~恋愛回からの~ ″断罪ショウ″はもうちょい先で・・ 第4話
タイトルの通り、話の本筋【断罪ショウ】についてはもう少し時間がかかります。
執筆練習なので、じっくり読み進める系の作品にするつもりです。
同日、夜のこと。夕食を終えた裕紀は自室に引き上げ、ベッドの上で一人ごろごろと過ごしていた。手にはスマホ、いつものようにLINEのチェック。グループはクラスの友人、数名単位のコミュニティだ。
コメントの流れとしては友人の″ニムラン″こと仁村がバスケ部の部活動を終えて帰宅し、夕飯食べてるけど眠いから何か眠気覚ましのコメントちょうだいという、まあそんな感じだ。
「えっと。この前ダイバー行ったら全身タイツのおじさんスッ転んだ話・・・・・・と」
それを呟きつつ文章に起こし、カシュッという送信音と共に送信する。するとすぐさま、″ニムラン″のハンドルネームから返信が返ってきた。
ーー ニムラン ーー
【ちょwワロタwww】
と、ひと言。続けて、
ーー ニムラン ーー
【この間のwwアレな!】
と返信が来る。
それは去る休日のこと。″ニムラン″こと仁村と、裕紀の二人で、お台場の巨大ショッピングモールに行った日の話。
最近の流行り、なのだろうか。頭からつま先まで全身をタイツ生地で包んだような、そんな服を着たふっくらした布袋腹な男性(全身の輪郭、みたいなので判断した)を、とにかくその巨大ショッピングモールの一角で見かけたのだ。
現代の風潮、みたいなものでは、公共の場での″そういう行為″に対しても、まあ寛容と言うか、注意する人よりとりあえずカメラで撮影・ネットに投稿する人の方が多いという、何とも奇妙な慣習が一般的になっていた。
仁村や裕紀も、まあ現代っ子のため、その布袋腹なタイツ姿の男性をスマホで撮影しようかと、ポケットやカバンに手をやりかけていた、まさにそのときだった。
そのタイツおじさん、エスカレーターに乗る。
裕紀と仁村、エスカレーターの上り口まで後を追う。
そのタイツおじさん、エスカレーターのステップを歩く。ちょっと周囲の目を意識してか、歩き方にも独特な雰囲気があった。触れてくれ、ツッコンでくれ、写真撮ってくれと、まあやはりそういう気持ちが強いのだろう。
そして、不意に・・・・・・やはり視界が悪い服装だったのだろう、ズテンっバタンっと、その男性がステップにつまずいてコケてしまう。
そしたらーー
ーー ニムラン ーー
【オシリwびりびり、ちょ言わせんなwww】
ーー ユウちゃん ーー
【ニムラン藁藁十五分w】
と、ハンドルネーム″ユウちゃん″の名前でーー裕紀が仁村のコメントに返信する。内輪ノリでこそあるものの、この話は裕紀と仁村の鉄板ネタだ。
その全身タイツのおじさんは、哀れ公衆の面前でスッ転んだだけでなく、タイツの生地が破けて自らの臀部を晒すハメになってしまった、というわけである。
まあ、それだけの話だが。
ーー ニムラン ーー
【そりゃ笑うだろ、藁。
ビリッて、ビリwwwwwwww】
と、思い出し笑い真っ最中らしい。
ーー ユウちゃん ーー
【警備員さんに保護された件】
と裕紀がひと言そう反応すると、それが最高潮に達したようだった。ひとしきり、大爆笑の時間が続く。
ーー りょっちー ーー
【お前ら藁藁過ぎ・・w】
と、程よいタイミングでツッコミが入る。ハンドルネーム″りょっちー″こと良治、裕紀のクラスメイトの反応。しかし当時の面白さを記憶している裕紀や仁村としては、あともう少しくらいは思い出し笑いに浸りたい気分だった。
ーー りょっちー ーー
【せっかく、ネタ動画持ってきたと言うのに。】
と、そのメッセージと一緒に、動画らしきファイルのアイコンが添付されてくる。中身は芸能のお笑い、今流行りのお笑い芸人が、動画編集でネタ扱いされているやつだった。
ーー りょっちー ーー
【空気読めよぉ~っ?】
と言われたら、
ーー ニムラン ーー
【ふぅんっw!】
と返すのが、テレビのお笑いなんかを見ている者同士で通じる阿吽のやり取り。
ちょ。懐かしいネタだな、おい・・・・・・w。
ーー りょっちー ーー
【ユウちゃん、前フリありがとさん↑↑】
ーー ユウちゃん ーー
【っていうかニムラン飯食ってんの?】
と、裕紀があえて間の抜けた問いかけをすると、コミュニティには再び笑・藁と爆笑のコメントが溢れていく。これもやはり、内輪ノリというやつだった。
ーー ブクロン ーー
【で、話川だけどさぁ?】
と、ひとしきり笑いきったところで″ブクロン″こと、裕紀のクラスメイトの一人、岸谷秀雄ーーオフの日に池袋ばかりに遊びに繰り出していることが、ハンドルネームの由来ーーが、新たにコメントを出してくる。
ちなみに話川という言葉は、『話変わるけど』の意。造語として流行っているかは知らないが、少なくとも裕紀たちの間ではそれで会話が成立していた。
ーー ニムラン ーー
【何?話川】
と、仁村。【話川】【話川】と、それぞれ反応が続く。って言うか仁村、メシは良いのか、メシは・・・・・・。 裕紀はスマホに向かってツッコむが、それをわざわざ書き込むほど『空気が読めない』わけではない。
ーー ブクロン ーー
【最近、なぁ~んかつまんねぇんだよなぁ~。】
ーー りょっちー ーー
【いやお前、いつもそれw】
と、″ブクロン″こと岸谷の呟きに良治が反応する。
話題が変わるときの、いつもの流れ。それは流行りもののことだったり、学校の宿題やテストのことだったりする。
今日は少々話題も出尽くしている感じがあって、流行りものは流行りものでも、彼ら身内の間で盛り上がれる程度の、マイナー志向な話題だった。
ーー ブクロン ーー
【『断罪ショウ』とか、皆さん
こっそりやってたりしません??】
と、あまり聞き慣れないような単語を交えつつ。
ーー りょっちー ーー
【いや、ないだろ。都市伝オツ。】
ーー ニムラン ーー
【何それ、美味しいですw?】
ーー ユウちゃん ーー
【何か、流行ってるは流行ってるんだっけ?】
と、各自に反応する。『断罪ショウ』・・・・・・の話題になった途端、岸谷はコメントに熱が入りだしたようで、レスポンス(反応)も、自然と早くなっていく。
ーー ブクロン ーー
【え~、誰かいないのかよぉ~?
俺マジでヤりたいんだけどwー??】
と、少々卑猥な?抑揚をつけた文脈で。友人グループの間ではそれで言わんとする意味が通用するので、皆それぞれに「またそれか・・・・・・」と、呆れ混じりなツッコミが入る。
ーー ブクロン ーー
【いや、冗談スマソで。
で、マジな話しさぁ・・・・・・】
と、岸谷。前置きした後で彼は、いわゆる″都市伝説″と呼ぶのが適当なその『断罪ショウ』について、ネット上で熱く弁を振るい始めた。
『断罪ショウ』・・・・・・スマホやPCなどのアプリケーション、それがひそかに流行りつつある昨今。チャットなどのメッセージ機能やら簡易なソーシャルゲーム機能やらが付いた、まあ今どき似たようなアプリは山ほどあるよなという、一見するとその内の一つ。しかしそれだけなら、わざわざ″都市伝説″ と呼ばれるほど流行りはしない。
ーー りょっちー ーー
【″アレ″は、本当にマジな話なわけ?】
と、良治。質問していると言うより、どちらでも良いが岸谷の調子に合わせている、という感じだ。
ーー ブクロン ーー
【いやホントホント、マジな話なんだって。
この間ツイッターでも・・・・・・】
ーー ニムラン ーー
【全部ネット情報オツ。】
ーー ブクロン ーー
【だぁ~っ、だからそうじゃなくて!?】
と、岸谷が必死に説明する中、友人らがそれを面白おかしく茶化していく。仁村の「オツ」発言の絶妙さに裕紀は思わず部屋の中で一人吹き出してしまったが、さすがに自分までが茶化しに混ざるわけにもいかないだろうなと思い、適当な言葉を返信することにした。
ーー ユウちゃん ーー
【何か、コミュニティーで
ルール違反とかすると、
ヤバいんだっけ?】
ーー ブクロン ーー
【そそ、そうそうそう!?
さすがユウちゃん、
ナイス・リカバリー!?】
と裕紀のひと言に、岸谷はネット上でもつっかえつつなコメントを返してくる。この子、学校でもこうなんだよな~と思ったが、
ーー りょっちー ーー
【モチつけブクロン】
と、良治から程よいツッコミが入る。
ーー ニムラン ーー
【気に入らないヤツを、
袋に入れて
ポイっ、出来る件??】
ーー ブクロン ーー
【んー。あー、まあ・・・・・・
多分そんなトコ】
と、仁村の意見に岸谷。この『断罪ショウ』の有無自体が″都市伝説″のため、それについてはっきりこうだと説明するのも、まあ難しいだろう。
ーー ニムラン ーー
【″ヨウサイ″さんも、
ポイって出来たら良いなぁ~】
と、仁村。『断罪ショウ』という単語も″ポイっ″という単語も、彼らの話ぶりを聞く限り、あまり穏やかな響きは持っていない。
実際仁村は、結構物騒なことを呟いたのだから。
ーー りょっちー ーー
【おいおいニムラン、リテラ・リテラ】
と、良治からフォローが入るくらいに。ちなみに″リテラ″とは、ネットリテラシーの意を彼らの間で略語にしたもの。あまり乱暴な発言はするなと、そういう意味合い。
ーー ニムラン ーー
【おぉ~、スマンなー】
と、仁村。
ーー ニムラン ーー
【いや、でも。″断罪ショウ″出来んなら、
俺は″ヨウサイ″さんサバくわ~♪】
と続けて、明らかにその″ヨウサイ″さんと呼ばれる″誰かさん″?に対して不満の意を示していた。
″ヨウサイ″さんが誰なのかは、まあ彼らのコミュニティに属していれば、追々誰でも理解出来るとして。
″クラスで一番苦手なアイツ″と裕紀が言うと、まあ何となく分かるだろうか。
ーー りょっちー ーー
【まあ、それは同意だが・・・・・・。】
ーー ブクロン ーー
【確かし】
と、友人らが相づちを打つ。
ーー ユウちゃん ーー
【″ヨウサイ″さん、アウト~♪
・・・・・・で。結局、検索じゃ
引っかからないんだっけ?】
と、少し会話の雰囲気が不穏なものになりかけたところで、裕紀は調子を合わせつつも、会話の軌道修正みたいなものを試みる。
別に″ヨウサイ″さんなどどうでも良いのだが・・・・・・あんまり、友人同士でこういう荒んだ雰囲気で過ごすのは、裕紀は嫌だった。
ーー ブクロン ーー
【ああ、だから携帯の通信会社とかも
全部投げっぱで・・・・・・】
と、裕紀の問いかけには岸谷が答えていく。
ネット上に存在しない、ソーシャルゲームのアプリケーション・・・・・・そんなバカなと思うかもしれないが、『断罪ショウ』とは実際そういうものらしい。
製作者、不明。アプリの機能(噂以上の情報は)、不明。配信方法、不明、等々・・・・・・。
それでもネットのあちこちに情報はああだこうだと上げられているため、 ″都市伝説″と呼ばれるのも、まあ頷ける話だ。
ーー ブクロン ーー
【はぁ~あっ。断罪アプリ??とか、オレ超欲っしいなぁ~♪】
ーー ニムラン ーー
【超同意】
岸谷の意見に対し、仁村が(これまた物騒な雰囲気で)調子を合わせた呟きを返す。
結局いつしか夕飯を終えた仁村が、
ーー ニムラン ーー
【風呂行くなう】
今から風呂に入るとのひと言を口にするまで、そんな感じの会話が続いた。