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剣谷 桐 11歳、4月の話。


 「結っ! いえ、葛西くん! 今まで、嫌な事をしてごめんなさい!! ほんっとうに、ごめんなさい!! それから、この前は助けてくれてありがとうございましたっ!!」


 数日後。念の為にと両親に言われ、すぐに病院で検査を受け、異常はなかったものの学校を休んでいた私だったが、ようやく登校できる事になった今日。

 結が家から出てくるのを待ち、結が葛西邸の大きな門から出てきた時に開口一番、大きく頭を下げて謝罪した。その時、うっかりしてきちんと閉めていなかったランドセルが開いてバサバサバサーと教科書やらノートやらが飛び出すというお約束な事をやらかしたが、そんな事はどうでもいい――…いや、後で拾うけどね。


 少しばかり普段のぼんやり顔から驚きを見せた結は、私の教科書とノート類を拾おうと、しゃがみ込んだ。それに気づいた私は『大丈夫! 自分で拾うから!』と慌ててそれらを回収した。


 「…急に、どうした、の…?」


 拾いそびれていたペンケースを結が拾ってくれて、それを私に差し出しながら問い掛ける。


 「えっと…」


 言えないよね、普通。『いやー、私この前から、前世の記憶を思い出してるみたいでさー! しかも、どうやら前世でも結の事をいじめていたみたいなんだよねー! このままじゃ、絶対良くない展開になる気がするんだよねー!』なんて。うん…言えないな。それに――…


 「葛西くんに、悪いことをしていたと思ったんだ。…だから、ごめん。本当に、ごめんなさい!」


 もう一度頭を下げた。これは記憶だけのせいでなく、本心だ。


 結は普段、嫌な事を自分にしてくる私を助けてくれたのだ。前世の記憶の影響もあるかもしれないけれど、もう少し大人になりなよ…私。と反省したのだった。


 「葛西くんが許してくれるまで、何度でも謝るし、もう顔も見たくない、近づくなっていうなら近づかないように気をつけるから」

 「やめて」

 「えっ?」

 「それ…葛西くん、て言うの」


 結は持ったままだった私のペンケースを私の手を取り、持たせた。何故かそのまま私の手をギュッと両手で包み込む様に握ったままボソボソと話し続ける。


 「呼び方…結のままで、いい。それに…きりの事…怒ってない、よ。だから…もうあやまらないで。僕は…きりが離れるの、いやだ。離れない…で、居てほしい…」


 そして、そのままペンケースを間に挟んだまま手を繋ぎ見つめ合う(いや、私は予想外の言葉に驚いていただけなんだけどね)形となっていたが、ハッと我に返り――…


 「わ、わかった」


 頷き返した。あれ? 何か凄い事も言われていたような気が…?


 「うん」


 結も頷き、小さく嬉しそうな笑みを浮かべていた。な、何だか珍しい表情を見てしまった…! それから、一緒に学校に向かったのだけど…


 「頭、大丈夫…?」

 「えーと?」


 これは、私をバカだとでも言いたいのだろうか? 確かに成績はあまり良くはないが…。和解したと思ったけどやはり、根に持っているのか? そうなのか? 結。


 「怪我、痛そうだった…」

 「あ、ああ! 擦り傷は小さかったから、もう治ったよ。ぶつけた所は、まだ触ったりすると少し痛いけどもう大丈夫だよ! 結が助けてくれたお陰でこの位で済んだんだよね。本当にありがとう! 結は、おでこ大丈夫?」


 もう何も額に貼っていなかった結の額に、そうっと触れると。結はくすぐったかったのか少し頬を赤くし、下を向いてしまった。


 「…平気、だよ。僕、石頭…なんだ」

 「そっか、良かった」


 と言うような会話をしつつ学校に着いた私達は、途中で会った山やんと川っちと一緒に教室に入った。






 それにしても。つい、勢いで結には頷いちゃったけど、これで良かったのかなー? うーん。

 まあ私も結も“彼”には出会っていないんだし、考えてみれば、いきなり離れるのも変だし、結もその内、私と居るよりも男の子達と遊んだりする方が楽しくなって離れていくよね。それまでは、一緒に居ても良いかな?


 そう、軽く考えていたこの時の私の頭を引っ叩いてやりたい! と思う日が来るのはまだ少し先の事である。

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