~主人公・日常回からの~やっぱり日常?・恋愛回?? 第3話
恋愛と言うか、女子生徒キャラの紹介回?みたいな扱いです。
あと、この手の文章は作者のリアルにおける恋愛経験の差が出ると聞きますが・・・・あ、じゃあ周回遅れだわw
同日、午後のこと。
六限目の社会科・日本史の授業が終わり、二年A組の教室からは「ふぅっ・・・・・・」という生徒たちのため息が漏れる。帰りのホームルームが終われば、今日もようやく学校の拘束が解けるのだ。
「つぅ~かぁ~れぇ~たぁ~ユぅ~ウぅ~キぃ~っ!!」
と、日本史のテキストに最後の解答を書き込み「ふぅっ・・・・・・」とため息をついた裕紀の右隣、良治がぐでーっと手足を投げ出し背中を伸ばして、トントンと片手でこちらにちょっかいを出してくる。
「帰り、松屋でかっ込まねぇー?」
と、牛丼屋でメシを食べようという意の言葉を続けた。中学生の乏しい財布事情ながらも(昼は学食・購買・自宅から弁当と自分で選べる。裕紀は母親の弁当持参が主)、小遣いに余裕がある日はたまにそうしているが、今日の裕紀は否定の返事をした。
「今日はちょっとな・・・・・・」
断る日の返事はだいたい理由も同じなので、良治もすぐにそれを察した。
「あーはいはい、図書室なー。っていうか本って何、美味しいの?」
「いやまあ・・・・・・お腹は空くけどさぁ」
空腹で多少テンションが変になっている良治の茶々入れに苦笑しつつ、「終わったら一緒に行く?」と提案するも「お前の図書巡りに付き合ってたら空腹で死ぬわ!」と、余計に噛みつかれてしまった。
「また今度な」
裕紀がそう言うと、「んん・・・・・・っ」とうなりつつも良治は頷いた。
ホームルームが終わり、放課後を迎える。「起立」と「礼」が終わらないうちに、裕紀の隣で良治がカバンをがちゃりと携え上げて「じゃあな」とうなって、さっさと教室を出ていってしまった。
よっぽど、お腹が空いていたのだろう。本来なら自分が最初に教室を後にするはずの担任、平野先生が少し呆気に取られている光景を見て、裕紀を始め何名かのクラスメイトが忍び笑いをする。「また明日なー」と言おうと思ったのだが、まあ後でLINEするんだしと、友人の後ろ姿を見送った。
「″ユウちゃん″、英語サンキューな~!」
帰り支度のさなか、向こうから仁村が声をかけてくる。
「フッ、最後の問題は・・・・・・?」
と、少し芝居がかった調子で言う。すると仁村も裕紀の言いたい意図を察したようで、ニッと笑って、
「フッ、無論大したことなかったな」
と、遊び心満載な(″中二病″だが気にしない)答えを返し、「じゃ。部活行ってくるわ」と、教室を後にしていった。
「頑張れよー、″ニムラン″」
裕紀が声をかけると、″ニムラン″--仁村のあだ名。「ゲームのキャラクターみたいで、そういうのカッコいい!」なノリ、それが由来--は手を上げつつ「おぅー」と返事し、普通の学校指定のカバンと、部活用の肩掛けカバン--赤を基調色に黒色のロゴやコーティングが施されたエナメル質のヤツ--を携え、廊下へと出ていった。
○○○○○○○○○○
ひとしきり友人らを見送った裕紀は、教科書などカバンに詰め帰り支度を終え、一人教室を出る。ひと気もまばらになった廊下を行きつつ、二学年の教室の階層の三階から、二階へ--三学年の階層。一学年の階層は四階、年下が上階にクラスを構える配置で、理科室やら音楽室など、特別教室は各階にバラけて配置されている感じ--そんな校舎の階段をさらに下りていき、職員室やら保健室などある一階へと、下りていく。
一階の右手--下足入れやら職員室やら、生徒たちで賑わう側--ではなく、左手--保健室やら応接室、会議室などあるひっそりした側--図書室もあるそちらへと、裕紀は歩みを進めていった。
さす、さすと、上履きの底を少しこすらせながら、自分の他に誰もいない静かな廊下を歩く。
さすさす。
今この瞬間、図書室を目指して歩いているのは自分だけ。それは、特に思春期の自分には少々たまらない優越感のようなものを抱かせてくれて、この何気ないささやかな瞬間が、裕紀は気に入っている。
廊下を行くと間もなく図書室の辺りに辿り着き、その鉄製の扉をガラガラっと横開きに開く。
誰もいない。私立校の図書室というのもあってか、普段は外部から司書の方が数人、交替で受付けに座っている。誰もいない時間帯というのが日によってあって、裕紀的にはその方がありがたい。
別に、図書室に来たからって、″必ず本を借りなくたって″良いじゃないか・・・・・・。
ふと、その図書室を管理する司書の一人(裕紀はその一人が、かなり苦手)に、「借りるのか借りないのかはっきりしてくれ」と言われたことを思い出し、部屋に誰もいないという事実に心からホッとする。ゆったりした動作で、裕紀は図書室へと入っていく。
図書室の良いところ・・・・・・どこか外の世界に対しひとつクッションの置かれたような、静ひつな空気。
同じ学校内でも、教室や廊下では、こんな静かな状況はまず作れない。よく耳を澄ませてみると、遠いところから運動部のかけ声みたいなのは聞こえてくるのだが、それ以上うるさくは聞こえてこないので、裕紀的にはそれも一興だった。
「さて、と・・・・・・」
その静ひつな雰囲気にひとしきり浸り、ゆるりと図書室を歩き巡っていく。もちろん、目当ての本はある程度決めてあるのだが、最初は無目的に、ただ本棚の前を歩き回る。
純文学・・・・・・娯楽文学・・・・・・歴史文学・・・・・・と、コーナーごとに見て回る。近頃の流行りというか何と言うか、挿し絵付きのライトノベルなんかも、学校で普通に取り扱っていた。
裕紀は、まぁ読める本が増えるならありがたいので、どちらかと言えば賛成派だ。
ライトノベル、普通に好きだし。
さて。しばらく無目的に無為的な--裕紀にとってはそれが図書巡り--時間を過ごし、この雰囲気をいつものように満喫する。
そろそろ司書の職員も来るだろうと、目当ての本のコーナーに歩みを向けかけた。
ガラガラガラッ、と。
図書室の扉の開く音。司書の人が来たと思って顔を上げた裕紀が見たのは、しかし違う人の姿だった。
裕紀と同じ紺色ブレザーに--ただボタンの配置やら装飾やら、微妙に違う--リボン結びのネクタイをした--裕紀は普通のネクタイ--女子生徒が一人、面食らったような様子でこちらを見つめていた。
「あ、えと・・・・・・」
「小林君?」
少し口ごもった裕紀に対して、その女子生徒はすぐに気を取り直しそう言う。声をかけられた方の裕紀は「あ、うん・・・・・・」と繕いつつ、あらためてその女子生徒に返事を返した。
「藤村さん」
と、その女子生徒の名前を口にする。藤村真姫。級友。裕紀のクラスメイト。会話は、挨拶や一般会話程度は交わす。まあ、そんな感じの間柄。
藤村と呼ばれたその彼女はこくりと軽く頷き、裕紀の側を通って図書室の受付カウンターへと歩み寄っていく。筆立てからボールペンを取り出し、段構えなプラスチック製のトレーから図書返却用紙を引き取り、本を返すため記入を始めた。
「ああ・・・・・・」
ふと何となく、その様子を横から見やり、彼女、藤村の手元に置かれた一冊の本に注目し、思わず独り言を漏らす。
『ドストエフスキー』著作:『罪と罰』
言わずと知れた名作。中学生が読むのには少しハードルが高い気もするが、かく言う裕紀も既に読破しているし、そもそも他人の読書遍歴についてあれこれ言うのは野暮というものだろう。
「まあ、暇つぶしにね」
そんな裕紀の独り言を会話の切り口と捉えたのだろうか、その女子生徒、藤村は平淡な口調で言葉を返してくる。
それが不意打ち気味に聞こえた裕紀の方はちょっと面食らいつつも「あ、そっか~」と、相づちを返す。「面白かった?」と、続けて聞いた。
「ん。まあ、面白かったかって聞かれても・・・・・・」
そう彼女に言われてから、裕紀は野暮な問いかけをしたなと自省する。
『罪と罰』は、その題名が指すように重厚なテーマ、裕紀の受け取り方としては『悪いことをした人間の葛藤や行く末』を扱っており、単純に「面白かったか?」と聞かれるのは、なるほど、確かに困る。
「ごめん、聞き方が・・・・・・。だから、えっと・・・・・・」
と裕紀は二の句を探し、あたふたしてしまう。
「まあ、最後までは読めたかな」
そんな裕紀の様子にはあまり関心も払わず、返却用紙に書き込みしつつ、藤村はやはり淡々とした返答をする。
「あ、うん。なら良かった・・・・・・かな?」
自分でも要領を得ない返答だと思いつつ、やはり裕紀はあたふたしながら頷く。
うーん、やっぱり女子と会話するのは苦手だな。
「ほら、何だっけ?ラス、ラス・・・・・・ラスニ、コフ?だっけ、あの主人公は?」
と、裕紀が少々気まずく思っていると藤村の方から会話を継続してくれたので、ありがたくそれに乗ることが出来た。
「ラスコーリニコフ?」
と、『罪と罰』の主人公の名前を口にする。「そう、それ」と、藤村。そう言われれば思い出した、という調子で、
「私、ああいう人は好きじゃないのよねー」
と、僭越ながら読書家の裕紀にとって、なかなか気になるひと言を続けてきた。
「あー。やっぱり、ダークヒーロー系は賛否分かれるかな・・・・・・?」
裕紀が言うと、藤村は用紙に記入をしつつも少し怪訝とした表情になって、
「ヒーロー、なの?その、ラスコーリ?ニコフって」
と、聞き返してくる。
「あー、ほら。何て言うか・・・・・・?」
聞き返されて、裕紀は返答に詰まる。
あー、そうか。普通はそう考えるよな。でもほら、序盤の金貸しの女とかすごい性格悪かったし、 それに罪を負ったラスコーリニコフを追い詰める判事の男も、確かに正しいんだけど、裕紀は藤村とは真逆に、その判事の男こそ好きになれなかった。確かに、判事の男は正しい。正しいんだけどさあ・・・・・・。
「まあ何て言うか・・・・・・」
上手く返せない裕紀のことを、ふと気づくと用紙に記入を終えたのだろう、藤村がじっと見つめていた。
「小林君ってさあ」
と、それまでの淡白な様子から、少し興味をひかれたような、そんな表情で。不意に見つめられるものだから、特に女子との会話に慣れてない裕紀はさすがにどぎまぎしてしまった。
「えっ・・・・・・?」
一体何を言われるものかと、裕紀にとって″第二のホーム″とも言うべき図書室だというのに、内心緊張し、少し身構えてしまう。しかし次に藤村から言われたのは、言葉そのものは大したことないものだった。
「結構、変わってるよね」
「えっ、あ・・・・・・」
言われたことに拍子抜けし、しかし予想よりはヒドくなかったなと、裕紀はホッとする。キモいとか、読書オタクとか、てっきりそういう系統の言葉でも言われるのかと思ってしまったのだ。
まあ、思ってても普通は本人には言わないか・・・・・・と、あまり慰めにならない思考もしてしまう。こういう基本がネガティブな性格が自分の悪い点だろうなと、裕紀は自覚していた。
と、そのときちょうど、裕紀の後ろで図書室の扉が再びガラガラガラッと開いた。
「あー、ごめんねぇ。お待たせしましたぁ~!」
どやどやと、急に図書室が騒がしくなる。気の良さそうな雰囲気をした、丸眼鏡をかけた中年のおばさんがこちらに小走りに駆け寄ってきて、いそいそ図書室の受付カウンターに入り込んでいく。
「はい、図書の返却ねー。じゃあ用紙と・・・・・・あ、もう書いてあるわねー。じゃあ、利用者カードを・・・・・・」
そんな様子を尻目にしつつ、裕紀は藤村の側を離れて、自分が借りる本を取りに行った。最近は、中国の歴史小説『三国志』に凝っている。小学生時代は漫画の方を読み、少しずつ物語の概容を知り、中学からは小説の方も読んでみようかな、と。まあ、一番ハマった理由は現代っ子らしいもので、有名な某歴史のシミュレーションゲーム経由だったりするんだけど。
「じゃあね、小林君」
その『三国志』の冊子(一度に二、三冊借りるのが裕紀の基本。もう三回くらいは全巻読破していたが、それも一興)を持って受付に行くと、返却を終えた藤村がひと声かけて、図書室を出るところだった。
「あ、うん。また明日・・・・・・?」
「また明日」
同級生がする典型的な挨拶を交わし、藤村は図書室を後にしていった。
見送ってから、振り返って受付カウンターに『三国志』の本を差し出す。司書のおばさんは、「いつもどうもね」と言って、既に貸し出し用紙とボールペンを用意してくれていた。
司書の職員は裕紀の知る限り三人いて、このおばさんは″しっかりしている人″である。
あとの二人は・・・・・・少なくとも裕紀は苦手だ。一人には「借りるのか借りないのか--」と嫌味を言われているし、もう一人は・・・・・・″彼女″のことは、″色々な意味で″とっても苦手だ。
まあ、そんなこんなが小林裕紀の一日の基本なのである。
えー、後書きです。恋愛回とか言いましたが、あまりそうはなってませんよね・・。ちなみに、相手は″司書のおばちゃん″じゃありませんよw?
ん、つまらんw冗談はさておき、特に仲が良いわけでもない″普通のクラスメイト″ってこんな感じだったかなと、作者(成人男性)の学生時代を振り返りつつフィクションした感じです。はい、作者の恋愛経験は年齢・イコール・ゼロ、何のリアリティーもありませんので、そこは突っ込まずに見て頂ければ幸いです(´・ω・`)
あと、ドストエフスキー著作:『罪と罰』を引き合いに出しましたが、特に運営さんにおかれましては、著作権に引っかかってる場合(そういう表現も含めて)は、ご指摘お願いしますm(_ _)m
主人公は読書趣味の子なので、今後もいくつか現在実在する書籍のことを引き合いに出す展開になるかと思います。
地名や店名、商品名などについても、添削必要な場合はご指摘お願いしますm(_ _)m
以上、次に続きます。