面食らいつつも、相づちを返す裕紀。六月の、全国模試のこと。うーん、あんまり聞かれたくないことで・・・・・・まあ聞かれたら仕方がない・・・・・・か。
「やっぱり、K成高A判定狙い?」
「え。いやいや、それはさすがに無理ゲー」
都内屈指の進学校の名前を出されて、裕紀は恐縮しきりな口調で片手を振る。うーん、いつもながら、どうして自分がそういう過分な評価を受けるのだろうか。
「じゃあ、WS実業?」
「いやいや、だからそれも難しいって」
これまた有名校の名前を出されて、やはり裕紀は恐縮する。うーん、評価をしてくれるのは嬉しいが・・・・・・。
「まあ、小林君だからそれくらいは、ね」
と、ひとりごちるように締めくくる柳井。うーん、だからそこまでは無理だと言うとろうに・・・・・・。
「おーい、優等生のお二人さ~ん?」
やや困り顔の裕紀に助け船を出したのは、裕紀と柳井の間で置いてけぼりを食っていた良治。「それより、はよ英語の宿題手伝ってくんね?」と言って、裕紀にジトっとした目線を向けてきた。
「あ、ああうん。そうだったね!」
取り繕うように返事を返し、裕紀ら三人は自然と足早く学校へ向かうことに。中等部の校舎に入って教室に続く階段を上っていると、ふと踊り場のがやがやした雰囲気が耳についた。
「どけどけ、どけえぇ~いっ!!!」
不意のことだった。廊下の死角から幾つか人影が飛び出してきて、踊り場から勢いよく階段を下ってくる。階段を上りかけていた三人の横を、まるで竜巻のように荒々しく通り過ぎていった。
「邪ぁ~魔だあ~っ!!!」
ドンッ、という鈍い音。「痛っ・・・・・・つ!?」と、特に柳井がそのドタバタの煽りを食らったようで。廊下を駆けていた奴らに無理に押し退けられて、階段の壁際に身体を打ちつけた格好である。
「チンタラしてんじゃねぇ~!!」
自分が何をやってるのかも棚に上げて、こちらに向かってわめき散らし、″見覚えのある″そいつらは、引き続きドタドタ階段を下りていってしまった。ったく・・・・・・朝っぱらから。
「や、柳井君大丈夫?」
心の中で悪態を吐きつつ、それでも柳井に声をかける裕紀。柳井は「いや。平気」と言いつつも、自分を突き飛ばしていった″見覚えのある″奴らの下っていった階段下を見やって「くそゴミどもが・・・・・・」と、ひと言呟く。それを聞いた良治が「ま、まあまあ・・・・・・」と、困り顔をしつつなだめた。
「相変わらずだよな。″森川君たち″は」
と、裕紀のひと言。それを聞いた柳井はようやく落ち着いたかのように、ふうっと深く息を吐いた。
「サルでも反省は出来るらしいけど・・・・・・」
溜飲を下げるかのように、柳井はそう言う。あまりそういう言い方をするものではないと思いつつも、内心では裕紀も同意見だった。
「嫌われてんなぁ~森川は」
と、苦笑混じりの良治。「行こっか」と、裕紀のひと言で三人は教室へと向かっていった。
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登校の、のっけから不愉快に始まった今日の平日。HRで「起立」と「礼」を号令する級長の柳井の声音が明らかに不機嫌だったのも、一緒に登校した裕紀などにはよく理解できた。
しかし、良治の「終わらねえ!」宿題は無事に提出期限までに片付けることができたため、良治なんかは対称的に機嫌が良い。
「昼、ポンジュースおごるわ」
「いや、いいって」
などとやり取りしつつ、午前中はあっという間に過ぎていく。昼休憩になって、約束通り一階の購買部でジュースをおごってもらった。
「メシは?」
「ん。今日も弁当」
と、良治からよく冷えたペットボトルを受け取り答える裕紀。「俺、C組の奴らと学食行くから」と良治。「んじゃ、後でな」と言って、裕紀はそこで良治と別れた。
「ありゃ」
購買部から廊下を行くと、階段辺りで仁村と出くわす。何人かクラスの男子も一緒で、購買部で昼飯を買うのだという。陸上部の里中や硬式テニス部の川田など、運動部所属の奴が多い。仁村と同じバスケ部の岩附勇人なんかも、後ろの方で誰かとくっちゃべっている。
「よし行くぞ、ユウちゃん」
「え、俺今購買行ってきたとこ・・・・・・」
裕紀は言いかけるも、「はいはい良いから」という仁村の勢いに押しやられるように、再び購買部まで足労する羽目になった。
○○○○○○○○○○
六限目、最後の科目は音楽。まあ、時間割的に今日は楽な日なのだろう。そろそろ夏季が近いとのことで、J-POPの夏歌なんかを歌う授業内容。裕紀は個人的に『少年時代』なんかが気に入っている。ゆったりした曲で、歌詞の言葉なんかも自分の琴線に触れる、という感じで。しかし、それとは対称的にと言うべきか、友人の仁村なんかに至っては『夏祭り』で「打ぅち上ぁ~げぇ~花ぁ~なぁ火ぃ~っ!!」とか言って隣の誰かと肩組みしつつ熱唱する始末。相変わらず、陽気で賑わしい友人である。たまには、付き合わされる方の身にもなってほしいものだが・・・・・・。
その隣の仁村のテンションに合わせて少しのどが腫れっぽくなったかなと思いつつ、六限目終了のチャイムを聞く裕紀。「起立」と「礼」の号令を終え、皆で音楽室を後にしていく。
「ありゃ」
校舎の四階から教室の三階まで階段を下ろうとして、ふと裕紀は忘れ物をしたことに気づく。
筆箱が、ない。
仁村や良治に「ちょい戻るわ」と言って、音楽室まで引き返していく。終業後の音楽室の中はシンとしていて、音楽担当の教諭もすでに教室を出た後のようだ。
「あった」
教室の後方、ずらりと並んだ机の上、裕紀が愛用する布製の筆箱がポツンと置き去りになっている。それを手に取ったところで音楽室の入り口がガタンと鳴ったので、裕紀は思わず飛び上がりそうなくらいに驚いた。
「おお、ビックリしたぁ~?」
こちらを見て、面食らったように目を見開く一人の男子生徒。岩附勇人、バスケ部所属のクラスメイトが立っていた。
「いや、ビックリしたぁ~!?」
調子を合わせるように、裕紀も少しおどけてみせる。ひと呼吸置いてから、岩附はこちらに歩み寄ってくる。「あ、忘れ物?」と彼に聞かれれば、裕紀もまた「忘れ物」と返す。
「俺もちょい、な」
と、岩附。恐らくさっきの授業で彼が座ってたらしい席の辺りをガサゴソやる。さすがに知らん顔も出来ないので、裕紀は「何探してるん?」と言って、彼の側にかがみ込んだ。
「あー、消しゴムな。消しゴム」
机の空の引き出しを覗きつつ答える岩槻。「その辺にないかね~?」と言われて、裕紀も主に音楽室の床辺りに目をやった。しかしパッと見、消しゴムが落ちているような物影はない。
「ん~ない系・・・・・・かなぁ~?」
音楽室の床をひとしきり見て、裕紀もまた首を傾げる。音楽室の黒板付近やその脇のピアノの下など、膝をつき屈むなどして引き続き探そうとするが、「いや、やっぱいいよ」と岩附に言われ、やむ無く裕紀はピアノの下から腰を上げた。
「あ」
ふと裕紀の視線が止まり、独りでに声が漏れる。「ん?どうした系??」と言って、岩附がこちらに歩み寄ってくる。
「あ」
と岩附。裕紀の視線の先に目を向けて、やはり独りでに声が漏れた。
「コレ、かな・・・・・・?」
″ソレ″を拾い上げて、岩附は半信半疑に確認しようとする。
「あ。やっぱりコレだわ」
手に取ってたちまち頷き、岩附は消しゴムを筆箱にしまう。「いや~、見つかって良かったわ!」と、ホッとしたように笑った。
「・・・・・・何か、どっかでバウンドしちゃったんかね~?」
と裕紀。自分が言ってることの″おかしさ″を感じつつも、努めて平静に振る舞う。
「んまあ、バウンドしちゃった系かなぁ~?」
こちらに念押ししてくるような調子で、やはりおどけてみせる岩附。「悪いなユウちゃん。助かったわ」と、礼を述べてくる。「教室、戻るか」と続けて、岩附は裕紀と二人音楽室を後にした。
「んまあ、見つかって良かったわな」
廊下を行く道すがら、岩附が口を開く。
「まあそう、だな・・・・・・」
のどの奥に引っ掛かるような思いを感じつつも、そう言って相づちを打つ裕紀。やはりさっきの音楽室で感じた″おかしさ″が頭に残りつつ、しかし言うに事欠くもどかしさでいっぱいな、そんな状態。
「何もねえわな。なあ?」
と岩附。ふと呟くような調子で、果たして裕紀に同意を求めたのかどうかも曖昧な、そんなひと言。
「ってか、あとHRだけだわな」
裕紀が返したのはごく普通の、いつもの反応。察しの良い裕紀は岩附の言葉の意図を理解こそしつつ、しかし努めて平静な対応しか出来なかった。
「んあ~っ今日も部活かぁ~!」
続けて「面倒くさい」と口にし、ガシガシ頭を掻く岩附。そうこうして教室に戻っていくうちに、裕紀が感じた″おかしさ″については、結局うやむやになっていった。
・・・・・・机から床に落ちただけの消しゴム。
それが、一体どう″バウンド″したら″黒板脇のゴミ箱の中″に着地するというのか。おまけに、まだ真新しいカバーケースの消しゴムの頭がほとんど千切れかけるような使い方を、この几帳面な友人がするだろうか。
あの場での違和を思いつつ、しかし何も言わなかった裕紀。いつものように笑うだけで、岩附もまた同様に。
二人ともその答えを薄々知りつつ、しかし何をどうすることも出来なかった。