剣谷 桐 11歳、4月の話。(3)
月曜日。結と和解した日から一週間が過ぎた。あれから、結は以前よりも少しずつ喋るようになった。良い事だと思う。
近くにいるからと言って危害を加えたり、恨みを買うような事をするつもりはないが、私からは近寄る理由も無いので、必要以上には近寄らないようにしている…つもりなんだけど。結は私の側に居る事が多い。
あれか、実は結も頭をぶつけた時あたりに前世の記憶を思い出し、私に復讐しようとする機会を探す為いつも側に? いやいや、そんな漫画や小説みたいな話はないでしょ。あー、それにしても―……
(今日も一日、ほぼ結と一緒に行動してたなー…)
今日の五時間目はホームルームの時間になった。内容は来月(五月)の遠足についてと、その班を決める事。
とても今更な話だが、結とは五年生になった今年も同じクラスだ。ニ年毎にしかクラス替えはないので、来年も持ち上がり。なので四年間同じクラスという事になる。さて、話を戻そう。
五年生は学校から車で、渋滞に巻き込まれなければ四十分位と、割りと近くにある遊園地に行く事になっている。園内では班別の自由行動となるので、その園内で一緒に行動をする班を決める。ちなみに一班につき、男子ニ、三名と女子二、三名の合計四から六人の班を作らなければならない。
「んーじゃ、サクサク決めろよー。決まったら俺のところに来て、班の人数と班員の名前記入してくれー。この時間内で決まらないやつらは、俺が適当に組ませるからなー。あと、時間内で決まった奴らはチャイム鳴ったら帰っていいぞー」
今年の担任は若い男の先生なんだけど『班決めはお前らに任せる』と言い切った。多分、クジとか作るの面倒くさかったんだろうなと思う。何故なら決まらない人は適当に組ませると言っている位だし。
それぞれ席を立ち、友達やら一緒の班になりたい人の席に向かい始めるクラスの面々。私は最初に七海ちゃんを誘った。
七海ちゃんからも『私も桐ちゃんに声かけようと思ってたんだ〜』と言って貰い、嬉しくてニマニマしていたところへ(いや、だって七海ちゃんって、ちっちゃくて小動物みたいで可愛いんだよ! まあ…趣味の話になると時々怖いけど)“山やん”こと、山崎 康太が“川っち”こと、川嶋 夕夜と一緒にやってきて、一緒に班組もうぜー! と、言ってきた。
山やんと、川っちは小さい頃から一緒に遊ぶ事の多い友達の二人だ。私は七海ちゃんにも聞いて『いいよ〜』とオッケーを貰ったので、山やん達と班を組む事にした。
そう言えば、結はどうしただろう? ふと気になり、結を探してみると、結は今年同じクラスになった女の子ニ人に声を掛けられていた。(結、見た目可愛いからなー)その子達と組むのかな? と思い、ぼけーっと見ていたら七海ちゃんに『どうかした? 桐ちゃん』と声を掛けられ、笑って『何でもないよ』と返した。
「じゃあ、このメンバーで決定って事でいいかな? 俺、先生の所に行ってくるよ」
「おお、川っち頼りになるね! ありがとう」
「サンキュー、川っち!」
「ありがとう、川嶋君」
丁度男女4人で班も決まったところで、班を代表して先生に報告に行こうとした川っちに――…
「あの…僕も、一緒の班に入れて…くれない、かな?」
結が声を掛けてきた。
「えっ、結!?」
驚きの声を上げたのは私だ。あれ!? さっき、女の子達に声掛けられてなかった!?
「俺は別に構わないよ。みんなは?」
「私も、いいよ〜、山崎くんは?」
「俺もいいぜ!」
「…ありがとう。それじゃ、よろしく…ね」
あれ? 私が慌ててる内に決定してるよ? いや、まあ…ここで断るのも酷い気がするし、別に二人きりで行動しろって訳でもないからね。
「それじゃ、葛西も入れた五人って事で先生に報告して来るよ」
川っちが報告に行ってくれる際、丁度チャイムが鳴ったので、お礼を言ってからそれぞれ、自分の席で帰り支度を始めた。
「ん? 結、どうかした?」
「きりは、僕が一緒の班なのは…嫌?」
結が私の席までやってきた。さっき、私の返事が無かったからか、上目遣い(私の方が身長高いからなぁ…)に不安そうな声で問い掛けてきた。
「嫌じゃないよ」
「そっか…よかった。きり、よろしく…ね?」
「うん、よろしくね、結」
正直に言おう。“結”の事は嫌じゃない。そう…嫌じゃないから困るんだよ。ああもう! 必要以上には近づかないつもりなのに、そんな風(嬉しそう)に笑わないでくれないかな! 可愛くて抱き締めたくなるんですけどー! あれだね…前世で王子を落としたのは伊達じゃないな、結!
あれ? そう言えば、前世で結は女の子だったけど、今は男の子だ。
“彼”つまり、王子は今どうなってるんだろう?
もし、王子の記憶を持つ人も居たとして。その人が結と出会っても男同士だったらヤバいんじゃ…いやいや! 王子の記憶がある人も居るとは限らない。しかも、また二人が恋仲になるとは限らない。(案外、女の子に生まれ変わってたりしてー!)
「はは。まさか、ねー!」
「ん…?」
どうかした? と言いたげな視線を向けてきた結に『んーん、何でもない。結ももう帰るなら一緒に帰る?』と尋ねると、『うん』と返事をした、結は自分の席にランドセルを取りに行ったのだった。
次回は結サイドの話を一度入れる予定です。