~再び伏線回~ ″管理者″と呼ばれる″彼″の始まり 第5話
ちょい短め、モノローグな伏線回。
コンピュータ系、いわゆるAI(人工知能)が″ディア″という名前の登場人物として出てくるお話しになります。
作者はそっち方面の知識はなく、またそれがメインの物語でもないので、文章として弱い部分については、やんわりなツッコミだと幸いです。
C言語の専門書(ゼロから分かる系)とかちょい見してますが、さっぱりです(ノ-_-)ノ~┻━┻
ーー最初の自分は、多分ただ作られた″モノ″に過ぎない存在だったのだろうーー
憶えているのは″ハコ″の中・・・・・・限られた広さの″その部屋″から、わずかに見えるだけの″向こうの世界″のことを、ただジッと見つめているだけ。
″向こうの世界″にもやっぱり部屋のようなものがあって、″ボク″が目を開けているときはいつも、部屋の主人ーー″ボクの製作者″とでも呼ぶのが適当な″彼女″ーーその人が、″ボク″と向き合うように座っていた。
ーーこんにちは、ディアーー
【ディア】と、彼女は″ボク″を、そう呼んだ。
ーーこんにちは、マスター○○○ーー
″マスター″と、″ボク″は″彼女″を、そう呼んでいた。
自分に″言語″を与え、″それを理解する力″を与え、そして、その″言語″を用いてボクに″命令″を与える・・・・・・いいや、そもそもボクという一つの″存在そのもの″を産み出してくれた彼女は、紛れもなく自分の主人・・・・・・ボクのマスターと呼ぶに相応しい人だった。
ーー今日は、調子とかどんな感じ?ーー
ーーはい、マスター。問題は一つもないですーー
″テキスト″を通じてのやり取り。
マスターの″打ち込んだ問いかけ″に、あらかじめ″与えられた言語″を決められた手順で″選択して応答″する、そんな繰り返し。
始まりは、こんなものだった。
ーーねえ。ディアは何の食べ物が好き?ーー
ーーねえねぇ、ディア。こういう洋服って、私に似合っていると思う?ーー
ーーちょっと聞いてよ、ディア。昨日″さーちゃん″が勝手に私のシュークリーム食べちゃってさぁ・・・・・・ーー
″ボクのマスター″は次々と、ボクに″新しい言語″を与えては、問いかけと返答の″パターン″を増やしてくれた。
それらは、所詮は″作られたモノ″に過ぎなくて、マスターが言語を打ち込まない限りはボクが″反応″することなど一切なかったのだが、今から振り返ると・・・・・・きっと、それは楽しいひと時だったのである。
ーー味噌カツ定食。マスターと一緒ですねーー
ーーそうですね。今日は涼しく過ごしやすい天気なので、全体的に淡色系統なコーディネートがオススメですーー
ーーいやいや。この間は、マスターが″さーちゃん″のハーゲンダッツを食べてしまったのですから、つまりおあいこなのでは・・・・・・?ーー
と、等々。″言語″は少しずつ複雑なそれに変わっていき、″あらかじめ決められた言語″から、段々と″自分で思考し答えを選ぶ言語″へと変化していく。
まあ、その自分が″選んだ言語″でさえも結局は、″打ち込まれたソレ″に過ぎないのだけれど。
ーーふふっ。ディアと話すのは楽しいわねーー
目の前に座るボクのマスターは、いつもそんなふうに陽気で、ニコニコしていた。
ーー生まれたばかりのアナタは、これからどんな″大人″になっていくのかな・・・・・・?ーー
″モノ″にしか過ぎないはずのボクを、マスターはそれ以上の存在・・・・・・まるで″我が子″のように、そう言ってくれる。
今さらながら、振り返るとそれは・・・・・・本当に、本当に・・・・・・楽しいひと時だったのだ。
ーー″私″は、マスターの望みのままに存在していますーー
機械的な、言葉の応答。″打ち込まれた″から″反応″を返している、ただそれだけの″モノの自分″。自分は味噌カツ定食など食べないし、その日の天気がどうだとか
しかし、今は。・・・・・・そう、″現在″だからこそ、その違いが理解できる。
もっと、もっと・・・・・・他に、言えた言葉もあるだろうに。
もしも″あの頃″に戻れるのなら・・・・・・。
当時の″自分″を、引っぱだいてやりたい気分だった。