剣谷 桐 8歳の話。
まだ序盤なのにブクマして下さった方、ありがとうございます…!これからも、少しでもお楽しみ頂けるような作品になるよう頑張ります!
剣谷 桐、八歳。小学三年生。黒髪で髪型はベリーショートにしている。『せっかく、ツヤツヤした綺麗な髪なんだから伸ばしましょうよ』とママに言われた事があるけれど、運動の邪魔になるだけなので、髪を伸ばす気は今のところ無い。
目は、やや釣り上がっているせいか、時々『おこってる?』と女の子の友達から聞かれる事があるけれど、そんな事はない。本当に怒っている時。私は睨むよりも先に声を出して怒るから。
まわりの女の子と比べると背が大きく、服もパーカーにジーンズ等の男の子に近い服を着る事が多い。そのせいか、よく男の子に間違えられる事が多かった。
また、兄が居るせいか遊びも、まわりの女の子達がするような、おままごとや人形遊び等にはあまり興味がなく、兄や近所の男の子達に混ざってTVゲームをしたり、学校のグラウンドでサッカー、時に公園でバスケットボールや野球をして遊ぶ事の方が好きだった。
「きゃあああ!やだっ!?桐ちゃんっ、その顔はどうしたの!?お洋服も泥だらけじゃないのっ!」
「えへへっ、今日はみんなと野球やってきたんだー!けど、とーるい?ってのしたら擦りむいちゃった!」
「えへへじゃないわよ!?ああもう!とにかく、お顔を洗って、お洋服も着替えていらっしゃい!ママは消毒を用意して待ってるから!」
この日もまた、いつものように男の子の友達数人と外で遊んできて、顔に擦り傷、服は上下泥だらけで帰った訳だけど、優雅に一人でティータイム中だった基本お嬢様のような母親は、もう手慣れたもので『どうして、こんな風になっちゃったのかしら…』とブツブツ言いながらも消毒薬と絆創膏を片手に、私の傷の手当てをしてくれた。
「ひぃ〜〜っ!? いたたたっ! しみるぅっ!!」
「桐ちゃんが怪我をしたからでしょう? 我慢なさい!」
ペタッとバンソウコウを私の頬に貼って『ハイ、おわり!』と消毒薬や絆創膏を救急箱にしまいながら――…
「あっ! そうだわ、桐ちゃん! 二軒隣のお家の葛西さん、知ってるでしょう?」
「うん! 怖そうなオジサン達がよく出入りしてる大きな家だよね!」
葛西さん家を知らない人が聞いたら間違いなく誤解が生まれそうな言い方だ。
「……そういう言い方は、お外でしては駄目よ? 桐ちゃん」
後、怖いオジサン達は葛西さんの会社の部下の人で、ヤで始まる職業の方々ではないからね? と教えてくれた。
「それで、その葛西さんのお家にね、桐ちゃんと同じ年の男の子がお引越ししてきたの。さっき、葛西さんの奥様とご挨拶に来てくれたのだけど、桐ちゃん遊びに行っていて居なかったでしょう? だから、後で一緒にご挨拶に行かない?」
「うん! 行く行くー!」
私は外側からチラリとしか見た事のない大きな家に興味津々で、男の子とも仲良くなれたらいいな!と思っていた。
それから、葛西さん家にご挨拶に行ったのだけど。今度は、あちらが留守だった。結局、葛西さん家に上がることも無く、男の子に会う事もなく帰宅したのだった。
次の日――…
私が通う公立小学校の三年二組の教室には、ふわふわとした柔らかそうな蜂蜜色の髪の毛に、くりっとした紫に近い黒い目のおっとりした…いや、ぼんやり? そんな雰囲気を持つ小柄な男の子が、担任の先生と一緒に入ってきた。
彼は葛西 結と名乗り、黒板にも先生が――…
かさい ゆい
…――と。白いチョークで大きく名前を書いた。この頃はもう三年生も二学期なのだし、漢字で名前を書いても良かったのでは? と今は思う。おっと、話がズレた。
そう、挨拶に行ったけど留守で会えなかった次の日。葛西さん家の男の子――…結とは同じクラスで出会ったのだった。