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剣谷 桐 9歳と10歳を飛ばした11歳はじめまでの話。

 「…はじめまして、葛西 結…です」


 結は教卓の横に立ち、無表情でボソッと名を名乗った。どこから来たとか、よろしくとか、他にも何か言うのかと思えば、名前を名乗っただけで他には何も言わなかった。


 この時。私は結の事を大人しくて、お人形みたいな子だなー。と思ったのだけど、実際に結は物凄く静かで、あまり感情を表には出してこなかった。


 結と私は席が隣りになった事。それから、家も近所だからという事から『葛西くんの面倒を見てあげてね』と先生に言われ、結と行動を共にするのだけど――…


 「私、友達は大体みんな名前で呼んでるんだけど、葛西くんの事も結って呼んでもいいかな?」

 「………ん」

 「ありがとう! 私の事も桐でいいよ〜! あっ、まだちゃんと自己紹介してなかったよね! 私はー…」

 「…けんたに きり、さん。…伯母さんと…先生にも、聞いたから…」


 伯母さん? …あ。葛西さん家の奥さんの事か!


 「そ、そっか! よろしくね!」

 「………」


 結は返事をしなかったが、一度だけ小さく首を縦に振った。


 それからも、休み時間や昼休み、体育館や音楽室への移動。下校の時にも沢山声を掛けていたけど、結は変わらず無表情、ほぼだんまり状態。


 そんな状態が続けば小学生で、しかも低学年の私は『なんで、結はしゃべらないんだろう?』から『結は私の事がきらいなのかな…私、何かしたのかな?』と、なって。更に月日が過ぎて行くと『ふん! キライでいいもん! 私もキライだもん!』と、なってしまって。


 私は結の事をいじめ始めてしまったのだった――…




 




 とある日の放課後。


 「結! 帰りにみんなと公園に寄るから、公園までランドセル持ってよ!」


 一緒に帰っていた結は、この時。ちょっとだけ驚いた様子を見せたけど、すぐまた無表情に戻り、コクリと頷くと、自分のランドセルは背に背負ったまま、更に私のランドセルを小さな体で抱え、そのまま学校近くの公園までランドセルを運んだ。


 またある時は、給食でキライな人参が入っていた時に、隣の席だった結の皿にササッと入れたりし、先生にそれがバレた時には…


「結が、ちょうだいって言ったんですー!」


 などと言って退けた。


 更にある時は、給食でキライなグリンピースが入っていた。その時、私は隣の席だった結の皿にササッと入れた。またしても先生にそれがバレた時には…


 「結が、ちょうだいって言ったんですー!」


 更にさらにある時には、給食でキライなピーマンが入っていた。勿論私は隣の席だった結の皿にササッと入れた。やっぱり先生にそれがバレた時には―…


 「結が、ちょうだいって言ったんですー!」


 などと言って退けたのだ…が。


 「こらー! 剣谷さん! いい加減にしなさい!」


 …―流石に怒られた事は言うまでもない。


 それにしても嫌いな食べ物多いな、私。そして、先生は生徒の事をよく見ている事がわかった。


 他にも、まあ、何というか小学校低学年がやりそうな嫌がらせを結に仕掛けたのだった。










 そして、時は流れて11歳となった小学5年生の春――…


「っ、わ…!!」


 ガサガササササ…!!


 「…っ、きり!!」

 「わああっ、キリッ!? 葛西っ!? たっ、大変だっ!」

 「先生…っ、先生を呼んでくる!」


 私は学校の校庭の隅にある、葉のない枝ばかりが広がる背はそんなに高くない太い枯木に登っていたのだけど、ちょっとした油断から足を滑らせて落ちてしまった。


 あれ? 珍しく結が大きな声出してるなー、とか、いつも明るい山やんがパニクってるよ、とか、いつも割りと冷静な川っちが焦ってるのも珍しいなー、なんて。ぼんやりと思いつつ…落ちている筈なのに、何だかもの凄くゆっくり景色が流れていたような気がした。


 あ。地面に着く。そう思ったと同時に頭に強い衝撃を感じて、それから―――…







 …―――少しの間、気を失っていたらしい。目が覚めた時には…消毒薬などの匂い? そんな独特の匂いがする、保健室のベッドの上にいた。


 「……あ、れ?」

 「桐ちゃんっ! 目が覚めたのね!? まったく心配ばかりさせて、この子ったら! もう、もう! 暫くお外で遊ぶのは絶対禁止なんだからっ! それに結くんにも、ちゃんとお礼を言うのよ! 落ちてきた桐ちゃんを助けてくれたんだからね! おまけに桐ちゃんが落ちた時に結くんと頭をぶつけちゃってコブまで作らせちゃったのよ!」

 「うん…」


 家に連絡が行ったらしく、ボロ泣きしたママが私の顔をのぞき込んでいて、不意にその隣に視線を向ければ、額に大きな湿布を貼った結が、ほんの少し眉を下げた表情で私を見ていた。

 

 そんな結を私もぼんやり見ていたら、ズキンと。ぶつけてしまったらしい頭が鈍く痛んだ。


 「……ごめんね。ゆい」


 ポツリと出た言葉に結は小さく首を横に振って『…だいじょうぶ、だから』と返してくれた。


 (なんだろ、結を見てると…何かを忘れている気がする――……?)




…―――この時から。木から落ちたせいなのか、結が体を張って助けてくれた時に、彼と頭をぶつけたからかは解らないけど。


 知らない筈なのに懐かしさを感じさせる、スラリとした長身で真っ直ぐ綺麗な藍色の髪を持つ、少し吊り目だけど綺麗な紫の瞳の女の人。

 “キリエ・ソディス”という名の女性が出てくる記憶(まるで、外国の映画を見ているみたいな感覚なんだけど…)が時折、私の頭の中に流れ始めたのだ。

 その人が、もしかしたら自分の前世の姿ではないか? と思ったのは、結の前世だと思う“ユイマ”の事も思い出した数日後の事だった――…。



桐が枯木に登ってた理由などは、結視点で補足予定です。

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